ハミルトンはどうしてスタートをミスしたのか
オーストラリアGPを盛りあげた要因の一つにメルセデスのスタートミスがある。特にハミルトンのスタートはひどく大きく順位を落とした。
ではどうして彼はスタートをミスしたのであろうか。
あまり大きく報道されてはいないが、今年大きくルールが変わった部分がある。それがハンドルの後ろにあるクラッチ・パドルである。
通常走行中はハンドルの後ろに装着されているギア・パドルを操作することによりギアチェンジをすることができるので、クラッチを操作することはない。だがスタートではそうはいかない。クラッチを操作する必要がある。
今年このクラッチ・パドルがシングルにしなければならないとルールが変わった。これはどういう意味であろうか。これまでクラッチ・パドルはダブル( 二枚)であった。簡単に説明するとこうなる。
スタート直前、グリッドに停止したドライバーはパドル後ろにあるクラッチパドルを二枚とも手前に引いた状態で1速にギアを入れる。この状態でクラッチは完全に切れている。
シグナルが消えるとドライバーは二枚のパドルのうち一枚をはなす。これで半クラッチ状態になりマシンは動き出す。完全にマシンが動き出すともう一枚のパドルをはなし、これでクラッチは完全につながった状態である。
この半クラッチの位置はフォーメーションラップ中にスタート練習をして、その状態をみてどの程度滑らせるかをエンジニアが決定して、ドライバーに伝えていた。当然フォーメーションラップの前に複数の半クラッチの位置を決めておき、スタート直前にどれを使うかと決めていた。
だから昨年までのスタートで上位陣はあまり大きな順位変動がない。これはスタートでドライバーの技量やミスがつけいる隙がないからである。昨年までにスタートで失敗するときはドライバーのミスではなく、エンジニアの判断ミスである事が多かった。
もちろんクラッチを完全につないだ状態以後は、ドライバーの右足のコントロールにかかっており、そういう意味ではドライバーがアクセルを開けすぎて、ホイルスピンして抜かれることはあった。だがそれほど回数が多くはなかった。
これがクラッチパドルを二枚使うので、ダブルパドルクラッチシステムと呼ばれる。これが今年禁止されシングルパドルクラッチになった。
昨年までのクラッチパドルは完全にスイッチの機能しか持っておらず、オンとオフしか管理していなかった。だが今年は違う。一枚のパドル(実際は二枚のパドルを設置することが可能であるが、二枚のパドルの機能は全く同じでないといけない)となったことで、ドライバーが自分自身で半クラッチの位置をパドルでコントロールしなくてはならなくなった。
つまり以前の足のクラッチと同じ状況になったと考えていい。しかもこれはクラッチに位置を知らせるクリック感を持たせることも禁止されている。だからドライバーは自分の指などを挟んで半クラッチの位置を決めている。
しかもF1のカーボンクラッチは温度や湿度などの影響を受ける、非常に繊細なシステムである。昨年まではクラッチのセッティングもフォーメーションラップ中にエンジニアの指示を受けて変更できたが、昨年の途中から禁止され、しかもクラッチの温度が高いとか低いとかの指示も無線制限の中で禁止された。
これでミスをするなという方が無理である。昨年の状況から見ているとメルセデスのクラッチはフェラーリよりもより繊細であるように見られる。
となると今年は今後もスタートで大きな波乱が見られるかもしれない。メルセデスはスタートミスの原因を調査中であるが、少なくとも昨年よりエキサイティングなスタートが見られるだろう。
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