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ハミルトンの逆襲 Rd.3 ポルトガルGP観戦記

ボッタスがポールポジションを取り、一時はフェルスタッペンにも抜かれて3位になったハミルトンが最後は昨年のポルトガルGPに続き今年のレースでも優勝しました。二人のライバルをコース上でオーバーテイクして、どのように彼の97回目の勝利を手に入れたのでしょうか。予選から振り返ってみましょう。

アップダウンの激しいアルガルベサーキットを攻めるハミルトン

この週末のアルガルベサーキットは風が強く、気温が低く、路面がスリッピーでした。つまりタイヤのグリップは低く、温度を上げるのが難しく、でもタイヤに寿命には優しい路面でした。ただスライドはしやすいのでタイヤが温まる前にプッシュするとグレイニングが出やすい状況でした。

路面は走れば走るほど出来上がってくるので、予選ではあとで走った方が有利です。ただQ3では様子が違いました。風の状況は刻一刻と変化し、数秒あとに通過するだけでも状況が変わるのでドライバーにとってはとても難しいコンディションでした。その為、メルセデスも最速タイムはQ2で記録するほど、Q3はドライビングが難しかったと思います。さらにQ3も最初のアタックの方がタイムが良く、Q2からQ3の終わりにかけて風の影響は強まるばかりでした。

最終的にQ3ではボッタスがポールポジションを獲得。彼はハミルトンやフェルスタッペンよりも比較的アンダーステア気味にセットアップをしていました。ハミルトンとフェルスタッペンはオーバーステア気味のセットアップです。この日のアルガルベサーキットは風が強くかなりトリッキーなコンディションでした。オーバーステア気味のセットアップだと追い風のときにリアが振られてタイムをロスします。実際、フェルスタッペンが幻のポールタイムを記録したQ3最初のアタックで、マシンの挙動を乱してターン4でトラックリミットを超えてしまい最速タイムを抹消されて、予選は3位に終わってしまいました。

ただ予選だけ見るとアンダーステア気味のほうが良かったのですが、このサーキットは回り込むコーナーが多いので、フロントタイヤにより厳しいサーキットレイアウトになります。アンダーステアだとコーナーリングの際によりハンドルをより回す必要が出てきてフロントタイヤへの負荷はオーバーステアよりも増えてしまいます。そうなるとフロントタイヤの消耗がオーバーステアよりアンダーステアの方が厳しくなります。それがレースでもボッタスを苦しめることになります。

レース序盤はマックスにも抜かれて苦しい展開のハミルトン

▽レース序盤は苦戦するハミルトン
スタートは前の3台ボッタス、ハミルトン、フェルスタッペンはうまく動き出し、順位の変動はありませんでした。そして1周目の終わりにライコネンがチームメイトのジョビナッツィに接触してセーフティカーが登場して、レースは一時休止になります。

7周目から再スタートとなったのですが、ここで二位のハミルトンがフェルスタッペンに抜かれて順位が変わります。この時のハミルトンはボッタスによって順位を失いました。セーフティカーがこの周でピットに入るときは、ライトを消します。そうすると隊列のペースは先頭のマシン、このときはボッタスが決めます。アルガルベサーキットは直線が長いのであまり早く加速するとスリップに入られて抜かれる危険性があります。なのでボッタスがいつ加速するかは重要な問題でした。

ここでボッタスは直線に出てから、マシンを左右に揺らしてタイヤを温め、そしてアウト側にマシンを動かします。そのアウト側にはハミルトンがいてボッタスがアウト側に移動してきたことにより、ハミルトンはボッタスの直後につけました。そうするとボッタスがスピードダウンすると接触する可能性があるので、ハミルトンはアクセルを戻します。またこの時、ハミルトンは一瞬後ろを走るフェルスタッペンの位置をミラーで確認しました。

ところがここでボッタスが加速をしました。彼の加速するタイミングは最高でした。ところがハミルトンにとっては最悪のタイミングでした。彼が減速した瞬間に加速されたのですから、加速が一瞬遅れます。ボッタスが加速するのを後ろで見ていたフェルスタッペンは、すぐさま反応し加速します。

減速したハミルトンと加速したフェルスタッペンの差は明らかで、フェルスタッペンはスタートライン前にハミルトンを抜きそうになります。もちろんスタートライン前に抜くとペナルティの対象になるので、フェルスタッペンはちょっとだけスピードを落としハミルトンの後ろに戻りスリップに入ります。この時ハミルトンはイン側を守るためにマシンを動かしました。しかしアウト側の前にはボッタスがいたので、この動きによりフェルスタッペンはボッタスのスリップを使うことができ、さらにスピードを得ることができました。そしてフェルスタッペンはターン1のアウト側からハミルトンを抜いていきました。

ボッタスは自分の順位を守るためとはいえ、チームメイトのハミルトンの加速を邪魔した形になり、ハミルトンは順位を落とすことになりました。

この後、ボッタスを抜いてトップに立つハミルトン

▽ハミルトンの逆襲が始まる
11周目にレースが動きます。この時、フェルスタッペンはセクター2から3でボッタスの直後につけていて、その乱流と強い風の影響を受けターン14でわずかにテールを振ってストレートでの加速が遅れます。そしてハミルトンはストレートでDRSの恩恵を使いながらフェルスタッペンのイン側から抜いていきます。

この時、ハミルトンはセクター2は追い抜きが難しい事を理解しており、前を走るフェルスタッペンとの差を必要以上に詰めようとはしていませんでした。あまり前のマシンに近づくと乱流の影響を受けやすくなりますし、そうなるとタイヤも酷使することになり寿命にも影響します。このようにいつも考えてベストな走りができるとこは、まだまだフェルスタッペンよりハミルトンの方が一枚上手なようです。

▽トップを走るボッタスも苦労していた
ポールを取り、スタートでもリードをキープ、再スタートもうまく乗り切ったボッタスでしたが、実はミディアムを履いた第一スティントではフェルスタッペンやハミルトンほど、ペースがありませんでした。メルセデス側もボッタスの不調の原因がつかめていませんでした。あるときはアンダーステアになり、あるときはオーバーステアになり首尾一貫していませんでした。なのでボッタスはハミルトンをDRS圏外に置いておくことが難しかったのです。

日曜日も風が強くどのドライバーも苦労していました。フェルスタッペンがハミルトンに抜かれたときもリアが振られてしまいました。ハミルトンもバランスには苦しんではいましたが、ボッタスにはついていけていました。そして20周目にDRSを利用してボッタスをアウトから抜いていき、ここでトップに立ちました。

ハミルトンはいつもせめて走るのではなく、チャンスが無いときは確実にタイヤをいたわりながら走りますが、チャンスが来たときはズバッと仕掛けて抜いていきます。特にこの日は風も強く気温も低い状況でタイヤ的には非常にトリッキーなコンディションだったので、ハミルトンのこのドライビングスキルは他のドライバーよりも際立ってしました。

先にアンダーカットを仕掛けたフェルスタッペン

▽先に仕掛けたレッドブル
32周目にフェルスタッペンはボッタスのDRS圏外に外れます。そこで今回はレッドブルが先に仕掛けます。最初で最後のタイヤ交換をして、アンダーカットを狙いました。このときのフェルスタッペンとボッタスの差は1.2秒差。タイヤ交換の時期としては、ハードタイヤに履き替えれば最後まで持つので、いつでも大丈夫な状況でした。フェルスタッペンは新品のハードタイヤを持ち、ボッタスは皮むきしたハードタイヤを持っていました。

ただこの日は路面温度が低く、風も強かったのでタイヤを暖めるのが難しい状況でした。それもハードタイヤを温めるのは至難の業です。本来ならミディアムで苦しんでいたボッタスを先にタイヤ交換させてもおかしくはなかったのですが、ボッタスはこういう状況でタイヤを暖めるのが苦手です。そのため先にタイヤ交換した場合、フェルスタッペンにオーバーカットされる心配があり、タイミングを待っていました。

そこにフェルスタッペンが先に仕掛けてきました。そこでボッタスも次の周にタイヤ交換をします。この時ボッタスはまたもフェルスタッペンのタイヤ交換より1秒余計にかかりました。ところが幸運なことにフェルスタッペンの前で戻ります。しかしながら予想通りボッタスは温まりの遅いハードタイヤではペースが上がりません。ターン3の立ち上がりでリアを振ってしまい、しかもターン4をイン側からアプローチしてしまったので、アウト側からアプローチしてしかも短いバックストレートでDRSを使うフェルスタッペンに抜かれてしまいます。

その後もボッタスは排気管の温度を計測するセンサーに異常がありました。センサーが排気管の温度が高すぎると誤検知し、PUをセーフモードに自動的にしてしまったのです。セーフモードになるとPUが壊れないようにパワーを落とします。2周の間セーフモードで走ったボッタスはここで約5秒を失います。

ハミルトンもフェルスタッペンをカバーするために、ボッタスの次の周にタイヤ交換します。ハミルトンもアウトラップでタイヤの温度に苦しみますが、2位との差が4秒もあったことからフェルスタッペンの脅威にさらされることはありませんでした。その後も平均するとハミルトンのほうがフェルスタッペンよりも速く、フェルスタッペンはハミルトンに仕掛けることは叶いませんでした。

最後に1ポイントを取りに行ったが、またもタイム取り消しになったフェルスタッペン

▽1ポイントを巡る争い
そして最後の最後にファステストラップの1ポイントを目指す争いが起こります。最初に4位のペレスが51周目にソフトタイヤに交換してファステストラップを記録します。ただこれはペレスにファステストラップを取らせるというよりも、メルセデスへの餌だったように思えます。本気でペレスにファステストラップを狙わせるのであれば、もう少しゴール間近である必要があります。その方が燃料も軽いですし、路面のグリップも上がってくるからです。

そして3位のボッタスが残り3周になった63周にソフトタイヤに履き替えて、その2周後に記録を更新します。これはボッタスはタイヤの温めに難があるので、1周ウォームアップのラップを挟んだと見て良いでしょう。

そしてボッタスがタイヤ交換したのを見て、最後にフェルスタッペンが残り2周でタイヤ交換し最速タイムを記録します。本来ならボッタスが残り2周でタイヤ交換すればフェルスタッペンはタイヤ交換する機会がなかったはずです。ただボッタスがアウトラップでタイヤ温度を上げられなければ、もう一周が必要になるのでメルセデスは余裕を見て、ボッタスに残り3周でタイヤ交換をさせたのでしょう。

ただレッドブルはメルセデスの判断をミスを活かすことはできませんでした。最終ラップで最速ラップを記録したフェルスタッペンはターン14でトラックリミットを超えてしまい、その最速ラップの記録は抹消されてしまい、最速ラップの1ポイントはボッタスのものになりました。ただドライバーズチャンピオンを考えるとフェルスタッペンはその1ポイントがハミルトンにいかなかったので、それほど大きなダメージにはならないでしょう。フェルスタッペンにとってライバルはボッタスではなく、ハミルトンですから。

2位のフェルスタッペン以下が二度目のタイヤ交換をしたのでハミルトンは2位に30秒もの大差をつけてフィニッシュしました。それにしても2位からスタートし、一時は3位に落ちたにも関わらず優勝できるハミルトンはさすがとしか言いようがありません。

このレースではレッドブルよりもメルセデスが速く、戦闘能力が逆転したように思えます。ただ最初にお話ししたように、昨年の路面再舗装の影響がまだ残っており、昨年よりは改善されましたが、とてもスリッピーな路面の影響がありました。また強い風がランダムに向きを変える状況で、条件は同じとはいえフェルスタッペンにより不利に働いたように思えます。だから本当の力関係がどう変化したかは、次のスペインGPを見ないとなんとも言えないと思います。

ただシーズン前テストであれほどリアの不安定感に悩まされていたメルセデスがこれだけ短期間に改善してきたことは驚きです。レッドブルとメルセデスとの競争力の差はさらに縮まったことは間違いないでしょう。もうマシンの戦闘能力だけで勝つことは、メルセデスもレッドブルも出来ません。それにプラスとしてドライバーの判断も含めた能力やチーム側の週末を通した作戦面まで完璧に仕上げないと勝てないほどレベルの高い戦いが続きそうです。次のスペインGPも楽しみですね。