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近くて遠いメルセデスの影 ベルギーGP観戦記

▽接戦のように接戦でなかったメルセデスとレッドブル
フェルスタッペンがレース後に退屈なレースだったと述べた通り、このレースが人々の記憶に残ることはないでしょう。予選でのメルセデスとレッドブルとの差はこれまでよりは少なかった。でもそれでもレッドブルがメルセデスに勝つのは難しかったでしょう。それは晴れても雨が降ってもです。それではベルギーGPを振り返ってみたいと思います。

▽天候に影響されたセッティング
この予選ではポールのハミルトンとフェルスタッペンの差は約0.5秒。これまで1秒近い差をつけられていたことを考えると健闘したとも言えます。レースではいつもこの差は縮まりますから、フェルスタッペンも予選後に話していた通り、レースは面白くなるかに思えました。ところがレースではいつものようにメルセデスが独走して1-2。どうしてこのようになったのでしょうか。

実は土曜日の時点では、レースが行われる日曜日には雨が降る可能性がありました。このこと自体はスパでは普通のことで、いつも天候は不安定です。メルセデスが考えたことは、日曜日に雨が降った場合でも勝てるようにすることでした。彼らはダウンフォースを増やす方向でセットアップしました。雨が降ると、当然ダウンフォース量が多い方が有利だからです。ただ他のライバル達はいつものようにダウンフォースを減らしてきました。理由はトータルで見るとこの方がタイムが出るからです。ただしドライでは。

つまりメルセデスはダウンフォースをつけて予選タイムを多少犠牲にしても、三番手以下に予選で負けることはないと考えて(つまりそれだけ余裕がある)、しかもダウンフォースつけた方が日曜日のレースでもし雨が降っても勝てる可能性があると考えて、ダウンフォースを多くするセッティングにしました。これは写真のリアウィングの立ち方を見ても一目瞭然です。

だから予選でハミルトンとフェルスタッペンとの差が一見、縮まったように見えたのは、メルセデスがタイムを犠牲にして、雨のレースに対応したからなのです。それでも0.5秒も差があるですから、メルセデスとレッドブルの戦闘能力の差がいかに大きいかはよくわかると思います。

レースでもフェルスタッペンが2位のボッタスに迫る場面もありましたが、メルセデスがペースを上げるとついていくことはできませんでした。

つまり雨でも降ればレースが面白くなるとも言われていましたが、雨が降ってもメルセデスが速いのは間違いなかったと思います。もちろん雨が降れば不確定要素が増えるので、そういう意味で結果が変わった可能性ありますが、メルセデスが晴れても雨が降っても速かったのは間違いないでしょう。

いつも心配なメルセデスのタイヤのブリスターもこの日は涼しくて問題ありませんでした。タイヤの内圧もシルバーストーンの二戦目よりは低かったので、それも有利に働きました。こうなればメルセデスを止めるものは何もありません。こうしてベルギーGPは淡々と進んでいきました。

そんなレースでしたが、一度だけフェルスタッペンがボッタスを抜きそうな場面がありました。セーフティカーが登場しタイヤ交換した時です。メルセデスは1位と2位だったので二台同時に入れると、ほんの僅かですが2位のボッタスがハミルトンのタイヤ交換を待つ時間がありました。その際にフェルスタッペンは待つことなくタイヤ交換を終えてピットロードに戻ります。ここでフェルスタッペンはボッタスの直後につけました。もしメルセデスのタイヤ交換がほんの僅かでも遅れていたら、ボッタスはフェルスタッペンの前で戻ることはできなかったでしょう。ただそうなった方がレースは面白くなったのは間違いありませんが。

▽タイヤ戦略
このレースでのベストなタイヤ戦略はミディアムでスタートし、ハードでフィニッシュするワンストップでした。ただソフトタイヤでQ2を突破したドライバー達は当然ソフトスタートでした。だからオープニングラップでのリカルドは何が何でもフェルスタッペンを抜きたかったところでした。ソフトタイヤは軟らかすぎて数周もすればタイムが大きく落ちるからです。実際、リカルドはこの後、フェルスタッペンに徐々に引き離されることになります。

ここでタイヤ戦略に大きな影響を及ぼすセーフティカーが10周目に登場します。ジョビナッツィのクラッシュにラッセルがまきこまれてセーフティカーが出場しました。ここで上位陣はほぼすべてタイヤ交換をします。アルボン以外はハードタイヤに交換します。残り33周もありましたが、ほとんどのドライバーができればこのタイヤで最後まで走りたいと思っていましたし、実際そうなりました。

ソフトスタートにせよミディアムスタートにせよ、ワンストップで行きたいのは変わりないので、この早めのセーフティカー登場はタイムが落ちていたソフトタイヤ勢には幸運でした。ミディアムを履いたドライバーはレース中盤まではいけたので、もう少し走ってからタイヤ交換したかったはずです。

しかしメルセデスはこの時点でフェルスタッペンがタイヤ交換し、彼らがステイアウトした後でセーフティカーが出なかったら、フェルスタッペンに逆転される可能性もあったので入らざるを得ませんでした。一方のフェルスタッペンもここで入らないギャンブルをするにはリスクが大きすぎました。

ただこの早めのワンストップはフェルスタッペンに関していうとギリギリの状態でした。レースの最後にはほとんどトレッドのゴムが完全摩耗した状態でした。なので最後の最後にルノーのリカルドに追い立てれましたが、なんとか3位のポジションは守りきることはできました。

▽好調なルノー
ルノーのパワーユニットはかなり改善しているようです。この有名な高速コースであるスパで最高速のトップ6はすべてルノーPU搭載マシンでした。もちろん最高速はパワーユニットのパワーだけで決まるわけではありません。ルノーPU搭載マシンは比較的ダウンフォースが少なめなので有利に働いたことは間違いありません。とはいえPUのパワーがなければトップスピードが出ないことも確かです。

またルノーで驚いたことは彼らがダウンフォース少なめのセットアップにしていたにも関わらずハードタイヤで第2スティントを余裕を持って走り切れたことです。10周目に登場したセーフティカーにより残り33周をハードタイヤで走りきる条件は上位陣ではみんな平等でした。

ところがフェルスタッペンは最後にはタイヤを完全に使い切っており、リカルドは最終ラップでファステストラップを記録し、あと3秒まで迫りました。これは残り3周で10秒差があったことを考えるとすごいラストスパートです。

彼らはマシン側の最適なセットアップのポイントを見つけたのだと思います。スパは第1セクターと第3セクターはひとつしかコーナーがなく実質ストレートです。第2セクターは中高速コーナーが多くダウンフォースが必要になります。このバランスを取るのがとても難しいのですが、彼らは最適なスイートスポットを見つけたのでしょう。

それだけにリカルドが渋滞に巻き込まれてタイムを失わなければ、逆転の3位もあり得ただけに希望は持てるけど、すこしがっかりしたベルギーGPになりました。

ただ次のイタリアGPであるモンツァもカレンダーの中では有名な高速サーキットですので、ルノーワークス復帰後初の表彰台もあるかもしれません。