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勝者なきベルギーGP ベルギーGP観戦記

17年間1レースも落とすことなく、続けてきたこの観戦記。個人が書き続けているブログの世界記録でギネスにでも載せてくれないかと思ったりもしますが、ついに終わりかと思いました。レースがされてないのに観戦記なんて書けないと思っていましたが、少々思うこともありましたし、予選Q3の争いはレースとは違いまた興味深かったので書くことにしました。それではレースなきベルギーGPを振り返って見ましょう。

 水煙が飛ばないので、フェルスタッペン以下は視界ゼロでのドライビング

▽レースはできたのか?できなかったのか?
まずは3周で終わったレース?(あれをレースと呼べれば)ですが、これはしかたなかったと思います。あのコンディションでレースをするのは、あまりにも危険でした。雨は小降りになったときもあり走れないわけでもなかったのですが、スパはご存知のように森の中にあるので、コース脇が木々で覆われています。なので巻き上げられたウォータースプレーが風で飛ばないんですよね。だからコース上に長時間とどまります。

テレビを見ていた方は、よく分かると思うのですが、セーフティーカーの後ろのフェルスタッペンこそ、かろうじて見えてましたが、二番手以降のドライバーは真っ白な水煙の中に隠れて全く見えてませんでした。

この状態でレースをしてもクラッシュするのは当然で、大事故にならないように祈るしかなかったでしょう。

▽競争なきレース成立
ではセーフティーカー先導で3周目でレース終了を宣言して、強引にレース成立というやり方はどうだったでしょうか。これもある意味しかたなかったと思います。レースの主催者の手元に入るお金は基本的に入場料だけです。だからこのイベントをキャンセルとなれば当然、チケットを払い戻さなければなりません。

となると主催者の経営が悪化して、来年のベルギーGPはなくなるかもしれません。これは脅しとかではなくて、今までも世界中でF1を開催しながら、経営がうまくいかなかった主催者は枚挙にいとまがありません。

ハミルトンがチケットを払い戻すべきだと発言していましたが、これは確かに正論ですが、チケットを払い戻したとしても、それをF1の運営団体が補填してくれるわけでもないですし、テレビ局が補填するわけもないですし、ましてや高額のサラリーをもらっているドライバーがその一部でも負担するわけでもないですよね。

なので現地に行かれた観客の皆さんには同情しますが、これもまた仕方ないのではないかと思います。この種のイベントのチケットには、開催されない場合も払い戻しはありませんと明記してあるのが普通です(だから許されると言いたいわけでもありません)。

この日もっとも損害を被ったのが観客であることに間違いはありません。日曜日はサーキットまで大渋滞が発生。通常のレーススタート時間に間に合わなかった人も多かったと聞きます。レーススタートが遅れて、スタートには間に合ったのですが、いつ始まるかとか、どういう状況なのを知らされることもなく、じっと待ち続けたファンには頭が下がる思いです。

雨の富士にいかれた方は、彼らの気持ちがよく分かると思います。

ホンダにとって、レッドブルと組んで50戦目の記念すべきレースだったのですが

▽月曜日開催の可能性は?
では日曜日は無理でも、月曜日に決勝レースを開催することはできなかったのでしょうか。これもなかなか難しい状況でした。F1はあくまでも金曜日から日曜日開催で組み立てられます。だからボランティアのコースマーシャルの方々も日曜日が終われば帰るわけです。いきなり月曜日にレースとなっても、必要な数を集めるのは難しいのがわかります。

確かにアメリカでは月曜日にレースを順延することはあります。ただオーバルのレースは雨降ると基本中止なので、元々月曜日に順延することがプランにあるのだと思います。

鈴鹿で何度か台風や雨の影響で、土曜日の予選を延期して、日曜日に予選と決勝をやったことがありますが、土曜日のイベントを日曜日にするのと、日曜日のイベントを月曜日にするのでは、その難易度が格段に上がるのですね。

さらにF1チームの移動の問題もありました。ベルギーの翌週はオランダGPです。この二箇所は距離的には近いのですが、連続開催なので日曜日のレースが終わればすぐに片付け始めて、月曜日には移動を開始しないと次のレースには間に合いません。

そうするとやはり月曜日にはレースするのは難しくなります。

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▽ラッセル一世一代のアタックラップ
ではレースもしていないのにポイントが与えられるのはどうなのという意見もあるでしょう。でもこれはルールなので、これも仕方ないですよね。レースが成立したと宣言しているわけですから、半分のポイントにはなりますが、ポイントを与えないと世界選手権として成り立たなくなります。

それに少なくとも土曜日は予選ができたわけで、そこで順位がついているわけです。ラッセルがレースしてないけど表彰台って気分はどう?と聞かれて、そんなの関係ないよって答えていましたが、そのとおりだと思います。

彼の予選の走りは、あまりにも見事で、称賛の声しか出てきません。いくら雨だったとしても、条件は他のドライバーも同じですから。あのウィリアムズで予選2位は快挙としか言いようがありません。路面状況がどんどん改善しているQ3で、上位3人で最初にタイムを記録したのはラッセルです。その後からアタックしたハミルトンより早いというのは、ハミルトンがタイヤのウォームアップに悩まされていたことを差し引いても偉業としか言いようがありません。

予選Q3での二人の作戦はかなり違っていました。メルセデスはアタックして、一回クールダウンラップを入れて、最後にアタックする作戦です。一方のラッセルは、一回だけのアタックです。ただこれはかなりギャンブルな作戦です。雨雲レーダー的にはQ3後半にコンディションが回復すると見られていましたが、実際どうなるかはその時になってみないとわからないのが、スパウェザーです。

雨の予選でのセオリーは走り続けられる限り、走り続けろです。長時間走るには多くの燃料が必要で、重くなるのは間違いありませんが、雨の場合は路面コンディションが絶対です。燃料が重くても路面コンディションが改善されれば1秒や2秒は簡単に稼げます。

それでも最後に一度だけのアタックを選んだのは、ウィリアムズが失うものがないからです。作戦が成功するにせよ失敗するせよ、もうQ3まで来ているわけですから10位以内は確定ですから、それだけでもウィリアムズにとっては十分で、それ以上はボーナスでしかないですから。

予選3位が精一杯だったハミルトン

ラッセルは1回だけのアタックにすることで、タイヤの一番美味しい部分をコンディションの改善したQ3最後に使うことができました。ハミルトンは二回目のアタックだったので、タイヤ的には一回目よりは状態がよくありません。またハミルトンはチャージラップを挟んだことでタイヤの温度を下げすぎてしまいました。だから彼はターン1でフロントタイヤをロックさせて、クリッピングポイントにつけられませんでした。しかも立ち上がりでも加速が鈍くなりました。ここは重要な部分です。

このあとはケメルストレートが終わるまでは、F1にとってはほぼ直線なわけです。つまりここでクリッピングポイントにつけないということは、加速するタイミンが遅くなり、このあとの直線スピードに大きな影響があります。最終的にダウンフォースの少ないハミルトンの直線速度はラッセルより速いのですが(ハミルトン311Km, ラッセル304Km)、そこに到達するまでの時間がかかり、本来であればハミルトンはこのサーキット前半部分でタイムを稼ぎたいところだったのですが、ここでラッセルとほぼ同タイムだったのが、全体のラップタイムに大きく影響し、最終的にハミルトンは予選3位となったわけです。

それにハミルトンのアタックラップは、ラッセルより保守的でした。ラッセルは積極的に縁石を使い走っていましたが、ハミルトンは縁石を使うのは最小限度にとどめていました。これはタイヤの状況が良くなかったので保守的にいったということありますし、予選でアグレッシブにいきすぎてタイムを失うことを恐れたのかもしれません。この状況で縁石を使うのはかなりギャンブルであるのも間違いありません。実施ポールポジションのフェルスタッペンも縁石を使うのに慎重でした。だからこの予選結果はラッセルのスーパーラップによる部分が大きいわけです。これで彼が来年、メルセデスに乗らなかったら驚くほかありません。

ではラッセルとフェルスタッペンの違いはどこにあったのでしょうか。実は最後のシケインまでは二人はほぼ同タイムでした。そこに来るまで、ラッセルはきちんとマシンを止めて、曲げて、コースを幅広く使いながらタイムを稼いでいました。特にターン1でのブレーキングは見事でした。ハミルトンやフェルスタッペンより遅くブレーキング開始しているのに、きちんと止める技術はすごいですね。フェルスタッペンもターン1で飛び込みすぎたのですが、ハミルトンほどキャリースピードを落とさなかったので、彼ほどのタイムロスはありませんでした。

このあともフェルスタッペンはどちらかというと限界を少し超えてコーナーに飛び込みタイムを稼ぎ、そのあと無理やり曲げてタイムを失う走りでした。フェルスタッペンは路面の状況を試すために、攻めて走り、失敗したときは自分のテクニックとマシンのダウンフォースでリカバーしている印象です。ただ最後はフェルスタッペンさすがでした。最終シケインの飛び込みでは、ドンピシャでマシンを止めて、ターンインしていきます。一方のラッセルは少しだけ、飛び込みすぎて、少し遠回りのコーナーリングを強いられます。こうなるとラッセルはそのあとの立ち上がりの加速が鈍くなり、タイムを0.3秒ほど失うことになりました。ただウィリアムズとレッドブルのマシンの性能差、ダウンフォースの量を考えれば、このラッセルの走りとタイムは物理法則の限界を超えていると言ってもいいほどのスーパーラップでしたね。

ですからラッセルの表彰台にはなんの違和感もありません。確かにハミルトンには不満が残ったでしょう。なにもしなくて5ポイントもフェルスタッペンとの差が縮まったのですから。ただあのコンディションでレースやっても、誰かがクラッシュして赤旗がでるのは確実でした。そしてあの状況では、トップを走るフェルスタッペンが圧倒的に有利です。マシンのセットアップを見ても、あのコンディションでは、ダウンフォースが大きいレッドブルのほうが圧倒的に有利でしたから、さすがのハミルトンもあの状況でレースをやれば苦しかったと思います。

実際、予選のアタックラップを見る限りメルセデスは直線では速いのですが、コーナー、特に高速コーナーではタイムを失っていました。つまり彼らはどちらかというとドライとウェットセットアップのややドライ寄りを選択していました。だから日曜日に雨が上がり、ドライ路面に変わる状況だったらハミルトンは優勝していたでしょう。しかしながら雨が降り続いたあの状況でレースを続ければ、ハミルトンが3位をキープできたかは怪しいと思います。もちろんそこを何とかするのがハミルトンでもあるのですが、今回ばかりは諦めるしかないでしょう。

これでハミルトンとフェルスタッペンのポイント差は、わずかに3ポイント。ほぼ同点状態で、後半戦に突入します。チャンピオン争いは振り出しに戻ったわけで、ますます面白くなりましたね。

今回のレースをしなくて、ポイント以外でもフェルスタッペンはかなり得したと思います。距離を走らなかったことによりPUのマイレージを大きくセーブすることができました。日本GPがキャンセルされたことや他のGPもキャセンスの可能性もあることを考えるとPUの追加交換を最低限にすることができるかもしれません。

直線重視のセットアップに苦しんだハミルトン

▽忙しすぎるF1よ、どこへ行く
こうして誰にも得にならないベルギーGPは終わりました。正直言うと今のF1は開催レース数が多すぎますよね。だから余裕がありません。F1の場合、大量の荷物を運ばなければならないので、サッカーや野球みたいに中止したから別の日程に延期とは簡単にできないんですよね。早ければ数ヶ月前から荷物を現地に贈り始めたりしますから。特に二週連続開催とかになるともう移動スケジュールがパツパツで、どうしようもありません。昔みたいに10月にはシーズンが終わっていれば、11月に延期するとかもできたのでしょうけど。

確かにF1にお金が入るのは悪いことではありませんが、あまりもそれにとらわれてしまうと、誰も幸福にならないと思います。ファンあってのF1ですからね。

それにレース数を絞ってプレミアム感を出すというやり方もあるわけで、このベルギーGPが今のF1のあり方に一石を投じてくれれば、まだ観客もうかばれると思うのですが。