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レッドブルの逆襲 フランスGP観戦記

カレンダーに復活してからメルセデスの独壇場だったフランスGP。今年も同じような退屈なレースになることも予想されましたが、レッドブルの大胆な作戦のおかげで、見ごたえのあるレースになりました。先月開催されたスペインGPと同じレースを見ているかのような作戦。ただし今回優勝したのはレッドブルのフェルスタッペンでした。日曜日の朝に降った雨、軽いリアウィングと重いリアウィング、ワンストップとツーストップと別れた判断が勝負を分けました。それではエキサイティングだったフランスGPを振り返ってみましょう。

ホンダに29年ぶりの三連勝をもたらしたフェルスタッペン

▽大きな影響があったレース当日の雨
日曜日の朝に降った雨が路面に乗ったラバーを洗い流し、それがレースに大きな影響を与えました。レーススタート時に路面は完全に乾いていて、レースには影響がないと思われたのですが、この雨がレースに決定的な影響を与えました。

このフランスGPもレース前はワンストップレースが予想されていました。フリー走行で得たデータではその通りでした。しかし朝の雨がすべてを変えてしまいました。ラバーがなくなったことにより、路面のグリップは劇的に変化しました。そのせいでレース中に滑ってグレイニングが多発し、ドライバーからも多くの報告が上がっていました。

レース前にはワンストップで行ける予想でしたが、タイヤのデグレは予想以上にひどく、その証拠に最初のタイヤ交換時に3.2秒差があったハミルトンがタイヤ交換した時にフェルスタッペンに逆転されました。これは通常ならアンダーカットから順位を守れる差ですが、予想以上にタイヤのデグレが大きくさすがのメルセデスも予想を外すことになりました。

ポールから飛び出しターン1へ飛び込むフェルスタッペンだったが、この直後コースアウトしてハミルトンにリードされる

▽レース序盤の強風に苦しむレッドブル
フェルスタッペンはいいスタートを決めて、トップでターン1に飛び込み、ハミルトンをブロックする必要すらありませんでした。これで主導権を持ってレースが進められると思った瞬間にターン1の出口でリアが流れてコースを外れ、ハミルトンにトップの座を譲ります。これはフェルスタッペンのミスと言うよりも、レース序盤に吹いていた強風の影響によるものです。この強風の影響はメルセデスよりもレッドブルのほうが大きく、ペレスが序盤にトップ3台から引き離されていたのも、強風により運転が難しかったからです。これには、彼らがメルセデスよりも軽いウィングを使用していた影響もあったと思います。

その風の影響もあり、レースペースはメルセデスのほうがよく、ハミルトンはフェルスタッペンを徐々に引き離します。1周目のハミルトンとフェルスタッペンの差はフェルスタッペンがターン1で飛び出しこともあり、1.5秒差。その後も1周あたり平均0.1秒差が広いていきます。ただハミルトンが好調というわけではなく、彼もまたタイヤには苦しんでいました。

先程述べたように日曜日の朝に降った雨で路面のラバーが流されたことと、日曜日は金曜日や土曜日より路面温度が10度も低くなりました。日曜日には朝に雨が降り、レース中も雲が多く、また風が強いコンディションとなり、ドライバーはタイヤマネージメントに苦しむことになります。これは特にレッドブルに顕著に現れて、フェルスタッペンのスタートタイヤだったミディアムは、ハミルトンのダーティエアの影響もあり、メルセデスよりも早くなくなっていきます。

この日もいい仕事をしてフェルスタッペンの勝利をアシストし、自らも表彰台に登ったペレス

▽タイヤ交換とペレスのポジション
予想以上にタイヤが厳しくなってきた上位3台のうち、最初にタイヤ交換したのはボッタスでした。すかさずアンダーカットを避けるために2位のフェルスタッペンがタイヤ交換に入ります。同じ周にメルセデスもハミルトンをタイヤ交換させるかと思われましたが、ステイアウトさせました。これはフェルスタッペンがタイヤ交換しなかった場合、ポジションを失うことを恐れたからでしょう。ただこの日の路面状況は予想よりも遥かに悪く、オーバーカットよりもアンダーカットの方がタイムを得ることができていました。

フェルスタッペンがタイヤ交換したときのハミルトンとの差は3.2秒。普通ならアンダーカットされる差ではないです。当然、メルセデスもそう考えたと思います。ところがハミルトンのタイヤは想像以上に落ちていたことと、フェルスタッペンのアウトラップが素晴らしかったことがあわさり、最初のタイヤ交換でトップが交代しました。

ただここでメルセデスだけを批判するのも違うかなと思います。実際、二台の差はほとんどなく、0.1秒でもハミルトンが早ければトップで戻っていたかもしれません。そしてハミルトンはタイヤ交換後の動き出しで、多くホイールスピンをしていました。

この時、4位を走っていたペレスはタイヤ交換競争からは距離を起き、そのまま24周目まで走り続けました。最初の10周は風の影響もありペースが上がらなかったペレスでしたが、その後は風が収まったこともあり、ペースを取り戻しタイヤ交換競争前にはトップから10秒遅れの位置にいました。そしてこれがメルセデスがギャンプルに出ることを抑制し、その後に大きな意味を持ちます。

二度目のタイヤ交換をして、中古ミディアムで飛び出すフェルスタッペン

▽タイヤ交換の明暗
ボッタスの第一スティントも悪くはありませんでした。フェルスタッペンを抜くことはできませんでしたが、DRS圏内に入りフェルスタッペンにプレッシャーをかけ続けます。ところがボッタスは12周めに大きなミスをして、約1秒を失いないます。

そしてタイムロスよりも、このミスで右フロントタイヤにダメージを与えて、ボッタスはバイブレーションに悩まされます。それまでは1秒ほどの差でフェルスタッペンにつけていましたが、その後は離されてタイヤ交換時には5.5秒にも広がっていました。

このバイブレーションは徐々にひどくなり最後にはマシンにダメージを与えかねないほど悪化しました。それによりボッタスはレース前の予想より早くタイヤ交換することになります。

もしボッタスが早くタイヤ交換していなければ、フェルスタッペンも当然もう少し後にタイヤ交換するわけで、そうすればハミルトンとフェルスタッペンの差はもう少し開いていたわけです。そうすればハミルトンがタイヤ交換でフェルスタッペンに抜かれることもなかったわけです。

フェルスタッペンがタイヤ交換をするときの、ハミルトンとの差は3.2秒。そしてフェルスタッペンの次の周にハミルトンがタイヤ交換します。この時ハミルトンのタイヤ交換時間は2.2秒。フェルスタッペンよりは0.1秒早いタイヤ交換でした。最近、タイヤ交換でミス続きのメルセデスですから悪い数字ではありません。

ところがハミルトンがタイヤ交換を終えて、コースに戻るとほんのわずかの差でフェルスタッペンがトップに立ちました。もしメルセデスがフェルスタッペンと同じラップにタイヤ交換していれば、フェルスタッペンに抜かれることはなかったでしょう。メルセデスは3秒あれば大丈夫だと思っていたのが、結局それは計算ミスで、大きな代償を払うことになりました。

この日は終始後手に回ったメルセデスとハミルトン

▽レッドブルの大胆な作戦変更
ただそれでもレースペースは第一スティント同様メルセデスのほうが早く、フェルスタッペンはハミルトンを引き離すことができません。そしてフェルスタッペンのタイヤが厳しくなってきます。朝に降った雨の影響で、路面は想像以上にグリップせず、タイヤのデグレは予想よりも遥かに厳しかったのです。

ただタイヤに厳しいのはフェルスタッペンだけではなく、ハミルトンもボッタスも同じでした。フェルスタッペンがタイヤが厳しいと話しているよと言われたハミルトンは、「僕もそう思う、このタイヤで最後まで行くのは難しい」と返信しています(いつもハミルトンはこう言いながら最後まで持たせているので、言葉通りに受け取るわけにはいけませんが)。

ただ3台ともタイヤに厳しいのは確かでしたが、作戦的にはワンストップが最速と思われていたので、誰も二回目のタイヤ交換に入れませんでした。フェルスタッペンは有利なトップを渡したくなく、ハミルトンとボッタスはフェルスタッペンに接近していてコース上で抜けることを期待していました。

そこで32周めにフェルスタッペンが先に動きました。なんと予想に反してツーストップに切り替えたのです。ただこれはスペインGPでハミルトンがタイヤ交換したときとは状況が違います。あのときハミルトンは2位でした。だから二回目のタイヤ交換しても、失うものはありませんでした。ところがこのときはフェルスタッペンはレースをリードしているわけですから、タイヤ交換してしまうとハミルトンがレースをリードし、自由に速く走れるチャンスを与えることになります。

ただチームは、マシンから送られてくるデータやフェルスタッペンからのフィードバックから、最後までタイヤは持たないと判断し、フェルスタッペンに二回目のタイヤ交換を命じます。

ほとんどのドライバーがワンストップのところ、ツーストップを成功させたレッドブル

フェルスタッペンが2回目のタイヤ交換後、ハミルトンとの差は18秒でした。可能性としてはハミルトンもフェルスタッペンの次のラップにタイヤ交換する選択肢もありました。ただこの時、ペレスの位置がとても重要な意味がありました。このフランスGPでレッドブルは小さめのリアウィングを搭載していました。そのため強力なホンダPUと相まってストレートが速く、重いウィングを載せたメルセデスはDRSを利用してもレッドブルを追い抜くことは難しかったのです。実際、第二スティントでフェルスタッペンよりペースの良かったハミルトンは抜くことができませんでした。この時ハミルトンがタイヤ交換すれば、フェルスタッペンとペレスの後に戻ることになり、それはペレスの後ろでスタックする可能性がありました。

しかもフェルスタッペンはアウトラップと次のラップで、合計5秒もハミルトンとの差を縮めました。そうなるともしハミルトンが2回目のタイヤ交換しても5秒以上も後ろで戻りながら、ストレートが速いペレスをコース上で抜かなけれがなりません。となるとメルセデスが取るべき作戦は、ステイアウトだけでした。

そして35周目にフェルスタッペンはペレスに追いつきますが、ペレスはフェルスタッペンを簡単に前にいかせます。その8周後、フェルスタッペンはボッタスに追いつきます。

タイヤの厳しいボッタスはフェルスタッペンに抵抗することもできず、あっという間に抜かれてしまいます。バックストレートの中間にあるシケインのターン8でインを守ったボッタスでしたが、タイヤが厳しくターン8で曲がりきれずに奥まで突っ込んでしまいます。そしてその後の立ち上がりのターン9での立ち上がりがタイトになり加速が鈍り、フェルスタッペンに簡単に抜かれてしまいます。少しはボッタスがフェルスタッペンを抑えてくれると期待していてメルセデスはがっかりだったでしょう。ボッタスを抜いたときのフェルスタッペンのラップタイムは前の周よりたったの0.3秒しか遅くありませんでした。これほどまで簡単にボッタスが抜かれるとは予想していなかったでしょうから、メルセデスにはショックだったと思います。

ハミルトンが無線で、フェルスタッペンがいつ頃追いついてくると問いかけた時に、チームはそれはボッタスがどれくらいフェルスタッペンを抑えるかにかかっていると答えていただけにね。

この時、残り9周でハミルトンまで5.2秒。フェルスタッペンがハミルトンに追いつくのは時間の問題と思われましたが、そう簡単ではありませんでした。ハミルトンはここから疲れたハードタイヤを使って、ペース上げてフェルスタッペンとの差をキープしようとします。このハミルトンの走りは見事でした。一時、フェルスタッペンがハミルトンに追いつくのは難しいのではないかと思うほどでした。

ただ最後は疲れ果てたハードタイヤではハミルトンでも対抗することが難しく、あと2周でフェルスタッペンはハミルトンに追いつきます。そしてボッタスと同じようにバックストレートの中間にあるターン8でハミルトンのインに飛び込みます。この時ハミルトンはインを抑えることもできたでしょうが、それはしませんでした。もうハミルトンのフロントタイヤは完全に終わっていて、イン側からアプローチするとボッタスと同じで立ち上がりが苦しくなりタイムをロスします。そしてそれは3位から急追してくるペレスとの差を縮めることになってしまいます。それにここでフェルスタッペンを抑え込んでも、どのみち抜かれていただろうとハミルトンはレース後に述べています。

こうしてレッドブルとフェルスタッペンのギャンブルは成功しました。ただこれはかなりタイトな作戦だったことは間違いありません。フェルスタッペンがもう少しバックマーカーを抜くのに戸惑っていたら、もしフェルスタッペンのタイヤ交換があと1周遅かったら、そしてボッタスがもう少し粘っていたらとか考えると、かなりギリギリの逆転劇でした。余裕の逆転勝利とはとても言えません。

それに負けたとはいえ、完全に終わったタイヤでペレスを抑えて2位になったハミルトンも素晴らしい走りでした。そして3位になったペレスもアゼルバイジャンGPに続いて、いい仕事をしましたね。

メルセデスの期待を裏切ったボッタス

▽ボッタスはなぜタイヤ交換しなかったのか
ペレスに抜かれ4位になったボッタスは、5位とは大きな差があったのでフリーストップできる状況でした。普通なら、タイヤ交換してファステストラップの1ポイントを狙いに行くはずです。ただ彼らはそれを実行しませんでした。

それはペレスがボッタスを抜いた時に、ペレスが4輪ともコース外を走ったからで、これによりペレスに5秒加算のペナルティが出る可能性がありました。結局、ペレスにペナルティは出ませんでしたが、もしタイヤ交換をして5秒よりペレスとの差が広がれば、順位を逆転することはできないので、メルセデスはボッタスのタイヤ交換をしないことを選択しました。

アンダーカットを成功させ、第2スティントでリードするフェルスタッペン。この後二度目のタイヤ交換を実施する

▽タイトル争いできるマシンを手に入れたマックス
このフランスGPはカレンダーに復活してから、2年連続でハミルトンが勝利しています。そしてそのほとんどの周回(106周中105周を)でハミルトンがリードラップをとっているメルセデスが大得意とするサーキットでした。

そのポールリカールでレッドブル・ホンダが真っ向勝負でメルセデスに勝利したのは大きな意味を持ちます。今回、レッドブルは軽いリアウィングを使用していましが、これでコーナーを犠牲にしているわけではありません。セクター3の中高速コーナーが連続する区間ではメルセデスよりも速いくらいでした。

これはレッドブルがアンダーフロアでメルセデスよりも、より多くのダウンフォースを生み出していることを意味します。そしてホンダのパワーユニットも、少なくともメルセデスと同じだけのパワーを出せることを、今回見せてくれました。

つまりレッドブル・ホンダはタイトルを争えるマシンをフェルスタッペンに提供できているという証明です。レッドブルが三連勝するのは、ハイブリッド時代になってからは初めてです。

ペレスが調子を上げてきたことも、レッドブルとフェルスタッペンにとっては有利な条件です。まだタイヤの厳しいサーキットや温かいコンディションではメルセデスの方が有利でしょう。そして勝利が間違いなかったシンガポールGPがキャンセルされたことはレッドブルには痛手です。

ご存知のように今年から風洞を利用できる時間が、コンストラクターランキングの順番が上がるにつれて、少なくなります。そしてこれまでは昨年の順位で決まっていましたが、7月以降は6月末日時点での順位により決まります。つまり7月以降、メルセデスはレッドブルより風洞をより長く使えます。

そう考えると、今シーズンの今後はすべてのレースでレッドブルとメルセデスがタイトなバトルを繰り広げそうです。

さすがの作戦上手なメルセデスも、ここ数戦ミスを冒しています。それだけレッドブルのプレッシャーが大きいからでしょう。ハイブリッド時代に入って初めてメルセデスは真の挑戦を受けています。

それを受けてさらにメルセデスが進化するのか、それともレッドブルがさらに突き放すのか、今後のレースがとても楽しみですね。