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イタリアGPの主役だったサインツ_イタリアGP観戦記

フェラーリのホームグラウンドでポールポジションを獲得したカルロス・サインツ。マックス・フェルスタッペンの歴史に残る10連勝を阻むことはできなかったが、最終的に優勝したフェルスタッペンやチームメイトのシャルル・ルクレールとのスリリングなバトルは長く記憶に残るだろう。それでは早くもヨーロッパラウンド最終戦となった、情熱のイタリアGPを振り返りましょう。

このイタリアGPでフェルスタッペンは新記録の10連勝を達成し、歴史に残る快挙を成し遂げたが、紛れもなくサインツはこのレースの主役のひとりだった。

情熱のイタリアGP。フェラーリが勝ったのではと錯覚させられる表彰式の光景

レースはスタート前から波乱含みだった。角田裕毅がフォーメーションラップ中のパラボリカ手前で、煙を上げてアルファタウリを止めなければならなかった。アルファタウリのギアがスタックし動けず、すぐに回収できなかったため、スタートは二度中断。

他にもスターティングライトの上に設置されているLEDスクリーンに問題が発生したりしたので、結局予定より20分遅れで再びフォーメーションラップを開始することになった。

フェラーリの地元でフェルスタッペンを抑えてポールポジションを獲得したサインツは、予想以上に長くリードを楽しむことができた。

スタートでは前の二台、サインツとフェルスタッペンはほぼ同じ蹴り出しと加速だった。最初のシケインへの向かう長いストレートを走る中で、サインツはフェルスタッペンの前に出るのに十分な時間があった。これでフェラーリのレース前の思惑通りリードは守れた。しかし、ルクレールがフェルスタッペンを攻略して、レッドブルへの壁になるというフェラーリの期待は裏切られた。

スタート直後のシケインに殺到する19台のマシン。サインツはリードを守るが、ルクレールはフェルスタッペンを抜けずに3位をキープした

3番手からスタートしたルクレールは、フェルスタッペンを攻略するよりも、後ろのジョージ・ラッセルからのアタックに防戦一方となる。この争いは、オープニングラップのロッジア・シケインに差し掛かるまで続いたが、ルクレールはなんとかポジションをキープし、前の二台を追う体勢を見せる。

サインツはオープニングラップでフェルスタッペンとの差を0.8秒差にし、二周目には0.9秒差まで開いた。しかしながらDRS圏外から脱出することはできなかった。

そのため、DRSが発動可能になると、フェルスタッペンはすぐにその差を3分の1近くまで縮めた。しかし、それでもルクレールは1秒弱後方に潜んでおり、フェルスタッペンのトウを利用して、ついていけていた。

フェルスタッペンはレース序盤について、「とにかく我慢していた」と説明した。「まだ先の長いレースだったからね。彼らがリアタイヤでかなり苦労しているのが見えたから、僕は自分の仕掛けるタイミングを選ぼうとしていた」

6周目にその最初の場面が出てきた。有名なアスカリ・シケインを駆け抜けたサインツのリアに迫ったフェルスタッペンがメインストレートでDRSを発動。サインツがイン側を押さえたので、2021年に同じコーナーでハミルトンと競り合った時と同じように、フェルスタッペンはアウト側のラインを攻めた。

フェルスタッペンは無線でサインツがドアをしっかり閉めたことを「感心できないな」と言ったが、フェルスタッペンは他のドライバー対してハードに対応しているので、文句を言うほどではないだろう。いずれにせよ、フェルスタッペンには次のチャンスが巡ってくることは明らかだった。

ダウンフォースを削ったことにより、ストレートでは優位があったが、タイヤには厳しかったフェラーリ

「レッドブルを押さえるために、できることは何でもやったよ。特にマックスの前を走っていた第1スティンはね」とサインツはレース後に語った。「それは表彰台を失いかねなかったかもしれない。タイヤを酷使したからね」

表彰台はまだまだ先の話だったが、特にサインツの左リアはタイヤの摩耗が問題になっていた。さらに、ピレリのモータースポーツマネジャーであるマリオ・イソラが「路面温度が40度と高くなり、デグラデーションが予想以上に高かった」と語った。

左フロントタイヤの摩耗がフェラーリの命運を左右した昨年とは異なり、今回はリアタイヤに注目が集まった。昨年より1段階柔らかいコンパウンドのタイヤ(ほとんどがミディアムのC4でスタートした)を持ち込んだため、コーナーが少なくストレートが長いモンツァのレイアウトが要求するトラクションがリアタイヤに負荷をかけていた。さらに、2022年型ピレリにはアンダーステアを誘発する傾向があったが、強化された今年のピレリはハンドリングのバランスをよくし、コーナーの立ち上がりでスロットルオンでスライドするリアの感度を高めていた。

そのため、サインツはコーナーで頑張り、可能な限りフェルスタッペンを抑えなければならなかった。しかし、その代償は大きかった。ミディアムコンパウンドでは20周ほどのスティントが予想されたが、フェラーリにとってはかなり厳しい距離だった。

最初の追い抜きを阻止された後、8周目のパラボリカ手前でフェルスタッペンが二度目の急接近。その後のストレートでDRSを使ってフェルスタッペンに追い込まれたサインツは、ターン1に向かうコースの真ん中を走った。

「彼がターン1へのブレーキングで真ん中を走ると、何かをするのはほとんど不可能だった」とフェルスタッペン。「だって僕が飛び込もうとすると、彼が少し動いただけで、もうスペースはないんだから。だから僕にとっては、ブレーキングゾーンで戦うという選択肢はなかったんだ」

ほんの少しのロックアップがサインツからトップの座を奪った

フェラーリが見せるトップスピードの強さにいら立ちを募らせたフェルスタッペンは、自分の思い通りになる状況を待つしかなかった。そうしている間、エンジニアのジャンピエロ・ランビアゼは、ライバルが「リアにかなり苦戦している」と伝えてきた。

サインツがその後も6周リードを守ったが、その間の11周目にルクレールがフェルスタッペンのDRS圏外になるというフェラーリには厳しい状況になり、フェルスタッペンは後ろを気にすることなく、サインツを攻めるチャンスがやってきた。

そして15周目のターン1、レッドブルがイン側にフェイントをかけながらアウト側に向かった時、サインツがわずかに右フロントブレーキをロックアップしてしまったのだ。

これは大きなタイヤロックではなかった。しかしサインツのスピードを落とすには十分だった。
これによりサインツの第1シケインの立ち上がりスピードが明らかに鈍った。フェルスタッペンは勢いよく加速し、そのままサインツの左側に並びかけた。こうなると次のロッジアシケインのイン側はフェルスタッペンになり、そこで勝負は決まった。

前人未到の10連勝を成し遂げたフェルスタッペンとレッドブル。彼らの連勝はどこまで続くのだろうか

先週末のフェラーリとサインツが善戦できた理由がいくつかある。
まず最初は単純にフェラーリがこのレースのために新品のエンジンを搭載したことだ。レッドブルのチームボスであるクリスチャン・ホーナーは、フェラーリが記録したGPSデータから計算し、「彼らはエンジンをかなりハードに走らせていた」と主張した。

フェラーリのチーム代表であるフレッド・ヴァスールはそれを否定し、エンジンモードのパワーセッティングに関しては「先週のザントフォールト以上のリスクは冒していない」と語った。いずれにせよ、フェラーリはエンジントラブルに見舞われることはなかった。

次にフェラーリがやったのは、リアウイングを薄くしたことだった。シニア・チーム・パフォーマンス・エンジニアのジョック・クリアは、これはレース前にモンツァ用の 「特注パッケージ 」と説明していた。これはコストキャップ以前の時代によく見られた手法だったが、2023年序盤のフェラーリの観察で低いダウンフォースの方が我々に合っているという判断に基づいて作られた。クリア曰く、このアプローチをとらないという選択肢はなかった。

予選でもスピードトラップの数値でも明らかなように、トップスピードではサインツが上回っていた。しかし、フェルスタッペンの厚いウイング(実際には、レッドブルがFP1で試した2つのウイングのうち、まだ薄い方)は、レズモやアスカリ、そしてパラボリカの高速コーナーで十分なダウンフォースを提供し、コーナー部分でタイムを稼ぎ、タイヤの消耗も押さえることができた。そして最高速で劣るのは、DRSを使って補うことができていた。

二台のフェラーリ同士のフェアなバトルもこのレースの見所のひとつだった

しかし今年、レッドブルが大きなアドバンテージを得ていたDRSで、サインツを抜き去ることができなかったのは、皮肉なことだった。これは、ザントフォールト用に装着されたリアウイングに比べ、モンツァでの薄いリアウイングは元々のドラッグが少ないので、DRSをオープンにしても大きなゲインがないからである。

15周目を終えた時点でフェルスタッペンは1秒差までリードを広げDRS圏外に逃げた。ただその後方ではサインツがチームメイトから大きなプレッシャーを受けていて、ルクレールはすでにチームメイトのDRSを獲得していた。

フェラーリがフェルスタッペンに抜かれた時点でサインツのピットインを見送ったのは、ヴァスール曰く「(第二スティントで履く予定だった)ハードの寿命が少し不安だった。ペレスがパラボリカでクラッシュしたため、上位陣のFP2のロングランは4~5周にとどまり、ハードがどこまで持つのかはわからなかった(しかもFP2は日曜日より涼しかった)」
これを踏まえてヴァスールは、フェラーリも「(その後のスティントの長さから)かなり早い段階でストップするのはリスクだ」と感じていたと語った。

「僕はタイヤのデグが大きかった」とサインツはレースを通じたタイヤライフについて説明した。「デグが大きかったので、1ストップというより二ストップという感じだった。最終的に1ストップにしたのは、レース前にそう予定していたからだ。でも正直なところ、それぞれのスティントで5周は足りなかった。ミディアムで走った最後の4周は、ラバーがゼロの状態だったね」

ピレリのタイヤ交換一覧リスト。ほとんどのドライバーがワンストップだったが、日曜日は気温が上がったこともあり、タイヤのデグは厳しかった

サインツは1ストップの目標ラップ直前の19周目の終わりにピットインしたが、ラッセルが同時にピットインして通過するのを待ったため、理想よりも1秒近く長く待たなければならなかった。そのため、ルクレールはサインツの1周後にピットストップを行い、オーバーカットしそうになったが、サインツは最初のシケインで前にとどまり、ルクレールがロッジアのアウト側でフェイントをかけても動じず二位を守った。

イタリアGP アウトドローモ・ナツィオナーレ・ディ・モンツァ コースレイアウト図

フェルスタッペンは一時はリードを12.4秒まで広げていたが、レース終了時には6.1秒差まで縮まっていた。ヴァスールは「マックスは最後の二、3周で(タイヤ摩耗の)問題があったと思う」と述べている。しかし、レッドブルはフェルスタッペンがエンジンのオーバーヒートに対処していたと主張している。前を走る周回遅れ目前のガスリーに近づきすぎて、クーリングがさらに苦しくなるのを避けたい意図で、フェルスタッペンにペースダウンを指示していた。

「どんなリスクも負いたくなかったんだ」とホーナーは語った。レッドブルのモータースポーツアドバイザーを務めるヘルムート・マルコも「彼が最速ラップのアイディアが浮かばなかったので、良かったよ」と皮肉めいて話した。

何はともあれ、歴史が刻まれたことに変わりはない。
フェルスタッペンの記録はどこまで伸びるのであろうか。

2023年 イタリアGP公式結果
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