2度の土砂降りの雨がフェルスタッペンの9連勝を脅かしました。しかし全く動じないフェルスタッペンは地元ファンが望む母国での三年連続の勝利を見事に成し遂げた。夏休み明けの後半戦スタートのオランダGPを振り返ります。
マックス・フェルスタッペンの地元オランダで、この週末の注目はたった1人のドライバーに集中していた。フェルスタッペンの二度の世界チャンピオン獲得は、この国のF1への興味を急増させ、35年ぶりのオランダGP復活を成し遂げた。ザントフォールトの人口1万7,000人が、年に1度の週末のために数十万人も増えたのです。しかし、夏休みの延長として太陽が降り注ぐことを期待していた人々は、突然の降雨に見舞われることになりました。
今年のレースは、スタート時とレース終盤の二回の豪雨に見舞われた。最初の雨で、各チームは入念に練り上げた戦略を投げ捨て、その場で即席の作戦変更を余儀なくされました。
しかしフェルスタッペンを妨げるものは何もなかった。期待の重さに押しつぶされそうになることもなく、オレンジ色の服を着たオレンジアーミーに気を取られることもないように見えた。しかし地元でのプレッシャーはそこにあった。レッドブルのボス、クリスチャン・ホーナーは「(それを)感じないのはロボットだけだよ」と語った。
「10万人のオランダ人が国家を歌うのを見るのは、彼にとって特別な瞬間だよね」
「そして、彼がマシンに乗り込む直前には、ロイヤルファミリーが彼に会いに来る。彼はとても期待されている」
フェルスタッペンは8連勝中、どんなことにも惑わされず安定した結果を残してきた。そのプレッシャーに打ち勝つメンタルがあるにもかかわらず、ホームレースではまた別のプレッシャーがあった。しかし今の彼を止めるものは誰もいないし、何もない。
予選ではフェルスタッペンが大差をつけてポールポジションを獲得した。予選でノリスはフェルスタッペンに、ほとんど脅威を与えることができなかった。ノリスはレース前、スタートでも同じだろうと話し、レッドブルに脅威を与えることができたとしても、それは一瞬のことだろうと考えていた。
しかし実際は彼の想像よりも悪く、スタートでフェルスタッペンが完璧な逃げを見せ、ノリスの脅威をターン1に到達する前に取り去った。その代わり、最大の脅威は上空から現れた。雨はすでに降り始め、乾いたアスファルトにポツリポツリと落ちていた。
1周目を終えた時点でピットインするドライバーが続出した。フェルスタッペンはコースにとどまったが、レッドブルは万が一の事態を想定してセルジオ・ペレスをピットに入れた。これはペレスを優先したわけではなかったが、結果的にペレスは他のタイヤ交換組(そのほとんどは失うものは何もなかった)と共に大きなメリットを得た。
「雨が降ってきたので、正しい判断をするのが難しかった」とフェルスタッペン。「それでチームと一緒に考えた。でもインターに代えるほどではないと考え、走り続けることにした。我々は一周ステイアウトすることにしたんだ。でも今だからいえるけど、これは正しい判断ではなかったね。でもお陰で何台かをコース上で抜かなければいけなくなったから、レースは面白くなったよね」
「幸運なことに、その後数周のうちに差を10秒ほど縮めることができた。それが残りのレースにとってとても重要だった……」
2周目、状況は大きく変わった。ペレスをはじめとするインターミディエイトタイヤ勢は、このコンディションに最適なタイヤを履いており、ピットストップのロスの影響にもかかわらず、トップとの差を急速に縮めていた。
この時点ではペレスは3番手だったが、彼は序盤から驚異的な追い上げを見せ、前方のノリスとラッセルとのギャップを減らし、3周目にはトップに立つ。
2周目にタイヤ交換をしたフェルスタッペンは、1周目のタイヤ交換組をパスして順位を上げてくる。7周目、フェルスタッペンは周を抜き2位に上がった。この時、ペレスとの差は10秒。
しかしトップ争いは、コース上ではなくタイヤ交換で決まった。11週目にはドライタイヤに履き替えるドライバーが続々と出てきた。そしてレッドブルは12周目、ペレスより先にフェルスタッペンをドライタイヤに交換するよう指示する。この時ペレスとの差は2.7秒。
ペレスはインターミディエイトタイヤで1周余分に周回し、フェルスタッペンがアンダーカットを成功させ、ペレスがピットを出るときには2.5秒差となっていた。しかし、16周目のターン8立ち上がりでローガン・サージャントがウィリアムズをウォールに激突させ、セーフティカーが導入されると、フェルスタッペンのリードはなくなり、再開後再びアドバンテージを築かなければならなかった。
フェルスタッペンは、レースが再開された22周目からDRS圏外に出るべくペースを上げる。2位のチームメイトとの差は4周で2秒以上に広がり、リスタート後の40周は実質的にいつものクルージングとなった。
フェルスタッペンとレッドブルのコンビは、通常のコンディションでは調和がとれている。RB19の予測可能性とバランスは、10年前のベッテルの時よりも、フェルスタッペンの洗練されたドライビングスタイルと完璧に噛み合っている。おそらく、フェルスタッペンが10年前の支配期間よりも優れているのは、不測の事態が起こるレースにおいて、彼のマシンに対するフィーリングが超越していることだろう。
アロンソはフェルスタッペンを評価する中で、それを最もよく言い表している。「ゾーンに入っていく必要がある。マシンと一体化する必要がね。マックスは今のところ、ほかのどのドライバーよりも100%それを達成していると思う。だから彼は圧倒的な強さを見せているんだ」
その証拠に、セーフティカー導入後のフェルスタッペンのラップタイムを見れば、それは明らかだ。24周目からソフトタイヤに交換した49周目まで、一度も1分15秒台から外れることはなかった。
彼はできるだけ長くスティントを伸ばし、0.712秒の枠内で25周連続で同じペースを維持することを目標にした。次のピットストップでは、1分14秒台前後を10周連続でキープし、このペースを維持するかと思われた。ところが再び天候が変わった。
レースが終盤に差し掛かると、気象レーダーが北海からサーキットに向かって雨の塊があることを示し始めた。ドラマチックな結末になるかと思われたが、雨が降るまで誰も対応できないので、雨が降り始めるのを待つしかなかった。
60周目の終わりがほとんどのドライバーにとって最大の山場となった。フェルスタッペンも同じで、この時点ではペレスを10秒も離していたため、タイヤ交換するにはタイミングが早すぎた。しかしチームはペレスがタイヤ交換するには十分と考えてインターミディエイトに履き替えるためにピットに戻した。
コース上のドライバーのほとんどが彼に続き、フェルスタッペンも61周目にインターミディエイトに履き替えるためにピットインの指示を受ける。当初、フェルスタッペンはスリックタイヤであと1周は走れるはずだと考えていたが、エンジニアのランビアゼが考えを変えさせた。フェルスタッペンがその理由を理解したのは、そのすぐ後でレース序盤の雨よりも激しく降ってきたからだ。
「(サーキットの)後半は完全に乾いていたけど、例えばメインストレートで雨が降り始めたんだ」とフェルスタッペンは振り返った。「セクター2は乾いていたけど、メインストレートやターン1で何が起こっているのかはもちろんわからない。そしてどうやら、本当に降ってきていたようだ」
だからチームから 「ダメだ、この周に入ってこい」と言われた。両方のフィーリングが必要だと思う。自分次第の時もあれば、チーム次第の時もある。結局のところ、正しい判断を下すためには、お互いを信頼しなければならない。そうだね二度目タイヤ交換の判断はとてもよかったよ」
フェルスタッペンの時とは違いペレスは、チームがインターミディエイトタイヤを準備していなかったためピットレーンで多くの時間を失った。ペレスはチームメイトより早くタイヤ交換することで有利な状況を作りだそうとしたが、それはかなわなかった。
この周回でコンディションは大幅に悪化し、雨から豪雨へと変わった。レッドブルはフェルスタッペンをフルウエットコンパウンドに交換して安全策をとった。アロンソとの差は十分に開いていたため、実質的な順位のロスはなかったが、周がターン1でアルファロメオをウォールにぶつけてしまったため、フェルスタッペンがコースに復帰するや否や赤旗が提示された。
赤旗の影響でピットレーン出口が閉鎖され、ペレスは出口で立ち往生してしまう。しかし幸いにも、赤旗の場合、前のラップの順位に戻さたので、大きなロスはなかった。
FIAのスチュワードが雨を待つことを選択したため、43分間中断が続いた。ザントフォールトに向かう空にはもう雨雲はなく、海風はグランドスタンドのポンチョを着たファンに一時的な休息を与えてくれた。
その後、セーフティカー先導のもとで2周を走り、生き残ったマシンが残り6周で栄光を争う。
ペレスはウェットタイヤへの交換時にピットレーンでスピード違反を犯していたため、5秒加算のペナルティを受け、優勝争いからは脱落。
フェルスタッペンの背後には、ホームレースでの勝利を脅かしかねない存在がいた。結局のところ、アロンソは2013年以来の勝利のチャンスを、どんなにわずかなものであっても逃すつもりはなかった。
セーフティカーでの2周が終わり、レースが再開されるとアロンソはフェルスタッペンに接近してきた。レッドブルはメインストリートまでにアロンソを引き離しておきたかったが、それはできなかった。結果としてアロンソはフェルスタッペンのトウに入ったが、ターン1の飛び込みまでは十分に近づくことができなかった。
「挑戦しようと思っていた。保守的にいくのではなくね」とアロンソは再スタートを振り返った。「赤旗中断時間中に何ができるか考えていた。なにが可能かを考えていた。ターン1の飛び込みと同様にターン3での動きもね。そして挑戦したい気持ちをチームと話し合ったよ。ただポイントを諦めたくはなかった。2位になるのも重要だからね」
「でも僕たちはうれしいよ。リスタートのターン14でちょっとリスキーだったけど冷えたタイヤでバンクを攻めた。サイドバイサイドになるように挑戦した。ターン1でね。でもそれほど近づけなかった」
「インサイドやアウトサイドの少し違ったラインを試した。マックスとは逆のね。もしマックスよりグリップするラインを走れれば近づけると思ったんだけど十分じゃなかったね」
再スタートの1周目が終わると、フェルスタッペンは嵐を乗り切ったと感じた。RB19はタイヤに必要な温度に達するのに時間がかかることがあるため、1周目はわずかに難しくなったが、それ以降はレースは彼のもので、フィニッシュまで徐々に差を広げていった。
「最初のラップを生き残る必要があった。フェルナンドは後ろからとてもハードにプッシュしてきた。フェルナンドが近づいてくるのがミラーで見えた。でも一度タイヤに熱が入れば、再びすべてがバランスをとれた」とフェルスタッペンは振り返る。
ペレスはペナルティを帳消しにするため、アロンソを追い詰めた。そしてガスリーが数秒後から追いかけてきた。ガスリーは1周目のタイヤ交換で上位に進出していたが、彼自身のピットスピード違反で後退。ペナルティを消化後、再びポジションを上げてきていた。
ガスリーは「レッドブルに対して5秒以内に詰め寄るのは簡単なことではない」としながらも、2年ぶりの表彰台が目前に迫っていることを理解していた。最終的に両者の差は1.990秒となり、ガスリーは自身4度目の表彰台を獲得した。
「チャンスが見えていたし、状況も理解していたから、自分のすべてを出し切った」とガスリーは振り返った。「最初はウォームアップでもう少し苦戦すると思っていたんだ。でもコンディションはそれほど悪くなかった。最後のほうは予選ラップを何周かした気分だけど、最後は報われたね」
「5秒ペナルティの状態で数周走り、ペレスがなにを感じているかわかった。でも、僕はすべてを手に入れようとトライした」
母国ファンの期待を上回ることを成し遂げた、フェルスタッペンはさらにうれしいことがあった。10年前にレッドブルのベッテルが成し遂げた9連勝に並んだのだ。ホーナーは「同じことができるとは想像もできなかった」と認め、フェルスタッペンが圧倒的な強さを発揮し続ける中での数々の偉業について、次のように語った。
「マックスは彼のキャリアの中で手がつけられない時期にいると思う。彼があのマシンでやっていることを達成できるドライバーは、グリッド上にいないと思う」
夏休み明けのシーズンの現時点で、この2度の世界チャンピオンに挑戦できるドライバーが現れるとは思えない。天候の急変もフェルスタッペンを止めることはできませんでした。今のところフェルスタッペンを妨げるものは何もないようです。