
今年のF1記事に昨年まではあまり見られなかった興味深い言葉が並んでいる。それは「燃料」である。フェラーリはシェルが新しい燃料を投入したので表彰台を獲得したとか、レッドブルはトータルの新しい燃料でパワーアップしたという記事を昨年より頻繁に見かけるようになった。
燃料とはいわゆるガソリンである。通常はガソリンを霧状にしてシリンダー内に吹き出し、点火して爆発することによりパワーを得ている。
今年は昨年までよりも、燃料が果たす役割が増えているという話である。それはどうしてであろうか?
昨年までの2.4リッターV8エンジンは開発が行き着くところまで、行っていた。もちろん開発の余地が全くないわけではないが、できてもゼロコンマ数パーセントであり、成績を左右できるほどではない。
だが今年からパワーユニットのレギュラーションが大きく変わったことで、燃料事情も大きく影響されている。
キーワードはノッキングだ。レーシングエンジンは圧縮比が高い。更に今年はターボで過給して高いブースト圧を実現している。これによりノッキングが発生しやすくなっている。さらに今年は燃費規制も厳しいので、燃料を薄くしたいのだが、これもノッキングの発生を加速させる。ノッキングが起きると最悪の場合、シリンダーの金属が融解し、エンジンブローが起きる。ブロックが壊れたような派手なエンジンブローはノッキングが原因と推測できる。
それを防ぐ為に燃料ができることはオクタン価を上げることである。今では市販燃料に近い成分が使われていて、使用成分に制限がある。だがオクタン価に関してはほぼ制限がない。だから燃料メーカーはオクタン価を上げるべく、日々努力をしている。
理論的にはオクタン価は120まで上げることができるが、それはレギュレーションで許可されていない添加物をいれた場合である。ルールの枠の中で、いかにオクタン価を上げることができるのかが、燃料メーカーの腕の見せ所になっている。
現時点ではオクタン価100は実現できているが、将来的には102や103程度までは達成できる見込みである。これが実現できれば高回転域での耐ノッキング性が向上するだけでなく、中速域でのピックアップも改善する。
エンジン側も燃料メーカーのデータを元にエンジン開発を進めてきた。燃料メーカーもエンジンメーカー側のフィードバックを元に更なる開発を進めるように、これは単独の仕事ではなく二人三脚の共同作業である。
またMGU-Hは全開走行時にエンジンへ与える影響が大きく、燃料メーカーの仕事は増えることはあっても、減ることはなさそうである。
フランスのトータルは既に2回大きな変更をおこなっている。彼らがモナコで投入した新しい燃料では、開幕時より2%燃費が改善していると述べている。これは少ないように見えるが、2%改善すると燃料消費が2kg少なくなる。そして燃料が少なければマシンは軽くなり、それだけラップタイムが改善する。しかもトータルはこの改善で燃費だけでなく、パワーも10馬力向上させている。
たかが燃料だが、されど燃料。地味で見えないけれども、今年の燃料開発競争は厳しく、目が離せない。