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ハンガリーGP観戦記part1 復活の日

▽KERSの逆襲 F1関係者の間では、悪者にされているKERSだったが、言われているほどひどいシステムではない。 今年、マクラーレン、フェラーリ、ルノー、BMWといったチームの競争力が足りないのはKERSがあるからと言うよりは、単純に空力の開発に失敗したからだ。 特に二層式のディヒューザーの開発に出遅れたことが、致命傷になった。 KERSの開発に力を入れたので、空力の開発が遅れたという見方もあるが、KERS開発に携わる人間と、空力開発のメンバーは全く違うので、それは当てはまらない。 資金的な負担はあるが、ビッグチームであれば負担できない金額ではない。 KERSの一番の問題点は、重量配分の変更に制限が加えられる点である。 今年のタイヤは、スリックタイヤになることにより、リヤよりフロントタイヤの方がバランス的に勝っている。 なので、今年はフロントウィングの下側に各チーム大量のバラストを積み、フロントタイヤのグリップを活かそうとしている。 一説には、KERSシステムは30kgから40kgあると言われている。 現行のマシンはバラストを50kgから60kg積んでいると言われている。 KERSを搭載すれば、その重量分だけバラストをフロントに積めなくなり、フロントタイヤのグリップを生かし切れなくなる。 だが、マクラーレンのKERSシステムの様に、重量が25kg程度に抑えられれば、他の部分の軽量化などにより、重量的なデメリットは限定される。 そして、今回マクラーレンはKERSの有効性を証明した。 KERS抜きにしては、今回のハミルトンの勝利はあり得なかっただろう。 ちなみに、KERSは来年、全てのチームで搭載されない予定である。 FIAのレギュレーション上は、搭載が可能であるが、チームの団体であるFOTAがコスト削減も目的として、自主規制して搭載しない。 来年、新しく参加するチームはコスワースエンジンを搭載するので、KERSは搭載できない。 ▽マクラーレンの底力 軽量化によりKERSのデメリットの影響を少なくした、マクラーレンが出してきたのが本格的な二層式ディヒューザーだった。 前回、ハミルトンのマシンだけに搭載されたこのアイテムは、絶大なる効果を発揮して、0.8秒ものタイムアップを可能にした。 実際に、今回ハミルトンの車載カメラの映像を見ると、彼はコーナーでほとんど修正をしていないことがわかる。 ジェンソン・バトンと見間違えるほどの、スムーズなドライビングである。 これは、タイヤの摩耗に良い影響を与え、寿命を延ばすことができる。 イギリスGPでは、ありとあらゆるコーナーでカウンターステアを当てていたこと考えると、新ディヒューザーがもたらした恩恵は計り知れない。 ディヒューザーの制限とスリックタイヤ化による相対的なリアタイヤのグリップ不足が相まって、今年のマシンはリアが非常に不安定になった。 ブラウンGPの速さの秘密の一つが、二層式ディヒューザーによるリアのダウンフォース量の多さにあることは間違いがない。 本来、全てのチームがブラウンGPのようなディヒューザーを装着したいのだが、このリアエンドには衝撃吸収構造やギアボックスそれに、サスペンションが鎮座していて、下から空気を通すスペースがない。 ブラウンGPがなぜ、できているかというと彼らは最初から、その部分を通じて空気を上に抜くように、ギア・ボックスやサスペンション、そして衝撃吸収構造を最適化してデザインしているからだ。 シーズン開幕当初は、ブラウンやトヨタ、ウィリアムズ以外のマシンは、上から空気を抜くようには設計されていなかった。 したがって、形だけをまねても空気が大量に勢いよく抜けていかないので、大きなダウンフォースを獲得できない。 マクラーレンはシーズン途中にもかかわらず、リアエンドのレイアウトを見直し大量の空気を通すようにデザイン変更してきた。 マクラーレンのマシンの後ろがTVに映るとリア下部中央に大きく口を開けた部分が見るが、それが新しい二層式ディヒューザーである。 口でデザインを変更してきたと言うのは簡単だが、実際の作業としては後ろ半分を新規に作り直すのと同じくらいの労力がかかる。 前半戦、あれほど低迷していたのにもかかわらず、全力を挙げてマシンを開発してきたマクラーレンの底力には驚くばかりだ。 ただ、このマクラーレンの復活は、シーズン序盤に予見できていた。 彼らの持つマシン開発のリソースは、他のチームを遙かに凌駕する。 彼らは過去にも、シーズン序盤の走らないマシンを開発し、終盤に勝利するパターンを見せてきた。 そして、今年もそれを成し遂げた。 これが、ロン・デニスが去った後でも、マクラーレンの組織に染みついた、勝者メンタリティなのであろう。 ▽ルイス・ハミルトン 忘れかけていた勝利 マシンが良くなったのは確かだが、この勝利、ルイス・ハミルトン抜きではなしえなかったのも事実だ。 十分なダウンフォースを得た、彼は正確なドライビングで燃費をかせぎ、タイヤを温存し、しかも誰よりも速いドライビングを見せてくれた。 昨シーズン王者の実力を再び見せつけてくれた。 では、マクラーレンの速さは本物なのか? それを判断するには、スパまで待ちたい。 ハンガリーは、路面の摩擦が低く中低速コーナーの多い特殊なサーキットである。 マシンの総合能力が必要な、スパでの速さを見てから判断したい。 ただ、マクラーレンにも一つ問題がある。 マシンの大きなアップデートはこれがシーズン最後であると、アナウンスされている。 シーズン終盤に向けて勝利を重ねるには、さらなる開発が必要となる。 チャンピオンを見込めない今シーズンを捨てて、来シーズンに懸けるのか。 この勝利がその判断に影響を及ぼすのかは、注意深く見てみたい。 もし、マクラーレンの開発が続くならシーズン終盤に向けて、KERSがなければ優勝できないという驚愕の事態もあり得る。

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