▽苦しんだレッドブル
予選で中団に沈んだブラウンGPに代わりこのレースの主役になる予定だったレッドブルであったが、ウェバーは3位になるのがやっとで、ベッテルはリタイヤした。
ウェバーは第一スティントで、ハミルトンに抜かれたが痛かった。
これによりハミルトンに逃げられてしまった。
更に第二スティントでは、ハード側のタイヤを選択。
ラバーが乗り始めたレース中盤では、ソフト側のグリップが増し、寿命も長くなっていた。
その為、ハードタイヤを履いたウェバーはタイムが伸びずに、後退。
ピット作業の遅れから、ライコネンにも抜かれて三位に後退。
ソフトタイヤでは長い第二スティントでタイヤが持たないとウェバーが判断してのハードタイヤ選択だったが、結果的にこれが裏目に出た。
最終的には3位を確保できたが、今回はこれで満足せざるを得ないだろう。
ベッテルはスタートでKERS勢に抜かれ、ライコネンと競り合っていた1コーナーで接触。
左サスペンションにダメージを受け、バランスを崩して後退。
最終的に接触により受けたダメージが走行中に、大きくなりリタイヤとなった。
これは、チャンピオンシップを考えると痛いリタイヤで、ウェバーに抜かれてランキング3位に後退した。
上位陣では最も重い燃料を積み、計算上は最速のベッテルだったが、思わぬところで足をすくわれてしまった。
実はこのハンガリーGP前にレッドブルはスタートシステムの改良をしてきた。
これまでも理論上最も速いにもかかわらず、スタートで出遅れて勝利を失ってきたからだ。
だが、今回はアロンソが10kg以上軽くダッシュを成功させ、KERS勢にも抜かれたので、効果があったかどうかの判定は微妙になった。
今後、KERSの搭載マシンが競争力を持ち始めると、ブラウンGPを追うレッドブルにとってはいやな状況になりそうだ。
▽失速したブラウンGP
ブラウンGP失速はタイヤの温度が動作領域にすることができなかったのが、原因だ。
金曜日30度超えたハンガロリンクだったが、土曜日は30度前後、日曜日は更に気温が下がった。
予選では、バリチェロのサードダンパーのスプリングが脱落し、マッサを直撃するト
ラブルがあり、バトンはその対策をするために、Q3でしばらくピットに留め置かれることになった。
その為、バトンのQ3のアタックは1回だけでしかも、残り時間を数分残してのアタックとなった。
このハンガロリンク・サーキットは普段レース開催がほとんどなく、路面のラバーがクリーンな状態で金曜日をスタートする。
その為、路面のコンディションは刻々と良くなり、予選終了間際にアタックすればするほど、有利なる。
これがバトンには不利に働いた。
決勝レースでも、タイヤ温度の問題が如実に表れた。
太陽が顔を出し路面温度が上昇すると上位陣と遜色のないタイムで走れるのだが、曇るとすぐにペースダウン。
ブラウンGPのタイムを見ていると、コースが晴れているのか、曇っているのかがわかるくらい、はっきりとタイムと天気には相関関係が見られた。
このハンガロリンクでは晴れて上昇した路面温度が、ブラウンGPにとってタイヤを動作領域に持って行けるぎりぎりの線だったということになる。
だから、少しでも曇ると遅くなり、晴れれば速く走れる。
金曜日より気温が低いとはいえ、30度近くある気温でどうしてタイヤが暖まらないかというと、それはハンガロリンクの路面と関係がある。
ハンガロリンクの路面は粗くなく、タイヤにとってはやさしい。
ブリヂストンの浜島さんがよく言う、路面のタイヤへの攻撃性が低いのだ。
だから、ブリヂストンはスーパーソフトとソフトという最も柔らかいタイヤを持ち込めるのであるが、これがブラウンGPとっては、障害となった。
それでも7位に入賞できたので、最悪の事態は免れた。
それにしても、このタイヤ温度を上昇することが難しいマシン特性は、今後もブラウンGPを悩ませ続けるだろう。
▽ライコネン 二度目の表彰台
フェラーリのライコネンもKERSの特典を活かして2位に入賞。
レッドブルのピット作業ミスに乗じて、ウェバーの前に出て、そのまま逃げ切った。
ライコネンのペースは、ハミルトンと比べても遜色がなく、第一スティントでウェバーをかわしていれば、ハミルトンと優勝争いも不可能ではなかった。
序盤にウェバーをかわすことができたかどうかが、このレースのキー・ポイントとなった。
では、フェラーリが完全復調したのだろうか。
ここはかなり特殊なサーキットであり、空力の影響力が他のサーキットより低い。
ライコネンの得意なスパでどの程度の走りができるのかに、注目してみたい。
マッサの事故の原因は、バリチェロのサードダンパーのスプリングが外れて路面上をはねて飛んでいたのが、まずコクピット前の部分に当たり、それがサイドプロテクターに激突。
跳ね返ったスプリングがヘルメットに左側を貫通して、マッサは気を失った模様だ。
もし、部品がヘルメットに直撃していれば、命にも関わる事故になっただろう。
これにより、マッサは頭蓋骨骨折と脳しんとうに見舞われた。
火曜日時点ではマッサの容体は安定している。
土曜日に頭蓋骨骨折の手術をした後は、休ませるために麻酔で眠らされている。
だが、後遺症が残る可能性もありまだ予断は許されない。
彼の早い回復を祈ろう。
▽作戦勝ちのトヨタ
トヨタの二台は共にQ2敗退したにもかかわらず、グロックが6位、ツゥルーリが8位とダブル入賞した。
これは抜きにくいハンガロリンクでは、予想以上の結果といえよう。
彼らが上位に行けたのは、共にロング-ロング-ショートの変則2ストップ作戦だったことが大きな要因だ。
第一・第二スティントでコンスタントなタイムを記録した二台は、他のマシンがピットインしている間に、入賞圏内に入ることができた。
ソフトタイヤでのロングランでも、安定したタイムが出せたことが大きかった。
▽明暗分かれたニコと一貴
ニコ・ロズベルグは、連続の4位入賞。
彼のマシンに、KERSがないことを考えると、これがベストの成績だっただろう。
だがニコはこれで、二戦連続の4位入賞。
ドライバーズ・ランキングでも5位につけている。
その上は、ブラウンGPとレッドブルの4台だけだから、その他のグループではトップであり、ウィリアムズの予選規模からすれば、大健闘と行って良いだろう。
一方の中嶋一貴は、もう一歩で入賞を逃した。
確かに彼に不運な面がないとは言わないが、今回は2周にバトンに抜かれたのが全てである。
あそこで抜かれなければ、初入賞は可能だった。
追い抜きが事実上不可能なハンガロリンクで抜かれたのは、彼にミスがあったとしか考えられない。
恐らく最終コーナーで少しミスをして直線スピードが落ちたことで、バトンに追いつかれて、1コーナーの進入で抜かれてしまったのだろう。
あそこは何が何でも押さえ込むべきだった。
課題だった予選では連続でQ3進出できているのであるから、決勝レースでもう少しアグレッシブにいけば、入賞は見えてくる。
▽ミスに沈んだアロンソ
極端に軽くしてポール・ポジションを獲得したアロンソ。
彼の作戦は3ストップだった。
だが追い抜きが難しいハンガロリンクでは、3ストップでは勝てない。
事実アロンソはスタート前に、勝利を目指すのではなく、入賞を目指すと話していた。
成功の鍵を握るスタートは、軽い重量を活かして、KERS勢を抑えてトップでレースを展開する。
だがトップで入った最初のストップで信じられないミスが起こる。
右前輪のナットが締まっていない状態で、ロリポップを上げてしまい、アロンソはピットを後にする。
当然、スピードの上がらないアロンソは後続車に抜かれ、最終的にアウトラップでタイヤが外れてしまう。
前日に外れた部品がマッサを直撃しただけに、あわや大惨事の場面だったが、アロンソに当たることもなく、コース脇に飛び出したから良い物の、非常に危険な場面だった。
事態を重く見たFIAはルノーに、次のヨーロッパGPへの出場を禁じることを命じた。
ルノーは控訴しているが、覆る可能性は少ない。
以前、同じようなケースでは、処分が下されていないが、マッサの事故の後だけにFIAはタイヤが装着されていない状況で、アロンソを走らせ続けた責任をチーム側に認めているようだ。
なんと、アロンソがいるからこそ、スペインはバレンシアで開催されるヨーロッパGPへアロンソが出ないという、事態に。
サーキット側はただでさえ、チケット販売が思わしくないのに、なんとかアロンソを出場させるべく、FIAに嘆願するようだが、希望は叶えられないだろう。