2014 Rd.15 日本GP観戦記 メルセデス 2人だけのバトル
レース前には圧倒的な優勢が予想されたメルセデスの2台。問題はチャンピオンシップを争う2人のどちらが勝つかであった。
FP3の終盤でクラッシュしたハミルトン。彼はこのクラッシュでオプションタイヤ(ミディアム)での、予選アタックのシミュレーションができなかった。これが影響したのか、彼は予選でチームメイトのロズベルグの後れを取り2位。鈴鹿は抜きにくいコースなので、通常ならロズベルグ有利のはずだったが、日本列島に接近中の台風18号の影響で日曜日は雨。その為、どちらにとってもイーブンな展開が予想された。
スタート前は雨が酷かったわけではなかったが、スタート直前に降りが激しくなり、レコノサンスラップ(※1)を繰り返すドライバー達は、レースができないことを訴えた。彼らの話が正しかったのは、SC中のエリクソンのスピンでも証明された。
セーフティーカースタートになったので、ポールのロズベルグはレーススタート後もトップをキープ。雨脚が強まれば、後方へのしぶきがハミルトンの視界を遮り、ロズベルグが有利だったのだが、雨はレース再開後も小雨になり、逆にどんどん路面が乾いていく。そのため、インターミディエイトタイヤを履くマシンが続出した。
先頭を走るロズベルグが先にタイヤ交換に向かうが、実はこの時レインタイヤでもまだまだ行ける状況だった。その為、ハミルトンはプッシュしてオーバーカット(※2)をしようと狙っていた。実際、彼のタイムは素晴らしくロズベルグを抜けそうだったのだが、スプーンカーブでコースアウトするミスをしてしまう。これでハミルトンは僅差でロズベルグを抜くことができなかった。
ところがこの後、事態が急変する。インターミディエイトを履いたロズベルグのペースが上がらない。彼はインターミディエイトタイヤに交換したあと、強烈なオーバーステアに見舞われて苦しいドライビングを強いられた。逆にハミルトンのペースは好調で、2人のタイムは1秒以上の差が出る周もあった。
ただ鈴鹿は抜きにくいサーキットである。例えDRSを使っても前のマシンがミスをしなければ抜かれない。実際、数周はロズベルグもハミルトンのアタックを防いでいた。だが29周目のシケイン立ち上がりで、ロズベルグはリヤタイヤを滑らすミスをする。立ち上がりの鈍ったロズベルグをハミルトンは1コーナーの飛び込みでアウトから抜き去った。
だがオーバーステアが酷いマシンで少し濡れたコンディション。しかも下り坂の最終コーナーで、ロズベルグのミスは責められないだろう。このレースはここで勝負がついた。その後、ハミルトンは瞬く間にロズベルグを引き離していく。
本来であればロズベルグはタイヤ交換して、マシンのバランスを修正すべきだったのだが、雨の状況が読めず実質的な2ストップで走りきりたかったメルセデスはその後もロズベルグを走り続けさせた。
だがそのために、ロズベルグは3位4位のレッドブル勢に迫られる展開で、最後に赤旗でレースが打ち切りにならなければ2位を脅かされていて苦しいレースだった。
これでポイントランキングトップのハミルトンとロズベルグとの差は10ポイント。まだまだ1レースでひっくり返る差である。ここからシーズン終盤に向けては、失敗の許されないレースが続く。
この二人は完全に相手だけを見てレースをする状況である。例え優勝できなくても、チームメイト前でフィニッシュすることが重要になる。その為、また波乱のあるレースが見られるかもしれない。
※1レコノサンスラップ
レース前、ピットから出てグリッドにつく際の周回のこと。レース開始30分前にピット出口がオープンされ15分前にはピット出口は閉鎖される。
この間であれば何周しても許される。この周回でルールで認められているレース用のセットアップ最終調整をすることから、この名前が付いた。レコノサンスとは偵察という意味である。15分前までにピット出口を通過できなければ、ピットレーンスタートになる。
※2オーバーカット
前を走るマシンよりタイヤ交換のタイミングを遅らせて、抜くこと。
前を走るマシンより早くタイヤ交換して、新しいタイヤでいいタイムを出して抜く「アンダーカット」が通常である。
だが今回のようにコンディションによっては、1周タイヤ交換を遅らせた方がいい場面もある。
アンダーの逆なので、オーバーカットと呼ぶ。
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