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2012 Rd4 バーレーンGP観戦記<br>復活したベッテルとライコネン

▽復活のベッテル
今シーズンは本当にタイトな戦いが続く。
中国GPの予選もかなり厳しい戦いだったが、このバーレーンでも同様の戦いが繰り広げられた。
Q1は3位から19位まで、Q2では2位から15位まで、Q3では1位から8位までが1秒以内の差にある。ということは、些細なミスでも大きく予選順位を下げるということである。

そんな厳しい予選バトルを制したのがミスの少なかったベッテルであった。
これはレッドブルのアップデートとベッテルが嫌っていたマシンの神経質な動きが緩和されたことが大きな理由である。

今シーズンは本当に厳しい戦いが続くので、少しのアップデートでも結果にすぐ反映される。
中国GPでウェバーはアップデートされたエキゾーストを使用したが、ベッテルはバルセロナテストで使用した旧型のエキゾーストを使用した。これはベッテルが新しいエキゾーストを使用した際のマシンの敏感な動きを嫌ったからである。
ただ中国GPの予選でも証明されたように、新しいエキゾーストを使用したウェバーの方が速かった。そこでレッドブルはこの短期間でベッテルの感覚に合うセッティングを見つけ出し、ベッテルは新しいエキゾーストを使用して、今シーズン初のポール・ポジションを獲得した。

そしていいスタートをきったベッテルは、そのままタイヤを温存しながら、ペースをコントロールする昨年の王者ベッテルスタイルで楽勝かと思われた。ところが思わぬ所から伏兵が現れてきた。ロータスの二台である。

▽驚異的なロータスの速さ
今回のレースではベッテルとロータスの二台だけが異次元のレースペースであった。4位以下とは毎ラップ1秒近い差があり、4位以下のドライバーは手も足も出なかった。
3位のグロージャンと4位のウェバーの差は28秒。これは同じピットストップ回数である事を考えると大差である。

特に新品のタイヤをソフト2セット、ミディアム2セット残したライコネンのペースは驚異的であった。予選ではQ1、Q2で各1回しかアタックせず、タイヤ を温存したライコネン。その為にQ2で脱落したのだが、11位からスタートしたレースペースは素晴らしく、第三スティントでタイヤの選択を間違えたベッテ ルを追い抜く勢いだった。

第三スティントでベッテルはソフトタイヤを選択したが、これは失敗だった。この判断は第二スティントでソフトを履いたライコネンのペースが良く、また長距 離でもタレが少なかったからだろうが、残念ながらロータスはレッドブルよりもタイヤに優しい。ペースの上がらないベッテルはライコネンの追い上げにあい、 ついには1秒差以内のDRSゾーンに入ってアタックされたのだが、ここはなんとか守り抜いた。

ここでライコネンがトップに立っていれば、ライコネンの逆転優勝は間違いなかったのだが、ベッテルはなんとかトップをキープ。その後はライコネンのタイヤ もタレてきてペースが落ち、ベッテルは息をつくことができた。その為、ライコネンとベッテルは同時にピットインして二人ともミディアムに交換。二人は最後 のスティントでの勝負へと向かう。

ところがミディアムを履いたベッテルは好調なペースを維持し、ライコネンとの差を常に3秒以上保ち続ける。最後まで追いかけるライコネンだったが、ベッテ ルに追いつくことはできずに、2位でフィニッシュとなった。プライムタイヤを履いたベッテルのペースはライコネンとほぼ同等で、ライコネンがベッテルを捉 える機会は二度と訪れなかった。

ベッテルの勝利の要因はミスのないドライビングでポール・ポジションを得たこと。スタートでトップをキープできたこと。そして第三スティントで追いすがるライコネンを抑えられたことである。

全く今年のレースは予想が難しい。

▽復活のライコネン
ライコネンは完全復活といってもいいだろう。
元々、彼は天才ドライバーが揃うF1ドライバーの中でもとびきりの天才ドライバーである。でなければF3を飛ばして、いきなりF1にのりテストで経験に勝 るチームメイトに勝り、すぐに入賞できるわけがない。だから彼に関しては、シーズン中のテストが著しく制限されていることは、あまり不利な要因にはなって いない。またシューマッハーと違い、完全に引退していたわけでもないし、シューマッハーよりも若い年齢と言うことも有利である。

これで来シーズンのシート争いがおもしろくなってきた。
ただマクラーレンの二人は変更がないだろうし、フェラーリがマッサの代わりにキミを乗せるとも考えにくい。となるとレッドブルのもう一台のシートとなるのだろうか。
実際、レッドブルは2010年に翌シーズンの契約でキミに接触した。
その時はまだライコネンがラリーに夢中であり、F1に戻る決断ができずに流れたのだが、来年であれば問題はないだろう。

△不思議の国のピレリタイヤ
今回、不思議なことにロングランではプライムタイヤ(ミディアム)の方がオプション(ソフト)より速い現象が見られた。これは二種類タイヤのタイム差が少 ないことと、バーレーンのあまりにも暑い気温により柔らかいコンパウンドはゴムの粘りが少なくなりすぎて、グリップが失われたのではないかと推測される。

特に新品のプライムは、中古のソフトよりも速かった。その為、ライコネンは新品のプライムを温存した。つまりライコネンは新品のプライムを第三、第四ス ティントで使いたいために、第一、第二スティントでソフトを履いたのだ。ただ彼らは第二スティントで(新品)ソフトでも長い距離を持たすことができてい た。
一方のベッテルは新品はミディアムタイヤを1セットしか持っていないと見られていた。だから彼らが第三スティントで(中古)ソフトを選んだ時は、予想外であったし、結果的にこれは間違った選択だった。

だがベッテルにはポールポジションという武器があった。これまでも何度か述べているように、ピレリタイヤはトップで空気の乱れのない空間で走ると明らかに タイヤの寿命が延びる。ポールからいいスタートを決めたベッテルは、常にきれいな空気の空間の中で走ることができ、それが今回の勝利の一因になったことは 間違いがない。

だからレースに勝ちたいのであれば、昨年のウェバーや今回のライコネンのように、タイヤを温存してQ1やQ2で落ちることは得策ではない。もちろん温存してQ3へ出られるのが一番良いのだが、今年の激しい競争の中ではそれは難しいだろう。
今回のライコネンのレースペースを考えると、タイヤを温存しなくても、かなり速かったと思う。実際、彼は第一スティントで上位陣を追い抜くために、タイムをロスしている。その間に広がったベッテルの差が、ライコネンの勝利を阻んだとも考えられる。
それを考えるとライコネンがQ3へ進出し、上位からスタートしていれば結果がどうなったかは興味深い。

▽見せ場のなかった可夢偉
今回の可夢偉はいいところがなかった。
本人の言うとおりレースペースが全く上がらず、これでは2ストップでも3ストップでもあまり結果としては変わらなかっただろう。昨年は金曜日は悪くても、 セッティングを変更した土曜日以降は改善することも多かったのだが、ジェームズ・キーの離脱の影響は大きいのか、今回は全くダメだった。

可夢偉が最後のピットインを延ばしたのは、セーフティカーが入ることに唯一の望みを託したからである。確かにあのタイミングでセーフティカーが入ってくれれば、可夢偉は履き替えたばかりタイヤで入賞できただろうが、ほとんど神頼み的な作戦しか取れないザウバーだった。
せっかくマシンの基礎となるペースは悪くないのだが、それが結果に結びつかずに、非常にフラストレーションのたまるレースとなった。

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