最初のバトンのアタックで二台は、サイド・バイ・サイドで1コーナーを抜けていくが、2コーナーでインにつけた可夢偉が逃げ切る。
二度目のバトンのアタックでは、バトンがブレーキングでオーバーシュートし、一時は可夢偉をかわすものの、可夢偉が差し替えしてポジションをキープする。
三度目のアタックで、ようやくバトンが可夢偉をかわしていった。
可夢偉はバトンより、ストレートスピードが5km以上遅く、それでも18周に渡ってワールドチャンピオンと競り合ったバトルは、昨今のオーバーテイクが少ないF1においてはビッグニュースだった。
レース中、バトンは可夢偉がブレーキング・ゾーンでラインを変えることに異議を唱えていたが、明らかに可夢偉が1コーナー手前でラインを変えていたのは2回で、それもそれほどひどいとは思わなかった。
それに殆どの周回でバトンは、可夢偉に追いつけていなかった。
毎ラップ同じようにラインを変えていれば、問題だと思うが、そうではなかった。
ウェバーのスタート時での動きもかなり厳しい。
かつてミハエル・シューマッハーはスタート直後に何度もラインを変えて、不評をかったこともある。
それらに比べて可夢偉が著しく危険だとは思えない。
もっともバトンからすれば、ワールドチャンピオンがかかった大事なレースで、新人ドライバーが目の前でちょろちょろ動くのだからたまらないだろう。
抜きに行くときに接触でもしたら、全てはパーであるのだから。
だが可夢偉はバトンを押さえ込む気なら、もっと厳しくインを閉めることもできた。
そうすれば接触したくないバトンは、必ず引くからだ。
だが、バトンは実際に三回インに飛び込めている。
だから、私は可夢偉のドライビングが、極端に危険だとは思わない。
もし、この走りが危険であると判断されればF1においてバトルは見られない。
いきの良い新人ドライバーが出てくれば、先輩ドライバーからたたかれるのは、昔も今も同じである。
セナもシューマッハーも新人の頃は危険だと言われていた。
デビューレースで周回遅れにされたセナを抜き返したアーバインはレース後セナに殴られた。
速い新人ドライバーは、経験不足や駆け引きを知らないために、無理なところで、無理な仕掛けをすることある。
だが、それは彼らも学習してきたことだ。
可夢偉はまだ1レースしか走っていない。
そして、アブダビでもう一度チャンスが与えられた。
彼のレースを楽しみにしたい。