タイヤと会話する男 キミ・ライコネン
■タイヤマイスター キミ・ライコネン
韓国GPのレース前の予測では2ストップは3ストップより10秒速いと考えられていた。だからほとんどのドライバーは2ストップで作戦を組み立てていた。ところがライコネンだけは3ストップを考えていた。ではどうしてキミは9位から3位になれたのだろう。
ライコネンが3ストップを考えていたのは、タイヤのタレが予想以上に厳しかったからだ。実際、最初のピットストップは予想より3周から5周も早かった。だからキミは2回目のストップを上位陣では誰よりも早く25周目にした。ここでほとんどのドライバーは反応しなかった。彼らは依然として2ストップ作戦を考えていて、残り約30周を1セットのタイヤで走りきることはできないと思っていた。
ここでライコネンは前を走っていたメルセデスの二人やアロンソをアンダーカットすることに成功。この判断でライコネンの前からライバルが消えて、セーフティカー導入時に彼は3位になっていた。前を走るのはベッテルとチームメイトのグロージャンである。そしてグロージャンのミスに乗じて2位に上がると、ライコネンよりも速いグロージャンを抑え込み9位から2位という素晴らしい仕事を成し遂げた。
もちろん幸運もあった。セーフティカーが二度も導入されたことで、ライコネンは2ストップでレースを走りきれた。だがこの走りは誰にでもできるわけではない。セーフティカーが入ったとはいえ、最後のタイヤ交換からレース終了まで30周を1セットのタイヤで走るのは、かなり難しい。ライバル達はライコネンよりも5周以上新しいタイヤを履いているのである。ところがライコネンはこの使い古したタイヤの限界を超えるでなく、限界より下で走るでもなく、まさに限界ギリギリのペースで走り続けてタイヤを持たせた。口で言うのは簡単だがこれをF1で実現するのは並大抵のことでない。
彼はタイヤと会話しながら走ることができる。だからこんな芸当をこともなげにできてしまう。
これを今年、彼は何回も見せてくれている。芸術的な走りである。彼はタイヤの限界を感じて走ることのできる、希有な才能の持ち主なのである。
これができるからこそ、彼はアグレッシブなタイヤ戦略をとることができる。ライバルはライコネンの次の周にタイヤ交換すれば、レース終盤でタイヤが厳しくなり順位を大きく落とすリスクがある。かといってライコネンに反応しなければ彼に抜かれてしまう。究極の選択である。
だからこれは誰にでもできる作戦ではない。キミだからこそできる作戦なのである。
作戦名「キミ・ライコネン」という作戦である。
だから彼は予選順位が悪くても上位に来られる。
タイヤマスターというのは彼のようなドライバーのことをいうのだろう。
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