抜群のスタートでトップにたったベッテル。その後のレースペースも素晴らしくメルセデスに対してリードを築く。
一歩一歩勝利に近づきつつあったベッテルの勢いが暗転したのが、アロンソのクラッシュであった。ベッテルは最初のタイヤ交換で予想外にスーパーソフトからスーパーソフトへ交換。
アロンソのクラッシュで赤旗中断したが、当初はセーフティカーが登場する予定だった。もしセーフティカーが出れば激しいクラッシュから見て、多くの周回数が必要なのは明らかだった。
そうすればフェラーリはスーパーソフトタイヤでより多くの周回数を稼げるので、最後のスティントでソフトタイヤを履くことができて有利になると思われた。ところがセーフティカー表示はすぐに赤旗中団へと変更され、全車がピットレーンに戻された。この場合、タイヤ交換することができる。
ここでメルセデスとフェラーリの明暗は分かれた。まずメルセデスはすでにソフトタイヤに交換済みだったロズベルグのタイヤをミディアムに交換。ベッテルはそのままスーパーソフトの中古にタイヤ交換した。
ここでメルセデスはミディアムにタイヤ交換して、最後まで走る作戦に切り替えた。これは赤旗中断1周前にミディアムに交換して、最後まで走ろうとしたハミルトンと同じ作戦である。
ハミルトンの作戦は、彼がスタートで出遅れて順位を取り返さなければならなかったので、ある意味ギャンブルでもあった。それは残り39周をミディアムで走れる保証はなかったからである。
だがメルセデスは2位ではなく、優勝を目指す為にロズベルグにミディアムをはかせた。一方のベッテルはそのままスーパーソフトに交換したが、これが失敗した。
最初の数周こそベッテルはリードを広げたが約4秒ほど広げてからは、徐々にロズベルグとのタイムが逆転。そうなるともう一度タイヤ交換しなければならないベッテルに勝ち目はなかった。
だがトップを走るベッテルが赤旗中断時にミディアムにタイヤ交換するもかなりのギャンブルである。レース終了後にあそこでフェラーリもミディアムを履かせるべきだったというのは簡単である。
だが作戦担当があそこでミディアムを履かせようと指示するのは、かなり勇気のいる判断となる。だからこそメルセデスの判断が素晴らしかったということになる。
メルセデスはシーズン前のテストでもミディアムでの走行距離が長かった。それは様々なテストをする為に走行距離を延ばしたかったからなのだが、それが彼らにミディアムタイヤの特性への理解を深めさせることにつながった。
だから周りから見るとギャンブルに見えたが、彼らはミディアムで最後まで走りきれる自信があったと思う。それにここは抜きにくいコースなので一度前に出られさえすれば、タイヤがたれてきても、ペースをコントロールして順位を維持することは難しくない。
厳しいことを言えばフェラーリがメルセデスと違うタイヤ選択をする理由はまったくなかった。フェラーリはトップにいて有利な状況であった。
だから彼らは常にメルセデスの動向をみて彼らと同じタイヤ選択をすれば間違いはない。ただフェラーリにも事情があった。彼らには新品ソフトタイヤの1セットしか残されていなかった。そしてフリー走行でセーブしたスーパーソフトの新品が1セットあった。
つまりフェラーリは最初からスーパーソフトをメインにして、最後にソフトを履く作戦であった。そしてそれを赤旗中断時に変更できなかった。
昨年はメルセデスにはメディアムと相性が良く、フェラーリはソフトタイヤとの相性が良い。それが彼らが選択した作戦に影響しており、それが結局勝負を分けた。