今回のレースも完全なロズベルグの完全な勝ちパターンのレースに見えた。だがその裏で勝ちを失いかねない事態が進行していた。
実はレース中盤でロズベルグのタイムが落ちた時があった。この時すでに2位のベッテルに20秒近い差をつけており、ワンストップのロズベルグがタイヤをいたわってクルーズモードになったのだと思った。これ以上速く走る必要はまったくなかったからである。
もしくは周回遅れに引っかかったのかもしれないと思った。この新しいサーキットのインフィールドセクションはクルマ一台が通れるほどの道幅しがなく、周回遅れのマシンも道を譲りたくても譲れないコースであった。前のマシンがクラッシュすれば、後ろのマシンは避けようがなく、そのまま激突するようなコースである。
実際にライコネンやベッテルは周回遅れのマシンが道を譲らないと不満を述べていた。だが譲らないのではなく、譲れないのである。だがこの時のロズベルグのペースダウンはトラブルであったことがレース後にニキラウダから明かされた。
レースをライブで見ていた人はわかっていたと思うが、実は同様のトラブルがハミルトンにも現れていた。
これはエンジンのモードの問題であり、ソフトウェアの問題でもある。今のF1は複数のエンジンモードを持っていて、パワー重視のモードや燃費重視のモード。そしてその中間のモードである。
F1チームはマシンのアップデートをするのと同じように、エンジンのモードも修正をしてより少ない燃料でより多いパワーを搾り出せるようにしている。今回もメルセデスのトトウルフは、メルセデスがエンジンのモードを修正をしたことを認めている。
ただ問題があったのは金曜日にテストプログラムを消化する中で混乱して、エンジンモードのテストが十分にできなかった。
そしてそのままスタートしてレース中盤にトラブルが発症してしまったというわけである。こういうのはソフトウェアではよくある問題である。
これによりハミルトンもロズベルグもパワーを失ってペースが落ちた。この時の二人ともピットに助けを求めたが、今年からピットからの無線指示内容が厳しく制限されており、ピットからトラブルを解消するような具体的な指示を出せなくなった。これにより2人のドライバーは厳しい立場に追いやられた。
だがこれも不思議なことにハミルトンのトラブルは一時的に回復してペースが戻った。だがすぐに再発して再びペースが落ちた。最終的に再び彼のトラブルは直った。だがすでに前を走るペレスとは大きな差があったので、その後はエンジンを労って走ることにした。幸いなことにハミルトンは後ろのボッタスに十分な差があったのと、ボッタスのペースもよくなかったので5位のポジションはキープできた。
ではロズベルグはどうだったのだろう。彼は自分でスイッチを操作して直してしまった。彼はこの直前にモードを切り替えており、元にもどすことにより復活させることができ、ロズベルグはそのまま勝利した。
現在のステアリングには多くのスイッチがついており、これでマシンやパワーユニットを制御している。今のF1では自動的にコントロールしてはいけない項目も多く、その場合ドライバーが自分の指でスイッチを操作しなければならない。
実際、今のF1ドライバーはステアリングホイールを操作する以上にスイッチの操作もしている。ひどいときには、コーナーの入口を出口でセッティングを変えることすらある。
そうであるならば、ドライバーが自分で考えて操作すればいいとなるのだが、そう簡単なことではない。なぜならドライバー達は、レース中200近い心拍数でドライビングしている。これを一般人に例えると100メートル走を全力で走りながら連立方程式を解くぐらい難しいことである。
だからロズベルグが偉くてハミルトンがダメとだというわけでもない。ソフトウェアのトラブルは簡単に治る時もあれは、治らない時もあり、なかなか難しい問題である。
今のF1はあまりにも複雑になりすぎていて、今回のメルセデスも決して楽勝でなかったことがよくわかる。