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メルセデス最強もボッタス薄氷の勝利 2020第1戦 オーストリアGP観戦記

まず最初に新型コロナウィルスの大流行で病院等の最前線で感染拡大を防ごうと昼夜を問わず、医療業務に携わっていただいている医療従事者の方に敬意を表すると同時に、感謝を申し上げます。

また、新型コロナウィルスに罹患された方とそのご家族、関係者の皆様にお見舞い申し上げます。

コロナウィルスの世界的な感染拡大を受けて、開幕直前でキャンセルされてから4ヶ月。いよいよ2020年シーズンが始まりました。
 
▽メルセデス最強もボッタス薄氷の勝利
ボッタスがポールからスタートし優勝したので、言葉だけ見ると簡単で退屈なレースのように見えますが、実際はなかなかエキサイティングな展開でした。レースは最初から、予想通りボッタスとハミルトンの一騎打ちの様相でした。
 
予選で3位につけたフェルスタッペンとポールのボッタスと0.5秒差があると厳しいですよね。ハミルトンは予選でイエローフラッグ無視のペナルティで5位スタートでしたが、スピードが違うハミルトンはすぐに2位まで上がり、ボッタスを追います。
 
この時点でボッタスは4秒ほどのマージンがありました。25周目にマグヌッセンがブレーキトラブルでストップ。ここでセーフティカーが入り、メルセデスは二台同時にタイヤ交換を実施します。二台の差が4秒あれば十分可能です。
 
これで2台の差は1秒に縮まってボッタスにとっては一見不利な展開と思われたのですが、実は本当にメリットがあったのはボッタスでした。

理由はセーフティカー登場の直前までボッタスはタイヤがたれてきていていタイムが落ちていました。ハミルトンの方は自己ベストを更新できてはいませんでしたが、安定したタイムで走れていました。恐らく5周前後あればボッタスに追いつくことができていたでしょう。そうなるとボッタスは先にタイヤ交換に入らないと抜かれてしまいます。
 
その間にハミルトンはハマータイムで走るでしょうから、ボッタスは新品とは言え温まりの悪いハードタイヤで走ればハミルトンに抜かれる可能性が高くなります。ハミルトンが先にタイヤ交換したら確実にボッタスを抜くことができたしょうから、どちらにせよこのセーフティカー登場で同時ピットになり順位をキープできたのはボッタスにとっては幸運とも言えました。
 
その後、2台はギアボックスにトラブルの兆候があり縁石に乗せないで走るように指示が出ました。こうなると後ろを走るハミルトンは抜くのが難しくなります。ハミルトンがサスペンショントラブルならわかるけど、ギアボックスがおかしいのに縁石に乗るなと言う指示はおかしいという主旨の発言をしていました。
 
確かにそうなんですが、縁石にマシンを乗せると当然タイヤは激しく衝撃を受け上下動を繰り返します。その時タイヤが中に浮くこともあります。そうるとギアボックスには一瞬負荷が掛からない状況になり、その直後に急にグリップしたタイヤからの力が加わります。これはギアボックス(というか駆動系全体)にとって理想的な状況ではありません。
 
このトラブルは機械的なものではなく、電気的なものであると後日チームは発表しています。しかしながら今のギアボックスは実質的には電動オートマチックみたいなものなので、電気的なトラブルが発生すればギアが動かなくなるか、ニュートラルになって前進することができませんので、かなり深刻なトラブルだったのでしょう。
 
ただ順位を争う二人は縁石に乗り続けていて、チームからは継続的に指示が飛んでいました。この当たりは負けず嫌いのF1ドライバーという感じでしたね。
 
▽アルボン優勝目前で接触
そうしている間51周目、2回目のセーフティカーが登場します。ここでメルセデスはステイアウトを選択します。1-2なのですからポジションキープは当然の判断です。ところが3位を走っていたアルボンが以下がタイヤ交換します。特にアルボンは予選で3周だけ走ったソフトタイヤを選択。25周以上走ったハードのメルセデス二台の直後につけます。
 
それでもメルセデスの二台が逃げ切ると思われましたが、さすがにフレッシュなソフトとくたびれたハードでは、タイヤのグリップが違いすぎてさすがのハミルトンも抜かれそうになります。しかもアウトからアルボンが抜いていくのですから、よほどグリップの違いがあったのでしょう。ところがアルボンがハミルトンを完全に抜いたと思われた瞬間。ハミルトンの左フロントとアルボンの右リアが接触。アルボンはスピンして順位を大きく落とします。ハミルトンは5秒ペナルティで4位に降格し表彰台を逃しました。

アクシデント自体はレーシングインシデントだと思いますが、アルボンの方が完全に前に出ていたのでペナルティも妥当なものだったと思います。ただこれで失ったものの価値を考えるとアルボンの方が大きいのは間違いありません。
 
ハミルトンを抜いていれば前にはボッタスしかいませんし、タイヤはフレッシュですし、しかもソフトタイヤをアルボンは履いています。初優勝も十分に可能でした。それだけにアルボンはもう少し慎重にいっても良かったと思います。
 
そしてこれは重要なのですが、アルボンはメルセデスとハミルトンに対して猛烈な抗議を行うべきだったと思います。ハミルトンがアルボンと接触したのは昨年のブラジルGP以降2度目です。あの時はアルボンもナイーブだったと思いますが、さすがに2度目で初優勝を台無しにされたのですからアルボンには講義する資格があります。要するに今のアルボンには怖さがないんですね。
 
例えばフェルスタッペンとバトルするときには、ハミルトンはもっと慎重に走ると思います。フェルスタッペンがタフな相手だと知っていますからね。要はアルボンはまだハミルトンに相手にされてないんです。アルボンには怖さがない。
 
残念ながらいい人はF1では成功しません。セナもプロストもシューマッハーも少なくともコース上では、いい人ではありませんでした。相手を押し出しても勝つという強い意志がありました。それはハミルトンもフェルスタッペンもルクレールも同じだと思います。
 
アルボンが手強い相手だと思われる為には、もう少し予選で速さを見せる必要があります。もちろんフェルスタッペンは速いドライバーですし、だから彼よりも速く走るのは難しいのは間違いないですが、少なくとも同じレベルかもう少しタイム差を縮めないとやっかいな相手だとは思われないですよね。やはりドライバーは誰が速いかは十分にわかっていますから。

▽差を広げられたレッドブル・ホンダ
二台ともフィニッシュできなかったレッドブル・ホンダですが、それほど落ち込む必要はないと思います。フェルスタッペンのトラブル(いきなりアンチストールモードに入ってしまった)は明らかにソフトウェアかセンサー系のトラブルでしょう。
 
もちろん現代のソフトウェアは膨大な量ですから、間違いを修正するのは簡単ではありませんが、アルボンは終盤まで走れているわけですから、深刻なトラブルではないと思います。
 
それよりも予選でメルセデスに0.5秒の差をつけられた方がショックですね。もう少し差は小さいかなと思っていました。特に昨年は高地サーキットではホンダの競争力はあり、少なくとも高地サーキットではメルセデスと実力で勝負できる力がありましたから、そう考えると相対的なポジションが後退した感じです。つまりメルセデスは良い仕事をしたということです。
 
シーズン前テストやオーストリアの練習走行でスピンしていることからもわかるように、彼らのマシンは明らかにオーバーステアです。当然彼らもそれはわかっているようで、フェルスタッペンには新型のフロントノーズが装着されていました。
 
ところがご存じのようにフェルスタッペンもターン1でスピンしています。クリスチャン・ホーナーもレース後に次のレースで新型のフロントノーズを使うかどうかはわからないと述べています。ここからわかることは、新型のノーズでは問題解決ができていないとうことです。
 
実は昨シーズンもレッドブルは同じような問題に遭遇していました。彼らはオーストリアGPに新しいフロントウィングを持ち込み問題を解決し、優勝したことは覚えてますよね。今年レッドブルはマシンのコンセプトを大きく変えてきました。フロントノーズが細くなっているのがその証拠です。よりメルセデス寄りのマシンにしてきました。
 
なのでレッドブルがこの問題を解決して、本調子になるには少し時間が必要になるかもしれません。ただ今年は今後、ほぼ毎週レースが続きますから、なかなかキャッチアップするのが難しいと思います。もちろん開発自体はファクトリーでできるのですが、毎週レースだと新しいパーツの投入、実行、検証のプロセスを回すのが難しくなります。
 
それでも勝つ為にはやらなければならないのですし、追いつく方は現状維持では差が縮まらないわけです。さらにはメルセデスも止まっていないわけで、今年はいくつレースあるかもわからない。少なくとも昨年よりもレース数が少なくなるのは間違いないですし、そう考えるとレッドブル・ホンダにとっては、なかなかタフなシーズンになりそうです。
 

 
▽今シーズを占うチーム予想
それでま毎年恒例の当たるも八卦当たらぬも八卦。
今シーズンのチームの予想をしたい思います。
 
・メルセデス
正直、予想以上の進歩を見せられました。
普通追われる方がつらくて、差を縮められるものなのですが、彼らはマジックのポケットをたくさん持っているようです。
ハミルトンとボッタスのペアも素晴らしいので、今年彼らからチャンピオントロフィーを奪い取るのは至難の業でしょう。
 
・レッドブル・ホンダ
今シーズンはメルセデスといい勝負できるかと思いましたが、開幕戦ではまったく歯が立たない状況でしたね。
ダウンフォースのバランスが悪くて、これではフェルスタッペンも思い切って攻められない。
開発を進めていけば、追いつくことはできると思いますが、今年は連戦が続きますし、レース数も限られるので、最初に差をつけられると逆転するのは難しくなります。
ホンダもメルセデスとの差を更に広げられた感じで、少なからずショックを受けているのではないでしょうか。
今後は開発も制限されるので、今シーズンもなかなかチャレンジングなシーズンになりそうです。
 
・フェラーリ
昨年の疑惑のパワー騒動で制限を加えられてから、明らかにフェラーリのパワーユニットはパワーダウンしています。
昨年はダウンフォースの少なさをパワーで補っていたのですが、それがないとかなり苦しいですね。
空力のコンセプトも昨年同様なので、大きな進歩は望めませんし、今後アップデートしても苦しいシーズンになりそうです。
 
・マクラーレン
驚くほど進化したマクラーレン。幸運はありましたがノリスの初表彰台も見事でした。
完全にワークスルノーを凌駕していましたね。
やはりジェームズ・キーの力が大きいのでしょう。
資金面では苦しい部分もありそうですが、今シーズンは楽しめそうです。
 
・ルノー
あまりうまくいってない感じです。
ワークスチームといいながらも上位3チームとはリソースで差があるのは事実ですが、以前のように限られたリソースを活かして開発を進めていく感じがありません。
組織体制を一新しないと今後も難しいと思いますが、親会社の混乱が影響しているのでしょうか。
 
・レーシングポイント
昨年のメルセデスそっくりさんになったレーシングポイント。
ただ見た目を真似すれば速くなるなら誰も苦労しないわけで、外見が似ていてもきちんと中身を理解して開発しているのだと思います。
だから速さもあります。今シーズンはコンストラクターズ4位を争えそうです。
 
・アルファタウリ
今シーズンはホンダのパワーユニットもいいですし、シャシーの開発もレッドブルとの協力が順調で競争力がありそうです。
コンストラクターズ4位を争うにはちょっと厳しいかもしれませんが、入賞はコンスタントにできそうです。
そして願わくば1回くらいは表彰台登れたらいいですね。
 
・アルファロメオ
フェラーリのパワーユニットの性能不足に足を引っ張られている感じですね。
ギアボックスもフェラーリから供給してもらっているので、空力面での独自開発も制限されますしね。
 
・ハース
昔ならわかりますけど開幕戦で二台にブレーキトラブルが発生するというのは、ちょっと今のF1のレベルを考えるとちょっとお粗末な感じです。空力とかは違う基本的な部分ですし、ブレーキトラブルは本当に危険です。
そこが開幕戦できちっとできていないと言うことは、うまくいっていない証拠です。
資金的にはかなり厳しそうですし、フェラーリのパワーユニットも今ひとつなので今シーズンは苦労しそうです。
 
・ウィリアムズ
今シーズンを乗り切られれば大成功という感じですかね。
資金不足でもはや身売りしかない状況です。
ただこのコロナの感染拡大で買収候補も限られてくるでしょうか、F1側から資金的な補助も必要になるかもしれません。