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勝利に値したボッタスとハミルトンのラッキーな不運 エミリア・ロマーニャGP観戦記

スタートではボッタスがリード、フェルスタッペンが2位に。ハミルトンは3位で苦しいレースが予想されましたが….

スタートで3位に落ちてかなり不利な状況のハミルトンでしたが終わってみればまた優勝しました。ハミルトンにはラッキーなVSC登場もありましたが、それがなければボッタスが勝ったのでしょうか。14年ぶりにイモラで開催されたエミリア・ロマーニャGPを振り返って見ましょう。

▽限られたフリー走行
このレースの大きな特徴は金曜日のフリープラクティスがなく、土曜日に1時間30分のフリープラクティスが一回だけというフォーマットでした。通常はフリー走行は合計で4時間(金曜日3時間、土曜日1時間)あります。それが半分以下になったのですから、どのチームも大忙しです。ロングランで始まり、燃料を減らして予選対策をして、最後にレースセットアップをします。

1回しかフリープラクティスがないのですから、失敗は許されません。クラッシュしたり、メカニカルトラブルが起きれば予定していたプログラムができなくなります。それはそのドライバーにとっても、チームにとっても大きな痛手です。とにかく時間が足りないのでタイヤプログラムも二人で手分けしないといけないからです。実際、3種類のタイヤ全てでロングランできなかったチームもありました。ということはそのチームはタイヤの挙動を把握しないままレースをスタートすることになります。

また1回のフリープラクティスですので、大きなセットアップの変更も難しくなります。フリー走行終了後に大きなセットアップの変更をした場合、いきなり予選を走らなければならず、それは大きな賭になります。

とはいえ結局はチームの総合力が試される訳なので、トップ3の順位には大きな影響がありませんでした。ただし4位にはガスリー、5位にはリカルドの名前がありました。

ボッタスをリードするハミルトン

▽報われなかったボッタスの素晴らしい走り
予選では見事な走りでポールポジションをとったボッタスがスタートでも首位をキープしました。予選2位からスタートしたハミルトンはダーティな路面に悩まされて3位のフェルスタッペンにかわされてしまいます。ところがこの3位になったことでハミルトン勝利の道筋が見えてくるから不思議です。このメルセデスの間にフェルスタッペンが入ったことがハミルトンの最初の幸運となりました。これがチャンピオンの勢いなのでしょうか。ただ3位に落ちたハミルトンはフェルスタッペン後方の乱流に苦しみ、ついていくのがやっとの状況でした。

このサーキットは幅が狭く、また前走車の乱流の影響が大きいので大きなミスがない限り追い抜くことは難しい状況でした。となると抜くのはタイヤ交換のタイミングしかありません。だからメルセデスはボッタスにアンダーカットされないようにフェルスタッペンとの差を広げるように指示していました。ただ思うようにボッタスのペースは上がりません。いつもならレッドブルとの差を広げていくのですが、この日は違っていました。

実はボッタスの左のバージボードには1周目にベッテルが接触し落としたフロントウィングのエンドプレートが引っかかっていました。これでボッタスは0.5秒〜0.8秒ほどのラップタイムを失っていました。それでもボッタスはフェルスタッペンとの差を2.5秒に広げていたので、この日のボッタスの走りは素晴らしかったと言えます。

レッドブルも最初で最後のタイヤ交換のタイミングでしかボッタスを抜くことができないことは、わかっていました。そこで18周目に思い切って早めにタイヤ交換をしてアンダーカットを狙いました。当然ボッタスもポジションを維持するために次のラップでタイヤ交換します。2.5秒差があったのとフェルスタッペンが交換したタイヤがハードタイヤだったこともあり、ボッタスは順位を維持してコースに戻ります。

ついにこらえきれずにコースアウトするボッタス

ここでメルセデスはひとつの決断をしました。それはハミルトンをステイアウトさせることです。通常メルセデスが1-2で走行しているときは、先頭のドライバーがタイヤ交換すれば、次の周に2位のドライバーがタイヤ交換するのが通常です。ところがこの日は違いました。二人のメルセデスドライバーの間にはフェルスタッペンがいたからです。このタイミングでハミルトンをピットに戻していたらハミルトンの順位は3位のままで変わらなかったでしょう。

メルセデスの目標は常に1-2フィニッシュです。どちらのドライバーが勝とうが、チームは関心がありません。通常はそれでも問題ないのですが、この日トップを走っているドライバーはボッタスでした。今日のボッタスは不運だったとしか言いようがありません。

しかもボッタスのマシンに異常があることはチーム側も理解していたのですが、どの箇所に問題があるのかはタイヤ交換前には把握していませんでした。だからボッタスのタイヤ交換時にチームは破片が挟まっているのは見えたのですが、それを取り除く時間はありませんでした。もし取り除いていたらフェルスタッペンにアンダーカットされていたでしょう。そのためボッタスは破片をつけたまま走り続けなければなりませんでした。

ボッタスにとって最大の問題はマシンが安定しないことでした。ダウンフォースが減っているのはまだドライバーが対処できたのですが、コーナーごとにブレーキングや立ち上がりの挙動が一貫していなくて、安定した走りをすることができませんでした。当然タイムも上がりません。一方のハミルトンはこの日のベストタイヤであるミディアムを履いていて、クリーンエアの中を走れていました。ボッタスとのタイム差は拮抗していましたが、ハミルトンは徐々に差を広げていきます。これを見るだけでもこの日のボッタスがいかにいい走りをしていたかがわかります。

勝利のチャンスもあったフェルスタッペン

そしてハミルトンがタイヤ交換してもトップで戻れるギリギリのタイム差が開いた時点でVSCが指示されます。しかもハミルトンが最終コーナーを回るくらいのタイミングでVSCが表示されたので、ハミルトンはすぐさまピットイン。10秒以上の余裕を持ってコースに戻ります。しかもハミルトンがタイヤ交換を終えてコースに戻るあたりでVSCは解除されます。まさにハミルトンのタイヤ交換のために出されたかのようなVSCになりました。

ではもしこのタイミングでVSCが指示されなければハミルトンの優勝はなかったのでしょうか。先ほども述べたようにボッタスはトラブルがありペースが上がっていませんでした。ほんの少しづつですがハミルトンは差を広げていましたので、どちらにせよもう数周してタイヤ交換していれば、ハミルトンはVSCなしでも順位を失うことなくタイヤ交換ができていたと思います。ただこのVSCのおかげでハミルトンのレース展開が楽になったのは間違いありません。

ボッタスは安定しないマシンで頑張り続けましたが、最初は36周目にミスをして飛び出しました。そこでは何とかフェルスタッペンを抑えましたが、続いて42周目にミスをして、この時はフェルスタッペンに抜かれます。この日のフェルスタッペンはとても速かったので、もしボッタスがここまでがんばれず早い段階でフェルスタッペンに順位を明け渡していたら、フェルスタッペンはハミルトンより前で走れて優勝も可能だったと思います。

勝者に値する走りも見せたボッタス

そう考えるとこの日のボッタスは優勝こそハミルトンに譲りましたが、メルセデスの1-2フィニッシュはボッタスの走りがなければできなかったと思います。

その後、フェルスタッペンは右リアタイヤのパンクでリタイヤし、そのSCでメルセデス2台はタイヤ交換をしました。このタイミングでボッタスは破片を取り除くことができ、このレースで初めてまともなマシンで走れましたが、抜けないこのサーキットではハミルトンを抜くことはできませんでした。

フェルスタッペンにとっては勝てる可能性のあるレースを落としました。ただやはりメルセデスのように2台が上位にいると、この日のように作戦を分けることができます。一方のレッドブルはフェルスタッペンの一本足ですから、このようなレースになると厳しくなります。そう考えるとアルボンが来年残留することは考えにくく、もう少し戦闘力のあるドライバーが必要になるのは明らかです。