F1 ニュース&コラム Passion

フェルスタッペン 薄氷の勝利 ー Rd.2 エミリア・ロマーニャGP観戦記

このイタリアの片田舎のクラシックなコースは、追い抜きが難しく退屈なレースになると考えられていましたが、レーススタート45分前に降り始めた気まぐれな雨が、スリリングなレースに変えました。昨年のトルコGPのように乾いてくる路面状況に適切に対応する必要があり、それに成功したドライバーもいれば失敗したドライバーいます。それではエキサイティングなレースになったエミリア・ロマーニャGPを予選から振り返って見ましょう。

難しいコンディションの中を快走するフェルスタッペン

▽僅差のレッドブルとメルセデス
予選でポールポジションを獲得したのは、意外にもハミルトンでした。0.03秒差のポールですから、差はほとんどなかった言っていいでしょう。開幕戦からの3週間でメルセデスは、レッドブルとの差を縮めてきました。とはいえまだ純粋なマシンの性能だけを見ればレッドブルが有利な状況です。実際、フェルスタッペンは予選でミスを冒しています。それでもミスもなくマシンの性能を余すことなく使い切ってポールを取れるのがハミルトンの実力でしょう。実際、チームメイトのボッタスは予選8位に沈んでいるわけですからね。

そしてフロントロウの予選2位はペレスが並びました。フェルスタッペンがミスをしたとはいえ、誰でも予選2位になれるわけではありません。そして予選3位にはフェルスタッペンが位置します。このサーキットは古いタイプのサーキットなのでコース幅が狭く、しかも現在のF1マシンは昔のマシンに比べて大型になっており、抜くのがかなり難しいサーキットなので、このポジションからのレースは厳しくなると思われましたが、レース前に降った雨が状況を変えることになります。

レーススタート45分前に雨が降り始めました。これにより路面は濡れてきます。さらにやっかいなことにこの細長いサーキットの前半部分はウェット路面で、後半分はダンプ状態でした。そのため大半のマシンはインターミディエイトでスタートします。スタート時に雨はほとんど止んでおり、今後は強い雨が降らないという予報もその選択を助けています。

スタートの蹴り出しはフェルスタッペンが最高でした。ハミルトンも蹴り出し自体は悪くなかったのですが、その後の加速で少しホイールスピンをさせてしまい加速が鈍ります。そこをフェルスタッペンがインから並びかけます。ここでフェルスタッペンが抜くのですが、シケインの中でハミルトンに軽く接触。ハミルトンの左フロントウィングのエンドプレートの一部が破損します。これでハミルトンは0.6秒/ラップのタイムを失います。ところが当初エンドプレートのパーツがぶら下がって、空気の流れを阻害していたのですが、走っているうちにパーツが脱落したため、空気の流れが改善し、ハミルトンのロスタイムは0.2秒ほどに改善しました。

昨年のトルコGPを見るとわかりますが、昨年のレッドブルは雨での競争力があるとは言えませんでした。しかし今年は違うようです。逆にメルセデスは昨年、雨のレースに強かったのですが今年はタイヤのウォームアップ性能に苦しんでいるようです。マシンの開発自体は制限されていたのですが、特性が逆転するのはとても興味深いですね。

それにしてもフォーメーションラップを1周しただけで、バトルしながら一番路面が濡れているタンブレロに飛び込んで行くわけですから、F1ドライバーはすごいですよね。普通スピンしてもおかしくないのですが、トップドライバーは違います。

タンブレロで激しくしかしフェアにバトルするフェルスタッペンとハミルトン

▽いつドライタイヤに変えるか、それが問題だ
第1セクターはかなり水しぶきが多いのですが、マシンはアクアプレーニングを起こすほどでなく、インターミディエイトで走れる状況でした。ただフォーメーションラップやオープニングラップではコントロールを失うマシンも多く決して楽な路面状況ではありません。

でもギャンブルでウェットタイヤを履いたガスリーは苦戦していました。ここでガスリーにギャンブルさせるのが理解できないですね。アルファタウリのマシンはとても競争力がありますし、予選5位からのスタートですから普通に走れば入賞は確実なわけです。もちろん優勝を狙うのであれば、ギャンブルするしかないのですが、そこを狙うのは少し疑問でしたね。しかもスタート直後にセーフティカーが入り7周も走っている間に路面はどんどん乾いてきているわけですから、セーフティカーが退場してからもウェットタイヤで走り続けさせたのは問題でしたね。もちろんドライタイヤに変えるタイミングまで引っ張りたいという気持ちはわかりますが、これは完全に裏目に出ました。

オープニングラップでウイリアムズのラティフィがマゼピンと接触してアクアミネラリでクラッシュ。これはマゼピンには非はありませんでした。コースアウトしたラティフィがコースに戻る際にマゼピンに接近したのがクラッシュの原因です。チームも後ろからマゼピンが来ていると教えてあげないとダメですよね。

ここでセーフティカーが登場します。このこともウェットタイヤでギャンブルしていたドライバーには不利に働きました。セーフティカーラン中に路面は乾いていったからです。

そして7周目にレースが再開します。この後、フェルスタッペンはハミルトンを引き離しにかかります。最大で6秒の差を広げました。メルセデスはタイヤのウォームアップ性能が悪く濡れた路面でインターミディエイトをうまく発熱させることができませんでした。これはハミルトンだけではなく、ボッタスにはもっと顕著に表れていました。彼が予選Q3で8位に沈んだのも、タイヤをうまく発熱させられなかったからです。彼のQ3のタイムはQ1よりも遅いタイムでした。そしてレースでボッタスは更にタイヤの発熱に苦しむことになります。

6秒も離れたときには今日はフェルスタッペンの楽勝ムードだったのですが、ここからハミルトンが反撃します。レース序盤にタイヤを酷使したフェルスタッペンは乾いてきた路面がインターミディエイトを消耗させ、タイヤのグリップがなくなってきました。一方ハミルトンは徐々にタイヤが温まってきてフェルスタッペンとの差を縮めてきます。そして25周目にはその差を2秒にまで縮めました。このままいくとハミルトンがコース上でフェルスタッペンを抜きかねない状況になってきました。

ここで問題になったのが、いつスリックに変えるかという判断です。この時点でかなり路面は乾いていました。特にコース後半は完全にドライ路面が見えていました。ところがまだ第1セクターは濡れています。スリックには変えたいが、いつ変えるかが問題でした。特に先頭集団は自らがその実験台にはなりたくありません。後方のマシンがギャンブルしてくれるのを待っていましたが、なかなかギャンブラーが現れません。ベッテルが20目にドライに変えたのですが、ペースは良くありませんでした。

特にフェルスタッペンはもうインターミディエイトタイヤの性能が残っていなかったので、早くタイヤ交換をしたかったのですが先にドライに変えてみすみすトップの座をハミルトンに明け渡すわけにはいけません。27周目で中団勢もいっせいにタイヤ交換を始めました。そしてフェルスタッペンがハミルトンより先の27周目にタイヤ交換に入ります。メルセデスはインターミディエイトでのタイムがフェルスタッペンより良かったので、開幕戦のように先に仕掛けてアンダーカットすると言う判断をすることが出来ませんでした。

そしてハミルトンが次の周にタイヤ交換するのですが、ここで右のフロントタイヤ交換に手間取り2秒弱多くのタイムを失い2位でレースに戻ります。そしてここからドラマは起こります。

一時は周回遅れになりながらも2位を得たハミルトン

31周目、周回遅れの一団に追いつたハミルトンはトサでラッセルをインから抜きにかかります。ところがまだレコードライン以外はダンプ状態でした。そしてここで珍しくハミルトンがミスをしてコースアウトします。しかもクラシックサーキットであるイモラではアウト側のスペースが限られています。壁が近いにも関わらずハミルトンは強引に曲がろうとしたのですが、壁にフロントウィングをぶつけてしまい立ち往生してしまいます。

結局、ハミルトンはバックギアを使いコースに戻りますが、この時ハミルトンがなかなかバックしなかったと思います。これは後ろからマシンが来ていたので、そのタイミングでバックしてコースに戻ると危険と見なされてペナルティを課される恐れがあったのでチーム側から待て指示が出ていたからです。

この後、ハミルトンはピットでフロントウィングを交換し、周回遅れになってしまい、彼のレースは終わったかに見えました。ところがチームメイトのクラッシュがハミルトンを助けることになります。

32周目にラッセルはボッタスに追い抜きを仕掛けます。ここでもボッタスはタイヤ温度の問題に悩まされていました。DRSを使えるラッセルは左に軽く曲がっているストレートの右側からボッタスを抜きにかかります。ここでイン側を走っていたボッタスがコースの外側に膨らんできたために、ラッセルは右側のタイヤを濡れた芝生の上にはみ出してスピンしてボッタスに激しく接触。破片をまき散らしながらクラッシュします。ここでレッドフラッグでレースは中断します。これで幸運にも周回遅れになっていたハミルトンは同一周回に戻ることができました。

赤旗中断のあとは通常グリッドからスタートするスタンディングスタートなのですが、今回コース上の左側が濡れていてコンディションが難しかったので、競技委員長の権限でローリングスタートになりました。これでフェルスタッペンは再スタートで順位を失う可能性がなくなったと思われたのですが、再スタート直前のリバッツァでスピンしかかります。コースアウトしたマシンは抜いても大丈夫だったのですが、2位を走っていたルクレールは抜きませんでした。実際画像を見返すとフェルスタッペンがコースから完全に外れていたかどうかは、かなり微妙です。ルクレールからすれば、どうせ再スタートすればフェルスタッペンに抜き返されるのは明らかなので、ここで無理して抜いてペナルティのリスクを冒すよりは、確実に2位を選択したのでしょう。

ところがこの判断がルクレールから2位の座を奪います。フェルスタッペンがスピンしてスローダウンしたので、ルクレールもスローダウンしたのですが、フェルスタッペンがコースに戻ってきた直後に加速したので、ルクレールは加速の開始が少し遅れました。そのため加速が鈍りタンブレロシケインでマクラーレンのノリスに抜かれてしまいました。ノリスはソフトタイヤを履いていて、タイヤのウォームアップやグリップ面でルクレールより有利だったことも幸いしました。

9位でスタートしたハミルトンはタンブレロの前で角田に抜かれますが(直後に角田はスピン)そこからの速さはさすがでした。本来であれば表彰台には登れなかったと思いますが、あれよあれよという間にフェルスタッペン以外を抜いて、2位のポジションまで挽回してきました。しかもファステストラップも記録したので、チャンピオンシップポイントではフェルスタッペンを1ポイント上回りトップに立ちました。

それにしてもフェルスタッペンとハミルトンの走りは異次元という感じでしたね。かなり濡れたスタート直後に仕掛けたフェルスタッペンもすごいですが、そこで一歩も引かずにアウトから被せるハミルトンも見事です。結局、2台は軽く接触してしまいましたが、普通ならスタート直後でグリップレベルも完全には把握できていないのに、マシンをコントロールしていて見事としか言いようがありません。

確かにハミルトンはレース中にミスをしてグラベルに飛び出しましたが、これも前をフェルスタッペンが走っていて周回遅れの集団を早く抜かないと差が広がると思ったからこそのミスだと思います。昨年までのハミルトンはライバルに比べてマシン性能のアドバンテージがありましたから、そこまで攻める必要があるレースは少なかったのですが、今年は多くなりそうです。

フェルスタッペンも結果的に楽勝のようなレースになりましたが、ハミルトンが先にタイヤ交換を仕掛けていたら順位を失っていた可能性があります。そうなればレース展開はどうなっていたのかはわかりません。

メルセデスが開幕戦よりこの2戦目にフロアやディフィーザーを改良したことにより、確実に速くなっています。まだ少しレッドブルにアドバンテージはありますが、この差はシーズンが進むにつれて更に縮まってくると予想できます。そうするとこの二人のドライバーのとてつもない高いレベルの戦いが今シーズンは見られることになるでしょう。それはかつてのセナ対プロストやアロンソ対シューマッハーを彷彿とさせると思われます。今年のF1からは目が離せないですね。

最後尾スタートから一時は9位まで順位を上げながら、自らのミスでノーポイントに終わった角田選手

▽学ぶべきことが多い角田
今回のレースで角田は痛いミスを連発しました。予選Q1最初のアタックでのクラッシュやレース中でのスピンやペナルティです。ただ忘れそうになりますが、彼はまだF1で2レースしか経験していないわけです。それを考えればあの難しいレースで、赤旗中断までに最後尾から入賞圏内まで順位を上げてきたのは並のルーキーではないわけです。かつてベッテルも雨の富士で上位を走りながらセーフティカーラップ中に他社に接触してリタイヤしたこともありました。

彼はF1での雨のレースは初めてだったのですし、あのスピンもほんの少し縁石に乗り上げて、アクセルをほんの少し踏みすぎただけですが、それで全てを失うのがF1です。あのスピン前にハミルトンをパスしていたことなどは、本当に素晴らしかったと思います。予選の1回目のアタックでは押さえのタイムを出しておいて、2回目にアタックすることなど多くの事を学んだと思います。

今回のレースは事前にテストしていたイモラだったことやら、チームの本拠地に近いサーキットだったことから、少し気負ってしまった面もあったと思います。無線で悪態をつくことも多いですが、それくらいの気の強さがなければ弱肉強食のF1の世界で生き抜いていくことは出来ません。

また彼の次のレースを楽しみにしたいですね。