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退屈な優勝争いとエキサイティングなレース オーストリアGP観戦記

2周連続開催となったレッドブルリンクでのオーストリアGPはとてもいいレースになりました。ただしフェルスタッペンの後ろでは。優勝したのは先週と同じくフェルスタッペンで、一度も1位の座を脅かされることもなく圧勝しましたが、2位以下の争いはペナルティの連発もあり、賑やかな展開となりました。フェルスタッペンの独走からの三連勝、ノリスの三位表彰台、ハミルトンのいない表彰台、ポイントを取れなかったラッセル。それではまずは予選から振り返ってみましょう。

圧勝するフェルスタッペンを後押しするオレンジ軍団の皆さん。久しぶりの大観衆でしたね

▽C5タイヤに悩むメルセデス
メルセデスは予選でソフト(C5 ピレリが今年持ち込む一番軟らかいタイヤ)を上手く使うことが出来ませんでした。土曜日は気温が上がったので、タイヤを温めるには問題がないはずでした。ところがメルセデスはソフトタイヤをうまく使えずに予選4位と5位が精一杯でした。タイヤの温度が上がりすぎて熱ダレを起こしてしまっているようでした。2周連続開催となったレッドブルリンクでのオーストリアGPには先週よりワンランク柔らかいタイヤが持ち込まれていました。

だからほとんどのチームが2週連続開催を利用して、よりセットアップを向上させてきたのですが、温度に敏感なメルセデスは、気温の変動が多い山の中のレッドブルリンクで難しい週末を過ごしました。金曜日のFP2ではメルセデスの1−2だったのですから、彼らがいかに急降下したかがわかります。

今年のメルセデスはこのC5のタイヤを使いこなすのに苦労しています。モナコもアゼルバイジャンでも予選で苦労して、どちらか1台は後ろからのスタートとなっています。

しかもこの時、メルセデスの予選上位に来たドライバーでさえも、なぜタイヤが上手く使えだしたのかわからないという始末です。つまりメルセデス自身が今年の構造が強化されたC5のタイヤを理解できていないのです。幸い残りシーズンでC5を使うのは、ロシアとアブダビだけですので(幸いにもシンガポールはキャンセルされました)、メルセデスは安堵しているでしょうね。

そしてこの4位、5位スタートは彼らのレースに大きな影響を与えました。

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▽勝てるドライバーであることを証明したノリス
予選から決勝でのノリスの走りは見事でした。予選ではフェルスタッペンのスリップを使えたこともあり、たった0.048秒差の2位です。これはスリップを使えたからといってもほとんど同タイムと言っていい僅差です。マクラーレンはメルセデスとは逆にC5タイヤをうまく使いこなせていました。彼らはC5タイヤを持ち込んだモナコでも表彰台を獲得しています。この高パフォーマンスにはマシン側のアップデートも貢献しているようです。マクラーレンのチーム代表であるザイドルは、この週末に持ち込んだ小さなパーツが効果を発揮し、それに適切なセットアップができて、マシンからより多くのパフォーマンスを引き出せたと述べています。

スタートでチャンスがあればフェルスタッペンにチャレンジすると話していたノリスでしたが、フェルスタッペンは彼に対しても情け容赦なくスタート直後に進路変更して彼を抑えにかかります。実際、ノリスのほうが蹴り出しは良かったので、もしフェルスタッペンがそうしなければ、彼はトップの座を失っていたでしょう。また直線スピードが速いノリスを警戒して、レース序盤のセーフティーカー開けの再スタートでは、最後の最後までフェルスタッペンは加速せず、順位を守りました。この日のノリスがいかに脅威だったのかが、よくわかります。フェルスタッペンはレース後に、ノリスは直線でとても速かったから、いい再スタートをしなければならないことはわかっていたよと述べています。

実際に今年メルセデス製のPUに変更したマクラーレンは先週同様、この週末に高いトップスピードを記録していました。さらにマクラーレンはいいトラクションもありました。だからノリスは予選ではフェルスタッペンより直線で速く、レースでは誰よりも速いトップスピードを記録していました。

予選ではうまくいきすぎたので、決勝ではペースが落ちるかなと思っていましたが、なかなか力強いペースで走れていました。20周までハミルトンを抑えることもできましたし、後半はボッタスにも迫れていました。ハミルトンに抜かれたときは、ペースの違うマシンに付き合ってタイヤを痛めるよりも、自分のペースで走ったほうがいいという判断もあったようです。

ペナルティを得てボッタスに抜かれた後も、諦めずに追い続けて最後はボッタスに追いつきました。ボッタスに追いついた後は、彼の乱気流に邪魔されて近づけませんでしたが、それでも三位は見事です。レッドブルとメルセデスの4台が完走した中での3位ですからね。もしノリスがいなければ、レッドブルの1−2は可能性高かったですから、ノリスの走りがいかに良かったかわかります。

しかも今年全戦完走の全戦入賞で、3位が3回で5位以下になったのはたったの1回。この安定性は簡単にできることではありません。ルクレールやガスリー、ラッセルの影に隠れていましたが、彼は優勝できるドライバーであることをこの日証明しました。これからが楽しみです。

圧勝以外に言葉のないフェルスタッペンの勝利

▽アンタッチャブルだったフェルスタッペン
スタートと再スタートでノリスの脅威を退けた後のフェルスタッペンはひとり旅状態でした。彼はミディアムでもハードでもマシンは素晴らしかったと述べています。彼は最初のタイヤ交換前には12秒もの大差をつけていました。レッドブルも2週連続開催を活かしてマシンのセットアップを改善し、その成果が出たようです。今までレッドブルが勝ったにしても、ここまで大差がついたレースは記憶にありません。

最後はあまりにも余裕がありすぎて、タイヤ交換してファステストラップを記録して、ただの1ポイントもメルセデスには渡さないという強い意志を感じました。これにはアゼルバイジャンGPのように、タイヤがバーストすることを避けるという目的もありました。実際、フェルスタッペンが交換したハードタイヤには深刻ではありませんが、小さなカットの跡が見つかっています。

それにしてもこの日のフェルスタッペンがすごいは、彼のファステストラップのタイムは他より1.6秒も速かったことです。タイヤも若いし燃料も少ないことを差し引いてもすごいタイムですね。

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最後の最後にアロンソに抜かれてポイントを逃したラッセル

▽同じく勝てるドライバーであるラッセル
ラッセルもまた優勝できるドライバーであることを証明しました。もっとも彼は昨年終盤にハミルトンがコロナ感染で走れない時に、代役でメルセデスにぶっつけ本番で乗り、優勝をほぼ掴みかけていたので、今回わざわざ言う必要もないかと思います。ただ彼のこの日の順位は11位で入賞すら出来ていないのですが、ウィリアムズで全戦Q2進出し、今回はQ3へ進出。しかもトップ勢と同じくミディアムタイヤを履いての突破はすごいとしかいいようがありません。

乗っているマシンのポテンシャルを考えると奇跡的と言ってもいいかもしれません。残念ながら最後にアロンソに抜かれて入賞はできませんでしたが、彼がメルセデスに乗るのにふさわしいドライバーである事をまたも証明してくれました。今年でウィリアムズとの契約が切れるラッセル。もし来年メルセデスに乗れないのであれば他のチームに移籍することも十分考えられます。というか他のチームがほっておかないでしょう。

しかもメルセデスは昨年までと違い、もはや余裕がない状態です。ハミルトンが2年契約を延長しましたが、その後は不透明で、ボッタスをNo.1ドライバーとして戦うのは不安です。となれば噂通りラッセルがメルセデスに乗ると発表されても誰も驚きません。

パーツの破損により苦戦するハミルトン

▽ハミルトン苦戦した理由
ハミルトンは4位でトップ争いにも絡めずに惨敗というイメージですが、そこにも理由があります。彼はレース途中でリアホールのアップライトについているウィングレッド(ウィング状のパーツ)を破損してしまいました(恐らく29周目のターン10最終コーナーの縁石に乗り上げた時の振動が原因と疑われています)。ここはとても空力的には敏感な部分で、これを破損するとリアのダウンフォースに大きな影響があります。それ以降はラップ当たり0.6〜0.7秒もタイムを失ったと見られます。これはとても大きな数字です。しかもリアのダウンフォースを失うと、当然リアが滑りますから、タイヤの消耗も激しくなります。これでは勝負にはなりません。

もちろん、この日のハミルトンが予選2位からスタートしていてもフェルスタッペンに勝つことは出来なかったでしょう。それくらいフェルスタッペンは素晴らしい走りを見せてくれました。でもハミルトンもトラブルがなければ、2位は大丈夫だった思います。だからレッドブルに太刀打ち出来なかったからといって、もう今シーズンは終わったと諦める必要はないと思います。

もともとノリスとペレスが順当に走っていれば、ハミルトンは4位だったわけですから、この日の結果をそれほど落ち込むこともないと思います。ただ次のシルバーストーンは本物のGPコースですから、ここでなんとかレッドブルに勝てないまでも、迫りたいですよね。しかもメルセデスは今年最後とも噂されるアップグレードパーツをイギリスGPに持ち込みます。

だからもしシルバーストーンでフェルスタッペンが圧勝するようでしたら、本当に今年のタイトル争いは終焉を迎える可能性もあります。しかもイギリスGPでは初の試みとして予選レースがおこなわれるのも注目ポイントですよね。

ノリスとのバトルで後退したペレス

▽自滅したペレス
ここ数戦、つねにメルセデスのピットストップウィンドウ内にとどまり続け、メルセデスプレッシャーをかけて、チームに貢献してきたペレスでしたが、全部が彼の責任とは言えませんが、この日は結果的にメルセデスを有利にしてしまいました。まずはターン4でノリスに仕掛けて、押し出されてコースアウトしそうになり、3位から10位まで順位を落とします。しかもノリスはこの時ペレスにスペースを残さなかったという理由で5秒ペナルティを課せられます。

これにより後ろにいたメルセデスの2台は悠々と2位と3位になってしまいます。しかもペレスはこの後で、ノリスと同じようにルクレールにスペースを残さなかったとして、2回もペナルティをもらうことになります。ペナルティの裁定は理解できない部分もありペレスだけが悪いとは思いませんが、結果的にメルセデスが有利になったのは間違いありません。最終的にはノリスの頑張りで、ハミルトンは4位になりましたが、ハミルトンにトラブルがなければメルセデスは2位と3位だったわけですから、この日のペレスは結果的にライバルを利することになってしまいました。