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オレンジ王 スーパーマックス オランダGP観戦記

人生の中でこんなにオレンジ色を見たことがないくらい、フェルスタッペンの地元オランダGPはオレンジ色一色に染まりました。しかもオレンジ色の発煙筒もたかれる状況で、もうサーキット全体がオレンジ色に染まっている感じでした。たった一人のドライバーが国を変えてしまう。驚きとともに羨ましいと率直に思いました。そんななか、地元勝利を目指すフェルスタッペンをハミルトンが逆転しようと奮闘します。それではオランダGPを振り返ってみましょう。

オランダ中の期待を背負いグリッドに向かうフェルスタッペン

率直に言って、オランダGPのフェルスタッペンは誰よりも速かった。さすがのメルセデスも歯が立地ませんでした。予選Q3では、ターン1で0.1秒、ターン2で0.05秒、ターン3で0.2秒とこの3つのコーナーだけで、フェルスタッペンはハミルトンよりも0.35秒も速く走れていました。フェルスタッペンはハミルトンよりも中低速コーナーで速く、高速コーナーではほぼ互角で、直線ではメルセデスが優位という状況です。

予選Q3でのこの二人の差は僅か0.038秒差でしたが、これには理由があって、フェルスタッペンのマシンは最終コーナー立ち上がってからDRSが使えなかったのです。フェルスタッペンはDRSの使用ラインの手前でDRSボタンを押すというミスをして、DRSが開かなかったようです。そのためこの最終コーナーからストレートで0.3秒ほど失っていました。だからフェルスタッペンが普通にDRSが使えていれば、0.1秒以上の差をつけてポールポジションだったと思います。つまりそれくらいこの日のフェルスタッペンとレッドブルはアンタッチャブルな存在でした。

このターン1からターン3にかけてメルセデスは苦戦していました。レッドブルにも負けていましたが、それ以外のマシンにも負けていたほどです。理由はまだわかっていませんが、おそらくレッドブルのほうがハイレーキでダウンフォースが多く、またオーバーステア傾向にあるので、ターン2でより速く車の向きを変えられるので、よりいいラインを通ってターン3へアプローチできたのではないでしょうか。

通常はアウト・イン・アウトをラインを通るのが普通ですが、このターン3はバンク角がついていたので、複数のライン取りが見られました。フェルスタッペンはどちらかというとアウト・アウト・アウトで走っていました。

このターン3はバンク角がついているのですが、珍しく外側に行けば行くほどバンク角がきつくなっています。バンク角自体はアメリカのオーバルサーキット(例えばデイトナだと31度のバンク角)なんかより低いのですが、内側と外側のバンク角の差が大きいのが特徴でした。イン側は4.5度、アウト側は19度です。当然、バンク角がついている方を走ったほうが速く走れます。なのでアウトから入ってアウトから入るマシンが多かったのですが、その直前にターン2があり、そこをきれいに抜けてこれないと、ターン3に真っ直ぐな状態でブレーキングできないですし、まっすぐターン3のアウト側から入っていけません。斜めにターン3に入っていくと、タイヤの荷重がアウト側により多くかかることにより、速くターン3を抜けることが難しくなります。

実際、このターン3を車載カメラで見ると、壁に向かってアプローチするように見えてかなり難しいコーナーです。ドライバーの目線はカメラより更に低いですから、さらに難しいことでしょう。

メルセデスは、持ち込んだ最初のセッティングがかなりオーバーステアだったので、フリー走行で変更したのですが、それによりアンダーステアになってしまいました。もちろんメルセデスもそれを解消しようとはしたのですが、最初のオーバーステアがひどすぎたので、妥協せざるを得ませんでした。これはメルセデスにしては珍しいミスでした。そのため彼らはターン2でフェルスタッペンほど早く曲がりきれなくて、ターン3で理想のラインを取るのが難しくなりました。

オープニングラップを走る二位以下の集団。このとき、フェルスタッペンは大きくリードしていて写真にも写っていない

そのため、予選でもフェルスタッペンは速かったですが、決勝レースでもスタートで前に出ると、ターン3が終わる頃には独走状態を築いて、セクター2に行くときには1.2秒もの大差がついていました。ハミルトンはレース後、スタートでレッドブルが速すぎたと認めています。

またFP2でハミルトンが珍しくPU系のトラブルで止まってしまい、ロングランをボッタス一人ですることになったのも痛手になりました。彼らはハードタイヤでのロングランがあまりできなかったようです。

速さではかなわないフェルスタッペンに対してメルセデスは得意の作戦でリカバーしようとします。幸いペレスはピットレーンスタートで、フェルスタッペンはいつものように一人ぼっちでメルセデス二台に対抗しなければなりません。

メルセデスはハミルトンはツーストップにして、ボッタスはワンストップにする作戦です。ハミルトンは20周目にアンダーカットを仕掛けます。ボッタスはタイヤ交換せずに走り続けますが、フェルスタッペンは迷わず次のラップにタイヤ交換に入ります。もうフェルスタッペンの敵はハミルトンだけで、ボッタスは眼中にありません。極端に言うとボッタスが優勝しても、フェルスタッペンがハミルトンの前でフィニッシュできればいいくらいの、考えだった思います。

ただフェルスタッペンはハミルトンがピットに入りそうになると、すぐにペースを上げて差を4秒に開きます。この差だとアンダーカットは難しいです。しかもタイヤ交換の時間もレッドブルはいつものようにメルセデスより0.9秒も速く、抜くことはおろか脅威を与えることすらできません。

これでトップはボッタスになります。しかしボッタスのタイヤはかなり厳しく、フェルスタッペンに対して2秒も遅く、30周目にはフェルスタッペンが追いつきます。本来ならボッタスに少しでも抵抗してハミルトンが追いつく時間をかせぐことをチームとしては期待していたと思いますが、もうボッタスのタイヤは厳しく、アンダーステアがきつくて、マシンを曲げるのに四苦八苦している状況でした。そのため最終コーナーで追いつかれたボッタスはなんの抵抗もすることができずに、あっさりと抜かれてしまいます。

そして40周目にハミルトンが最後のチャンスである、二度目のタイヤ交換に入ります。このときのフェルスタッペンとの差は約3秒。しかしハミルトンがタイヤ交換を終えて出たのは、トラフィックの真ん中でした。しかも間の悪いことにハミルトンがタイヤ交換する前のラップで、目の前でベッテルがスピンしてスピードダウンする不運もありました。

色々と策を繰り出したが、フェルスタッペンには追いつけなかったハミルトン

ハミルトンはなんでこんなトラフィックの中に出させるんだよと文句を言っていましたが、それはフェルスタッペンがハミルトンがタイヤ交換することを予測し、タイムを急に上げていたからです。つまりこの前にタイヤ交換していれば、最後にタイヤが厳しくなりますし、かといって後からタイヤ交換すればフェルスタッペンはアンダーカットの圏外に逃げていたでしょう。このとき、フェルスタッペンがハードを履いたのは、彼らはミディアムを1セットしか持っておらず、それを第2スティントで使っていて、ハードしか残していなかったからです。

このようにメルセデスはなんとか、フェルスタッペンを逆転しようとあの手この手を繰り出しましたが、この日のフェルスタッペンには、どの作戦も有効ではなく、最後にハミルトンがタイヤ交換してファステストラップを記録し、追加の1点をもぎ取るのが精一杯の抵抗でした。コー上でハミルトンがフェルスタッペンに追いつき、追い抜くことは難しかったでしょうし、おそらくタイヤ交換でフェルスタッペンが二位に下がったとしても、コース上でハミルトンはフェルスタッペンに抜かれていたでしょう。それくらいフェルスタッペンとレッドブルは速かったですよね。

これでフェルスタッペンはチャンポインシップで、ハミルトンを逆転しました。今後もサーキットの特性次第でレッドブルが速かったり、メルセデスが速かったりすると思いますが、目が離せないチャンピオン争いが続いていきそうです。

それにしても新しいザントフォールトサーキットのデザインを決定した人も、ここまでフェルスタッペンに有利なレイアウトになるとは想像もしてなかったでしょうね。