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オレンジフィーバー リカルドの復活 イタリアGP観戦記

先週、オレンジフィーバーが巻き起こりましたが、まさか二週連続でオレンジフィーバーが起こるとは想像もしていませんでした。ただ同じオレンジ色でも今回はオランダのオレンジではなく、マクラーレンのオレンジが躍動しました。本来、メルセデスが楽勝するはずだったレースなのに、なにがこの番狂わせを起こさせたのでしょうか。(一部ですが)観客が帰ってきていつも熱狂が戻ってきたイタリアGPを振り返ってみましょう。

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まずレース前の予想では、イタリアGPはメルセデスが優勝できるレースであり、逆に言うと勝たなければならないレースでした。実際、金曜の予選ではフロントロウを独占し、そのとおりの流れになっていました。ところがスプリントレースからその流れが大きく変わってきます。ハミルトンがスプリントレースのスタートで、ホイールスピン。大きく出遅れて五位にまで落ちてしまいます。これはもともとメルセデスもスプリントレースをソフトでスタートする予定だったのですが、ミディアムに変更しました。当然、蹴り出しのグリップが落ちるので、そのぶんスタート時のトルクも減らしたのですが、最適なトルク量に調整するのを失敗し、ホイールスピンが多くなりました。

またハミルトンもクラッチをほんの少し厚くつないでしまい、状況を悪化させました。これはハミルトンがおかした大きなミスでした。本来、モンツァは比較的オーバーテイクがしやすいレイアウトなので、順位を落としてもリカバーが可能なはずだったのですが、前を走るマクラーレンは直線が速かったので、オーバーテイクができませんでした。ハミルトンからすればリスクをおかして仕掛けて接触でもすれば、全ては終わりです。それだけは避けなければなりません。だから思い切って攻めることはできません。

一方マクラーレンはスプリントレースで抜群のスタートを決めて、5位スタートのリカルドが3位へ急上昇します。ここからハミルトンが逆襲するかと思われたのですが、上記の理由により、その後は仕掛けることも少なく、そのままスプリントレースが終わってしまいます。

スプリントレースの勝者はボッタスで、2位はフェルスタッペン、3位はリカルドです。ただボッタスはPUの交換を予定していたので、レースをポールポジションの位置からスタートするのはフェルスタッペンとなりました。ここに来て勝利が確実視されていたメルセデスは窮地に陥ります。イタリアGPで予選が終わればポールからスタートするのは最大のライバルであるフェルスタッペンなのですから、焦るのも当然です。

ではメルセデスはなぜ、このタイミングでボッタスのPU交換を決断したのでしょうか。それはモンツァは直線が長く、比較的オーバーテイクが容易というコースレイアウトにあります。つまり後方からスタートしても、追い上げて順位を上げることが可能です。確かにチームとしては当然の判断でしょう。

しかしボッタスの立場にしてみたら複雑ですよね。今後、ボッタスがポールからスタートするレースが多いとは思えません。今回の予選結果もトウを利用できた部分も大きかったです。スタートでボッタスが前に出られればフェルスタッペンが逆転するのは難しかったでしょう。であれば、今回はPU交換せずにボッタスをポールからスタートさせ、フェルスタッペンの獲得ポイントを減らす事を目指しても良かったのではないかと思います。ただ結果としてメルセデスはボッタスのPUを交換して最後尾からのスタートを選択します。

スプリントレースで勝利したものの、最後尾スタートになった可愛そうなボッタス

これで驚き喜んだのがレッドブル・ホンダなのは間違いありません。モンツァに来る前はいかにダメージを限定するか、ダメージリミテーションのレースになるのが確実視されていて、メルセデス1-2のあとの3位になるのがレッドブルの現実的な目標でした。しかも通常サーキットならそれは容易なのですが、今回はもう一つの強敵、マクラーレンがレッドブルの脅威として存在していました。

マクラーレンが活躍する予感は間違いなくありました。彼らは低速コーナーと長い直線レイアウトのサーキットが得意だからです。オーストリアGP(ベルギーGPでも)でのノリスの活躍を覚えている方も多いでしょう。実際、彼らはほとんどの直線区間でトップタイムを記録しています。彼らのマシンはドラッグが低く、トラクションが良いので、このモンツァスペシャルと言っていいほど、このサーキットにあっていました。

一方のメルセデスは、直線はマクラーレンより少しだけ遅いのですが、二つのシケインでは最速でした。つまりメルセデスはマクラーレンよりダウンフォースはあるが、ドラッグも多いというセッティングでした。これは今後、重要なポイントになるので覚えておいて欲しいと思います。

さてここまでが、決勝レーススタート前に起きた現象です。ポールスタートはフェルスタッペン、その後はリカルド、ノリス、ハミルトンの順位でスタートします。スプリントレースがあったので、スタートで履くタイヤは自由に選べます。上位陣ではハミルトンだけがハードで、他の三人はミディアムスタートです。これは上位の三人はスタートの蹴り出し重視で、ハミルトンは彼らが先にタイヤ交換した後で走り続けてオーバーカットを狙う作戦です。いくらハミルトンでも4位からスタートでトップに立つのは難しいですからね。

ここで抜群のスタートを見せたのがリカルドです。スタートでフェルスタッペンに並ぶと最初のシケインに行く頃には前に出て、トップに立ちます。本来、レーシングラインでない偶数グリッドだったのですが、スプリントレースに続いて、見事なスタートを見せてくれたリカルドでした。この2回のスタートがリカルドの優勝を決定づけました。

スタートで出遅れ、タイヤ交換で遅れて、最後はハミルトンとクラッシュしたフェルスタッペン

その後は、直線が速いリカルドをフェルスタッペンは抜くことが出来ません。ただダウンフォースが少ないマクラーレンはタイヤのデグラが大きいということもありスティント終盤にフェルスタッペンがアンダーカットを仕掛けてくれば、難しいレースになりそうでした。ただマクラーレンはフェルスタッペンより先に仕掛けました。

マクラーレンはこの時点で、タイヤ交換すれば後方から追い上げてきているボッタスの前で戻れ、しかもフリーエアで走れるスペースがあったので決断しました。これはマクラーレンの素晴らしい判断でした。

ここでなぜレッドブルが先にフェルスタッペンを入れなかったのかが理解できません。このレース、リカルドをフェルスタッペンが抜くのは唯一タイヤ交換のタイミングしかありませんでした。しかもメルセデスを見ているとハードは素晴らしい性能を見せていました。つまり第2スティントでのタイヤの心配はあまりありませんでした。

恐らくメルセデスがフェルスタッペンの位置にいれば間違いなく先にタイヤ交換していたでしょう。だがレッドブルは先にタイヤ交換しませんでした。しかしフェルスタッペンはオーバーカットを狙うわけでもなく、次の周にはタイヤ交換に入って来ます。なんとも中途半端な作戦でした。この時点でミディアムはデグラが大きくタイムは落ちてきていたので、オーバーカットは難しかったと思います。

タイヤ交換直後のバトル、このあとにクラッシュが待っていようとは想像もできず

しかもフェルスタッペンのタイヤ交換時に右フロントの交換に手間取り11秒をロス。順位を落としてしまいます。タイヤ交換自体は問題なく終わっていたのですが、ガンマンがタイヤ交換終了したときに押すボタンを押すのを忘れて、信号が代わらなかったのが原因のようです。ベルギーGP以前は自動で切り替わっていたのですが、自動化が禁じられたのでこのようなミスが出てしまいました。いつも素晴らしいタイヤ交換でフェルスタッペンをアシストしてきたレッドブルでしたが、これは痛恨のミスでした。

それを見たメルセデスが動きます。本来、マクラーレンが先にタイヤ交換した後にハードタイヤを活かしてオーバーカットを狙おうとしたのですが、リカルドとフェルスタッペンがタイヤ交換したあとのタイムを見ると、ハミルトンより速かったのです。なので1周だけフリーエアで走りタイムを見て、メルセデスはハミルトンがオーバーカットするよりも、すぐにタイヤ交換した方がいいと判断しました。

しかも幸運なことにノリスとフェルスタッペンはタイヤ交換していないストロールにつかまりタイムをロスしました。だから計算上はルイスが二人の前でコースに戻れるはずでした。そうすれば2位です。4位スタートだったのが、フェルスタッペンより前の2位になれれば優勝できなくても、満足したでしょう。ところが今年、何回もメルセデスが見せているタイヤ交換時のミスがでてタイヤ交換に4.8秒もかかってしまいました。これは通常より2秒も遅いタイムです。

そのため余裕で二人の前で戻れるはずが、ノリスの前では戻れずに、ギリギリフェルスタッペンの前で戻れました。ただフェルスタッペンがターン1のシケインでアウトから並び掛けます。ハミルトンはターン1を減速してエイペックスにつきました。なのでアウト側にある程度のスペースを残していました。そこにフェルスタッペンが入ってきます。ただハミルトンもぎりぎりのスペースは残しつつもイン側にアプローチします。それを避けようとしたフェルスタッペンはイン側にあった、盛り上がったシケイン、いわゆるソーセージシケインの乗っかり跳ね上げられてアウトにいたハミルトンのマシンにジャンプしました。そのあとレッドブルがメルセデスの上に乗り上げ、レッドブルの右リアタイヤがハミルトンのヘルメットに接触するという恐ろしい状況を目撃することになります。もしHALOがなければ深刻な事態になったことは間違いありません。

両雄、再び激突す!激しいバトルは歓迎ですが、最後までレースをみたいですね

これによりフェルスタッペンに次戦3グリッドダウンのペナルティが与えられました。これについては厳しいとは思いませんが、レーシングインシデントでも良かったかもしれません。ただイギリスGPで2台の接触時にハミルトンにペナルティを与えたので、今回はフェルスタッペンにペナルティを与えたと言うことなのかもしれません。

このアクシデントでセーフティカーが登場します。これはそれまでタイヤ交換していなかったドライバーには大きなアドバンテージを与えました。タイヤ交換のロスタイムが半分くらいになり、ルクレールは2位にまで上がります。ボッタスもハードスタートだったのでもう少し長く走る予定でしたが、ここでミディアムに交換します。

ペースが少し劣るルクレールはその後、順位を落としレースは1位リカルド、2位ノリス、3位ボッタスで終盤に流れ込みます。直線スピードではほとんど差がない3台。またモンツァはリアウィングが極端に薄いのでDRSの効果が少ない(もともとドラッグが少ないのでDRSオン時とオフ時のドラッグの差が小さい、つまり最高速の違いが小さい)こともあり、抜くことは出来ません。一度だけボッタスがノリスに仕掛けて一時は抜きましたが結局は3位に戻ってしまいました。

実はこの日はハードタイヤがもっと合ったレースタイヤでした。デグラも少ない状況で、安定して速く走れていました。そのタイヤをセーフティカー登場時に早めに交換してしまったボッタスは長い距離をミディアムで走る必要があり、レース終盤にはタイヤが厳しい状況でした。一方のマクラーレンの2台はハードタイヤで順調に走れていました。

ではなぜ、ボッタスが引き離されなかったのかというと、それはリカルドがペースをコントロールしていたからです。彼はタイヤが厳しくなれば抜かれることをわかっていました。だからペースをコントロールしてタイヤを労って走っていました。途中でノリスがボッタスが後ろから来ているからもっと速く走ってと要望するくらいでした。そのあとリカルドは少しペースを上げましたが、それでも余裕を持って走っていました。こうすればリカルドはミスをする危険性を減らせます。その証拠に彼は最終ラップでファステストラップを更新します。つまり相当タイヤを余らして走ってたんですね。最終ラップにリカルドが過度にリスクをおかして攻めるわけはありあせんから、かなりタイヤに余裕があったのだと思います。

スタート直後、激しく順位争いをするトップ4台

こうしてリカルドは2018年のモナコGP以来、マクラーレンは2012年のブラジルGP以来の優勝と、2011年のカナダGP以来の1-2フィニッシュを達成しました。これのすごいところは、フェルスタッペンとハミルトンがリタイヤしていなくてもリカルドの優勝は確実だったと言うことです。大きなトラブルもないレッドブルとメルセデスを実力で破ったドライバーというは過去に記憶がないほどです。それくらい今回のリカルドとマクラーレンは大きな仕事をしました。

今年の活躍を見ているとノリスが初優勝でもおかしくなかったと思います。二人の差を分けたのはスプリントレースのスタートの差だけだったと思います。ただノリスの走りを見ているとチャンスがあれば、彼が優勝する機会は近いうちにあると思います。