ドイツGP観戦記 Part2 KERSの逆襲とハミルトンの不運
▽ハミルトンの不運とルノー復活の兆し
今回マクラーレンは、新しいフロント・ウィング、新しいサイドポッド、新しいエンジンカバー、新しいフロア、新しいリア・ディフューザなど、大幅なアップデートを施したマシンを持ち込んだ。
ハンガリーGPに持ち込む予定だったパーツを、前倒しして投入。
その為、1セットしか用意できなかった新しいパーツの一部はハミルトンのみが装着した。
そのアップデートの目玉は、ディヒューザー。
リア・サスペンションまでも大きく見直し、二階建てディヒューザーをトヨタ方式から、ブラウン方式にしてきた。
トヨタ方式は、マシン底面のステップドボトムの両脇から空気を導くが、ブラウン方式はディヒューザーの両脇を大胆にあけて、空気を勢いよく吹き出させてダウンフォースを得る。
空気の勢いを殺さないという面では、ブラウン方式が有利である。
ブラウンGPの速さの源の一つが、このディヒューザーにあることは間違いがなく、これはダウンフォース不足に悩んでいたマクラーレンにとり、効果が大きかった。
特にリアのダウンフォース不足により、中高速コーナーで落ち着きのなかったマシンの挙動が安定。
彼らは、このアップデートにより0.8秒程度を削ることに成功した。
これはシーズン中のアップデートにすれば驚異的である。
誰もがブラウンGPと同様のディヒューザーを装着したいのだが、サスペンションやギアボックス、衝撃吸収構造などのレイアウト上、実現が難しい。
だが、マクラーレンはそれをやってきた。
こうして書くととても簡単だが、このアップデートにかかった手間暇はいかほどのものか。
マシンの後ろ半分をほとんど作り直しに近くまで変更しているので、ものすごい時間が掛かっているはずである。
そして、その結果は報われた。
ハミルトンは練習走行からトップタイムを記録するなど、好調を維持。
予選でも5位につける。
ブラウンGPが極端に少ない燃料で走っていたことを考えると、実質予選3番手と考えてもいいだろう。
KERSを搭載するハミルトンがスタートで前に出ることができれば、タイヤの発熱に不安のないマクラーレンのハミルトンが3位になる可能性は大きかった。
だが、今年のハミルトンはついていない。
彼の希望は1周目の1コーナーで消えた。
ウェバーのフロントウィングが壊れなかったことを見ると、二人が触れたのは、ほんの一瞬。
パンクしたハミルトンは不運で、フロントウィングが壊れなかったウェバーは幸運だった。
新しいディヒューザーは間に合わなかったコバライネンも、フロント周りを中心にアップデートパーツを装着した結果8位入賞。
マクラーレンの復調は明らかで、今後のレースが楽しみである。
ただ、マクラーレンの大きなアップデートはこれで終わり。
ハンガリーGP終了後は、来シーズンのマシン開発にリソースを集中する。
ルノーも今回、大規模なアップデートを施してきた。
このアップデートの目玉も、ダブル・ディヒューザーの改良である。
アロンソによるとシルバーストーンに比べて最低でも0.4秒、ブリアトーレによると0.7~0.8秒を稼いでいるらしい。
レースは7位と地味な結果に終わったが、これは雨が降った予選Q2の対応を失敗して、予選で中団に沈んだからにすぎず、今後のレースに大きな期待を抱かせるに十分なパフォーマンスを見せた。
事実、ファーステスト・ラップはアロンソがハードタイヤを履いて記録している。
昨シーズン後半戦のような、快進撃の予感がしてきた。
▽マッサ粘りの表彰台とニコの4位
予選8位のマッサが今シーズン初の表彰台を獲得。
見事な走りだった。
それにしてもKERS様々である。
マクラーレンとフェラーリはスタートで、ごぼう抜き。
まるで、テレビゲームを見ているような、別次元の加速だった。
これには理由がある。
高地に位置するニュルブルクリンクは、空気が薄いためエンジンパワーが通常より5%ほど失われる。
ところがKERSはモーターで駆動するので、大気の影響を受けない。
その為、相対的にKERSパワーの影響力が増えて、抜群のダッシュにつながった。
1コーナーまでの距離が長いのも、KERS勢に有利に働いた。
あまりにもひどい扱いを受けているKERSの大逆襲。
このスタートのジャンプアップなしに、マッサの表彰台は実現しなかった。
その後も、KERSを使いつつ抜かれるのを阻止したマッサは、ベッテルには抜かれたものの、3ストップのブラウンGPをかわして3位でフィニッシュ。
第三スティントでも、ラップタイムは落ちずにベッテルに迫る勢いを維持していた。
4位には予選15位のニコ・ロズベルグが入った。
この追い抜きの難しいニュルブルクリンクで、15位から4位は素晴らしい。
長めの第一スティントにした変則2ストップ作戦が、見事に的中。
ハード・ハード・ソフトのタイヤ選択も良かった。
しかも、ウィリアムズはKERSなしでの結果だけに、表彰台に届かなかったとはいえ、この結果は輝いている。
中嶋一貴は予選では、ニコを上回るもスタートで失敗し、ツゥルーリと接触し順位を大きく落として、レースを失っている。
彼もニコと同じタイヤ選択と、変則2ストップだっただけに残念である。
▽無念スーティル
フォース・インディアのスーティルはチーム初のQ3進出。
重い燃料を積みながらも、軽いフェラーリより前の7位スタート。
レース中も、常に入賞圏内を走行し、一時は2位を走行。
念願の初ポイントかと思われたのだが。
最初のピットアウト終了後、1コーナーでライコネンと交錯して、フロントウィングを壊し、万事休す。
またも初入賞を逃してしまった。
二年前のモナコでも、入賞目前でライコネンとからんだスーティルだが、これも因縁か。
接触自体は、レーシング・アクシデントとしてペナルティーはなし。
これは妥当な判断だろう。
しかし、最近のフォース・インディアの走りには目を見張るものがある。
フィジケラもいい走りを見せていた。
今シーズンも残りのレースで雨が降れば、入賞のチャンスはある。
頑張れフォース・インディア。
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