▽苦しむバドエルと好調なライコネン
ミハエル・シューマッハーの復帰という真夏の夜の夢を見せてくれたフェラーリだったが、代役の代役であるバドエルは予想以上に苦しんだ。
予選では最下位であり、レースもまた実質、最下位であった。
予選では19位の新人アルグエルスアリから約1.5秒遅れとまったくいいところがなく、ピットレーンでの速度制限違反を4回とられて、決勝では信じられないことにピットレーン上で後続車に道を譲り、直後にピット出口の白線を踏んで、ピット・スルー・ペナルティをもらうおまけまで付いた。
ラップタイム自体は、終盤にいくに従い向上していたが、ラップタイムもなかなか安定していなかった。
今シーズンは事前テストができず、このレースは練習走行という位置づけなのはわかるが、それにしてもスピード不足は明らかであった。
だが、次のスパまで実質数日しかないことを考えると、バドエルの続投は致し方ないと思える。
スパは彼が以前、走った経験があるコースとはいえ10年ぶりというバドエル。
しかも、スパは屈指の難コースである。
果たして彼がこのコースで無事走りきれるのか心配である。
もっとも今年、マシンにほとんど乗っておらず、テストもなしのぶっつけ本番である以上、バドエルを責めることもできない。
なぜフェラーリが彼を選択したのか説明責任が問われるのではないだろうか。
ライコネンは予選6位から、KERSを活かして4位に浮上。
その後、コバライネンをかわして3位表彰台に登ることに成功した。
マクラーレンほどではないにせよ、フェラーリも確実に競争力を復活させてきた。
彼らの問題は予選でのスピード不足。
それさえ戻れば、フェラーリが今シーズン中に勝つこともありえる。
フェラーリは今後もKERSを使って、ブラウンGPとレッドブルを悩ましそうである。
▽ロズベルグの入賞と一貴のリタイヤ
ロズベルグの連続入賞数は七に伸びた。
リソース的にビッグチームに太刀打ちできないウィリアムズであるが、ニコ・ロズベルグは5位に入賞した。
4位コバライネンとの差も1秒を切っていた。
復活を遂げたマクラーレンとこの差は、満足できる結果だ。
今のウィリアムズでは、よほどの幸運がなければ表彰台は難しい状況であるから、このニコの仕事ぶりはたいしたものである。
BMWの撤退により、来シーズンの移籍先がなくなったニコとはいえ、彼ならシートを見つけるのは難しくないだろう。
中嶋一貴のレースは予選で終わった。
Q1の最初のアタック後にトラブルに見舞われた一貴は、二回目のアタックができなかった。
市街地サーキットであるバレンシアは、1周ごとにコースコンディションが良くなってくる。
その為、予選各セクションでの最後のアタックが全てである。
二回目のアタックができなかった一貴に、Q2進出のチャンスはなかった。
レース中も何らかの破片を踏んだと思われるタイヤバーストに見舞われて、後退。
最後はマシンを止めてレースを終えた。
現在、ウィリアムズは来シーズンのエンジンを選択中である。
現時点で最も有力なのはトヨタとの契約を解除して、ルノーエンジンに切り替えるというものだ。
その場合、一貴のシートは微妙である。
今シーズンいまだノーポイントの一貴にとってシートを確保するには、結果を残さなければならない。
もし一貴がウィリアムズから放出された場合、トヨタへ移籍できるかはツゥルーリの契約交渉次第である。
金額面では合意しているらしいが、他の条件面で交渉は難航していて、トヨタとしては交渉決裂も視野に入れているようである。
▽地元で入賞のアロンソと新人グロージャン
アロンソは地元のレースでなんとか6位に入賞。
ファンの期待には応えられなかったかもしれないが、それでも今のマシンでは、これが限界だろう。
上位チームとのスピード差は明らかで、アロンソの力がなければ入賞も難しかっただろう。
新人のグロージャンにとっては経験を積むためのレースとなった。
テストなしでのF1ドライブは、本当に厳しい。
それだけに、グロージャンにとってこのレースに完走したことは、次のレースに向かって大きな経験となった。
Q2に進出しただけでも、たいしたものである。
▽スピードを増すBMWとフォース・インディア
フォース・インディアは、またも新しい空力のアップデートを入れてきた。
その為、スピードが増してきて予選ではスーティルは予選12位と、Q3進出へあと一歩のところまできた。
今回も入賞はならなかったが、スーティルは10位、フィジケラは12位。
ただ、他のチームも開発が進んできており、入賞まで後一歩のところが続いている。
BMWも空力のアップデートパーツを持ち込みスピードの改善が見られた。
下側を大きく抉ってきたサイドポンツーンは、空気の流れの速度を向上させることができそうである。
これによりクビサは8位入賞。
チームにとってはトルコ以来のポイント獲得となった。
来シーズンへの展望が開けないBMWであるが、それでもチームは開発を続けることを明言している。
▽チャンピオンシップの行方
上位四人のうち、二人がノーポイントで、一人が2ポイントしか獲得できず、バリチェロだけが10ポイントをマークしてランキング2位に浮上した。
それでもトップであるバトンとの差は18ポイントもある。
だが少なくとも特定の中低速主体のコースでは、マクラーレンとフェラーリは競争力を取り戻しつつある。
これはレッドブルにとっては嬉しくない状況だ。
もっとも状況が悪いのはブラウンGPも同じ。
彼らはタイヤ温度に関する深刻な問題を抱えており、今後もスパやシンガポールで同じ問題を抱える可能性が高い。
次のスパは高いレベルでのダウンフォースが求められるので、レッドブルはここで勝つ必要がある。
一方、気温が低いことが予想されるここで、ブラウンGPはいかにポイントを拾うかが、チャンピオンシップに向けたポイントとなる。