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2010 Rd.1 バーレーンGP観戦記

 ▽ワンダーボーイ ベッテル

いつもながらに見所満載の開幕戦であった。 今回、一番最初に取り上げなければならないのはベッテル。 予選Q3 会心のアタックでポール・ポジションを獲得。 スタートも完璧でその後のペースもよく、順調にレースをリードしていた。 タイヤをいたわりつつ、二位のアロンソとの差をコントロールし、決して無理して差を広げようとはしない。 アロンソがタイムをアップすると、ベッテルも次の週にタイムアップして差を広げる展開で、全く隙のないベッテルのレース運びだった。 ところがレース途中でエンジンに使用されているプラグにトラブルが発生。 ミスファイアが発生し、大きくパワーダウンし、一時は4秒近くもタイムを落とした。 明らかにストレートスピードが落ちてアロンソ、マッサ、ハミルトンに抜かれてしまう。 だが、ここからのベッテルがすごかった。 一時、全体のレースペースより4秒も落ち、残り周回数を考えると10位に残れるかギリギリのタイムだったが、そこからレースペースの2秒落ちまで盛り返した。 特にコーナーの多いセクター2では常に速くそれ以上、順位を落とさない走りを、見せた。 ロズベルグには抜かれるのは時間の問題であり、ミハエルを押さえ込めるかどうか、というタイムだったが、最後までアタックし続けたベッテルはなんとニコの前でフィニッシュ。 4位で12ポイントを獲得した。 ニコはベッテルの直後まで追いついたのだが、タービュランスがひどく、仕掛けることが出来なかったこともベッテルには幸いした。

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 正直、レース途中ではとても4位でレースが終われるペースではなかっただけに、このベッテルの走りには驚きである。 恐らくベッテルはパワーダウンを感じ時には無理をせずに、エンジンをいたわりながら走ったのだと思う。 メカニカル・トラブルだと、無理をするとエンジンが壊れて、リタイヤする可能性が高くなる。 しかし、レース中に排気音がおかしいため、トラブルの原因が排気管だと思われると(実際はプラグだったが)、再びペースアップし、4位でフィニッシュした。 最近はプラグのトラブルというのも、あまり聞かなくなったが、このような場面で発生するとはついていない。 この若いドライバーの冷静な判断とドライビングには驚かされることが多い。 マシンの信頼性さえ確保できれば、彼は間違いなくワールドチャンピオンになれるはずだ。 ▽アロンソとマッサ 復活を告げる1-2 そのベッテルを下してフェラーリ移籍後、初優勝を遂げたアロンソだが、彼もまた良いレースを見せてくれた。 予選ではセクター2でミスをして3位スタート。 決勝スタート前はマッサと共に予防的なエンジン交換をして、少し不安があった。 だがスタート直後にマッサがインを抑えると、マシンをアウトに振って1コーナーへ飛び込む。 バーレーンは砂漠の中にあるサーキットであり、レコードライン以外はあまりグリップがない。 マッサはインを抑えにいったことで、グリップがなかった。 コーナーリング・ラインの半径が小さくなりスピードがのらなかったのも、不利に働いた。 アウトから言ったアロンソは1コーナーをマッサと並走し、次の左コーナーでマッサのインを取り、前に出ることに成功。 スタート直後は燃料搭載量が重くブレーキングも楽でないが、ミスなくマッサを抜いたアロンソの走りは見事だった。 マッサもまた1コーナーのアウト側にアロンソの居場所をきちんと与えており、フェアなバトルだったと思う。 その後はベッテルの後ろで走り続けるが、アロンソがタイムを上げるとベッテルも上げる展開で打開策が見つからない。 上位では最初にピットに入り、タイムを上げるがベッテルも次のラップで入り、順位の変動はなし。 正直な話、ベッテルにトラブルがなければ、アロンソの優勝は難しかっただろう。 だが速くても信頼性がなければ勝てないのがF1。 どのデザイナーも空力と信頼性のバランスを考えて設計しており、今回はフェラーリに軍配が上がった。 もっともフェラーリが信頼性を重視し、空力を軽視しているわけではない。 コース上でのスピードも、レッドブルとトップを争うほどであり、不安はない。 マッサも昨年のハンガリーGPのアクシデント以来のレースだったが、ブランクを全く感じさせない走りだった。 予選ではアロンソを上回り、決勝でも2位。 復帰のレースとしては上出来だろう。 ▽少し苦しいマクラーレンとハミルトンの活躍 テストでは好調だったマクラーレンであるが、開幕戦のスピードはレッドブルやフェラーリにはかなわなかった。 それでも3位を得るハミルトンの能力はさすが。 この表彰台はハミルトンがいなければ、実現していない。 だがこれは結構、微妙な問題である。 あまりもハミルトンの能力が素晴らしいので、マシンの本当の実力が見えにくい。 だが、マクラーレンがレッドブルやフェラーリに比べてダウンフォースが少なく、苦しいのは間違いないようだ。 さらに、マクラーレンの疑惑が持たれていたリア・ウィングのスリットは承認されたが、ディフューザは次回から変更することを余儀なくされる。 ディフューザのどの部分を変更するのか詳細は不明だが、今のF1にとっディフューザは最重要パーツである。 その重要なパーツを、輸送期間などを考えると実質1週間で、競争力を維持したまま変更することは、かなり難しい作業だ。 ただでさえ、レッドブルとフェラーリに差を付けられている現状では、この変更はかなりの負担になるだろう。 一方のバトンはまだマクラーレンのマシンを自分のものにできていないようだ。 予選ではなんとかQ3へ進出したが、決勝ではタイヤを労りすぎて、ペース不足。あまり見せ場がなく7位で終わった。 もっとも予選順位が8位では上位を望むのは難しい。 もう少し予選でハミルトンに迫るタイムを出す必要があるだろう。 また、ロングランでのブリヂストン・タイヤのタイムの落ちが少なく、これではタイヤに優しい運転ができるバトンの良さをいかしきれない。 ▽ニコ意地とミハエル入賞 もっとも注目されていたミハエル・シューマッハーだが、6位でレースを終えた。 復帰初戦を入賞で終えたので、普通だったら満足するところだが、彼は満足していないだろう。 なぜなら予選から常にニコより遅かったのだ。 予選では常に0.2秒から0.5秒遅れていた。 ただ、これは予想の範囲内といえるだろう。 3年のブランクがあり、テスト制限のあるミハエルがいきなりニコと同じペースでドライビングできてしまうと、その方が驚きだ。 いくら伝説の最強ドライバーとはいえ、彼とて人間である。 やはり事前の予想通りミハエルが100%の状態に戻るには、もう少し時間が必要となる。 特にシーズン中はテストができないので、レースの週末を通じて徐々に感覚を戻すしかない。 ミハエルがニコに対抗できるようになるのは、早くてシーズンの後半というのが妥当な時期となる。 またメルセデスGPのペースは上位3チームに比べて少し落ちる。 これが、ミハエルのプレッシャーを多少緩和している。 これでマシンに勝つ力があれば、皆がミハエルに優勝を望んでしまうところだが、マシンにその能力がなければ、ミハエルは多少時間を掛けて、感覚を取り戻すことが出来る。 ただ、マシン開発に関しては、ミハエルの経験がいかせると思う。 特にシーズン中のテストが禁止されている状況では、ミハエルの的確なフィードバックと判断は大きなアドバンテージになるだろう。 それでは、開幕戦恒例 各チームの今シーズンを占ってみよう。 マクラーレン 全体的にダウンフォースが不足気味。 その為、タイムが伸び悩んでいる。 だがこのチームは毎年、シーズンが進めば的確な開発で競争力を付けてくる。 できるだけ序盤はポイント確実に取り、後半勝負に持ち込みたい。 メルセデスGP マシンのペースは4強の中で4番目。 さすがのミハエルでもいきなりニコより速く走るのは難しい。 今後の開発のペースが勝負を決める。 その点で、ベテラン ミハエルの経験は大きな助けになるだろう。 レッドブル マシンは最速の一台。 ベッテルの速さは今年も健在。 今年もこのチームの課題は信頼性。 そこさえ確保できれば、チャンピオンも見えてくる。 フェラーリ テストでの好調そのままにレッドブルと並んで最速のマシン。 タイヤにも優しく、ロングランのペースもいい。 アロンソに関しては3年連続のチャンピオンを狙える。 マッサもブランクを感じさせない走りで、コンストラクターズ・チャンピオンの最有力はフェラーリだろう。 ルノー 想像以上にスピードがあった。 クビサだけでなくペトロフのペースも悪くなかった。 これなら入賞はコンスタントにできそうだ。 だが資金的に豊富というわけではないので、シーズン後半の失速が心配。 さらなるロシアマネーが必要。 ザウバー テストでは良いタイムを出し、他チームからマークされていたが、意外と伸びなかった。 Q2へ進出できたのは新チームがいたからで、昨年だとQ1で落ちていただろう。 今回は二台ともハイドロリック系のトラブルでリタイヤ。 テストをしていながら、開幕戦で二台同じトラブルで失ったのは、今後の信頼性に不安を残す。 可夢偉はハード側でスタートしたが、これがあまり良くなくペースが上がらなかった。 今回、第一スティントのタイヤ選択はソフトが正解だった。 このあたりの判断ミスは、今後に不安を残す。 今回はかなりセクター2のバンピーな部分で苦しんでいたので、同じように路面がバンピーな次回のオーストラリアも苦しいかもしれない。 ウィリアムズ 予想通り全体的に中位のスピードだった。 バリチェロは、なんとか10位に入賞。 ヒュルケンベルグは途中でスピンなどもあり14位に終わる。 開幕戦で見せたウィリアムズのスピードでは、今後のシーズンはかなり厳しい。 フォース・インディア 予想以上のスピードがあった。 昨年後半の勢いをそのまま維持。 スーティルは、なんとQ3へ進出。 彼はスタート直後にトラブルに巻き込まれて順位を落としたが、リウィツイが9に入賞。 開幕戦で上々の滑り出しを見せた。 今後も期待が持てそうである。 トロ・ロッソ 全体的にペースが不足している。 ドライバー二人も若く、経験が少ないので開発の進行も期待できない。 このままでは、新チームの前を走るのがやっとだろう。 ロータス 二台とも完走したのはすごいことである。 ただスピード不足は明らか。 だが、新しいチームであることを考えると、シーズンを通して学習を続け、それを来シーズンに活かしたいところだ。 バージン 車載カメラを見ていても、コーナー入り口から出口まで常に修正をしており、このマシンのドライビングが難しいことが良くわかる。 しかし、グロックは予選で大活躍。 なんとこのマシンで、ロータスよりいいタイムを記録した。 完走はできなかったが、それはまだまだ先の課題だろう。 ヒスパニック なんとか決勝のグリッドに着くことが出来たことは、彼らにとっては一つの勝利である。 バージン以上にコーナーリング中の修正が多い。 マシンがこの調子ではドライバーは怖くて、全く踏み込めない。 予選がシェークダウンとなったチャンドックは気の毒だった。 ブルーノもフリー走行で限られた周回しかできず、しばらくはレースを通じてテストをしていくしかないだろう。

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