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真相!ハミルトンがタイヤ交換をした理由

_d1o4695-s ハミルトンがモナコGPで2回目のタイヤ交換をした理由が明らかになってきた。 実は当初、チームはハミルトンに対してステイアウトを指示していた。 セーフティーカーが登場後、ハミルトンは走行中にコース脇のモニター画面を見て、メルセデスのクルーが出てきたのを確認している。この時、ハミルトンはニコがタイヤ交換すると考えた。なぜなら自分にはピットインの指示がなかったからである。 だがこの行動はセーフティーカーが登場したときの通常の動きである。マシンがピットインするしないに関わらず、緊急ピットインの可能性に備えて、念のためにピットクルーが準備するためであった。つまりルイスは勘違いしていたことになる。 ハミルトンはピットに向かって「タイヤが冷えてきて、内圧が落ちている」と報告している。 ハミルトンはニコがスーパーソフトに交換すると、長い周回数を走ったソフトタイヤを履く自分は不利になると考えた。というのも彼はいつも以上に速いペースで走行していたからである。通常、タイヤがすぐダメになるピレリタイヤの特性により、彼はトップに立っても5秒から10秒のギャップを維持している。そうしてタイヤを労りながら、セーフティーカーなどで差が縮まったときのために、タイヤを温存している。 だがこのレースではタイヤの心配はなかった。ソフトタイヤはレース距離を走れるほどの寿命があり、今回は思い切り速く走っても問題がなかった。またハミルトンはこのレースで、ニコに大きな差をつけて、精神的に打撃を与えたいとの思いもあった。その為、いつも以上に速く走っていた。当然タイヤにはいい影響はない。 またソフトタイヤは非常に温まりが遅く、ヘタをすると2〜3周かかることもあったので、もしニコがスーパーソフトに交換した場合、再スタート後に自分は不利になると考えたルイスは、タイヤ交換をしたいとチームへ要求した。 だがチームからの指示はステイアウトだった。チームはニコがタイヤ交換しないことも知っていたし、タイヤが最後までもつことも理解していたからである。 だが同時に彼らはひとつの不安も抱えていた。それはベッテルがタイヤ交換した場合、二台のメルセデスはフェラーリの攻勢を受けることになる。 もちろんモナコは抜けないコースなので、抑えきることは可能だろう。だがリスクの種はできるだけ、排除したい。 とはいえベッテルより先にニコをピットに呼ぶことはできない。もしベッテルがタイヤ交換しなければ、みすみすフェラーリを先に行かせることになるからである。ちなみにフェラーリはタイヤ交換を考えもしなかったとレース後に述べている。 だが「不運」なことにハミルトンはタイヤ交換しても、トップで戻れる余裕があった。セーフティーカーが出た直後に2人の差は最大26秒も開いた。通常のレーシングスピードでも22秒の差があれば、タイヤ交換をしても順位をキープできる。セーフティーカー中であれば、走行速度は落ちるので15秒程度で順位が守れる。 そしてチームはハミルトンにピットインを指示した。チームはハミルトンをピットに戻しても、トップで戻れると確信していた。もしチームがスーパーソフトの方が有利だと考えていても、トップで戻れないのならば引き続きルイスにはステイアウトを指示していただろう。 ルイスがタイヤ交換をしてもトップで戻れるのであれば、ベッテルがタイヤ交換して古いタイヤのロズベルグがベッテルに抜かれても、ルイスは逃げ切れる。もしベッテルがタイヤ交換しなければ、そのまま1-2フィニッシュできる。 つまりメルセデスのこの判断は、対ベッテルを考えた作戦であった。メルセデスはマレーシアでタイヤ作戦の違いにより、フェラーリに負けたことを今でも悔やんでいる。だから二台のうち一台をタイヤ交換し、一台をステイアウトすることにより、ベッテルがどちらの作戦を選択しても、対抗できるようにしたかった。 20秒以上の差があれば、絶対に順位を落とさないとメルセデスのピットは確信していたはずだ。ところが思いもかけない事態がハミルトンを襲う。 インラップのセクター2でセーフティーカーの後ろに着いてしまったのだ。そしてセーフティーカーは2位と3位を隊列につけるために、走行スピードを落とした。これにより彼は約8秒を失った。そして彼がピットレーンへ入る直前に更にタイムを失い、ニコとの差は16秒程度に縮まっていた。 だがまだ16秒あれば ぎりぎりトップで戻ることができる。そこでまたもハミルトンに想定外の出来事が起こる。タイヤ交換しようと走ってきたザウバーのナスリがピットレーンを走行してきたので、それを先に行かせるためにルイスはタイヤ交換が終わっているにも関わらず、0.8秒静止せざるを得なかった。 そしてハミルトンがピットアウトとした時、ニコは前に出ていたし、ベッテルにも僅差で抜かれてしまった。 状況を悪くしたのは、通常GPSでコース上のどこを走っているのかわかるのだが、モナコではGPSが使えない為、コース上に設置された19のセンサーでマシンの位置を把握しており、リアルタイムで正確なトラックポジションを把握することが困難であった。 レース後、ハミルトンが納得がいなかい表情を浮かべていたのは、彼が優勝を逃した理由を理解できなかったからである。彼がピットに入ったと考えていたロズベルグが実はタイヤ交換しておらず、自分だけがタイヤ交換して優勝を逃した。これでは誰も混乱するであろう。 結局、全ての人間がベストになるように行動したのだが、フェラーリの影におびえて判断を間違えたとしかいいようがない。だが対ベッテルと言うことを考えれば、メルセデスは目的を達成したことになる。 メルセデスの作戦担当を責めることは簡単である。確かにこのタイヤ交換の指示は2010年アブダビGPでアロンソのチャンピオンシップの望みを絶ったタイヤ交換以来、最悪の指示だったかもしれない。 だがこれは一秒ごとに状況が変わる中、あらゆるデータを理解して、瞬時に判断を下さなければならない、非常に困難な仕事である。もしタイヤ交換後にルイスのリリースが遅れていなければ、彼はトップで戻って、何事もなかったようにレースは終わっていただろう。 モナコGPは何が起こるわからない、恐ろしいレースである。