一見ハミルトンの勝利は単なるラッキーに見えるかもしれない。だがこの勝利は彼が実力で獲得したのは間違いはない。
まず彼らは常識外れの作戦を採用した。普通雨でスタートし、路面が乾いてくるとまずはインターミディエイトタイヤに交換し、完全に路面が乾いた時点でドライタイヤに交換する。ところが今回、ハミルトンはスタートから最初のタイヤ交換をする31周までウェットタイヤで引っ張った。
実はメルセデスも当然、ハミルトンにインターミディエイトタイヤを履かせようとしていた。ところがハミルトンのペースはインターミディエイトタイヤを履いたライバルたちと比べてもほぼ同等か、いいくらいだった。フィーリングもよかったハミルトンはギリギリまでタイヤ交換しないことを主張した。
チームはこのハミルトンの主張を認め、そのまま走らせることにした。チームとしては、いけるところまで行って、ダメならすぐにインターミディエイトに変えても2位はいけるという考えもあっただろう。
この判断は素晴らしかった。ウェットタイヤで長距離走るのは今年初めてである。つまりウェットタイヤがどういう反応をするのかは、誰にもわからなかった。そういう状況でハミルトンは自分の考えを説明し、チームもまたそれを認めた。
簡単そうに見えるが、レースでは刻一刻と状況が変わってくる。そういう時間のない中で、限られた情報から適切な判断をすることは容易ではない。
実際、レッドブルは2戦連続で間違った判断をしている。
それがメルセデスの真の強さでもある。彼らのマシンが最速であるのは明らかであるが、このような荒れたレースでも勝てるのは、彼らの強さがマシンの速さに依存していないことの証明である。
実際、開幕戦でもフェラーリがリードしていたレースを赤旗中断中にメディアムタイヤに交換して逆転している。
そうしてハミルトンのウェットタイヤ走行が続いた。優勝を争うリカルドは23周目にインターミディエイトに交換して、2位からハミルトンを猛追しており、ギャップは数秒にまで縮まっていた。
そして31周目にハミルトンが先にドライタイヤに交換したが、このタイヤ選択も驚きであった。なんと彼は一番やわらかいウルトラソフトタイヤを選択したのである。
残りは37周であり、最後まで走りきれるかどうかは未知の世界であった。マシンは軽くなっているとはいえ、最後まで走りきれるは誰にもわからなかった。
この判断にはレース後半に雨が降る予報があり、短いスティントになるという予想も影響しているかもしれない。
しかし結局、雨はレース残り2周くらいでパラっと降っただけで、レースの大勢には大きな影響を与えなかった。
当然、トップのマシンはペースをコントロールすることが可能でタイヤを温存することができる。特にモナコではオーバーテイクが事実上不可能なので、一度前に出ればタイヤをセーブすることができる。
だからハミルトンはリカルドより早くタイヤ交換をしてアンダーカットされないようにした。だがハミルトンのアウトラップはリカルドのインラップより10秒程も遅くハミルトンの作戦は完全に失敗するはずだった。
そこであのリカルドのタイヤ交換事件がおこった。ここまで見ていくとハミルトンが決してラッキーだけで勝ったことではないことが、よくわかるだろう。
最終的にリカルドのタイヤ交換失敗がキーポイントになったのは間違いがない。だがハミルトンはただリカルドの失敗を待っていたのでなく、積極的に攻めた作戦をとることにより、逆転の勝利をものにした。ピットアウトしてきたリカルドとハミルトンとの差は1秒もなかったのだから。
それに昨年不運に見舞われた(昨年ハミルトンは必要のないタイヤ交換をして勝利を失っている)ハミルトンに幸運の女神がほほ笑んでも許されるのではないだろうか。
ここまで不運が続いていたハミルトンだったが、これでロズベルグとのポイント差はたったの24ポイント。これはロズベルグが開幕4連勝して、ハミルトンはまともな予選や決勝レースができなきったことを考えれば、驚くほど少ないポイント差である。