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ベッテルの素晴らしい判断

160025_eur-europeGP2016 ヨーロッパGPでまたも素晴らしいドライバーの判断能力が見られた。 アゼルバイジャンのバクーサーキットは決勝レースが開催された日曜日は天気が良く気温が上がった。そのため路面温度が上昇し、タイヤの消耗が激しくなった。 もともとここは市街地サーキットであり、路面のタイヤへの攻撃性は低く、ワンストップでいけると思われていた。 ところが路面温度が50度を越したこともあり、タイヤに厳しい条件になった。 そのため10周も走らないうちにタイヤ交換するドライバーが続出した。マクラーレンホンダのアロンソなどは5周でタイヤ交換することになり、大半のドライバーも10周までタイヤ交換した。これで彼らのツーストップはほぼ確定である。 このタイヤ交換した中にレッドブルのリカルドも含まれていた。リカルドがタイヤ交換した6周目に、リカルドと順位を争っていたベッテルはチームからすぐにタイヤ交換するように指示された。アンダーカットをさけるためである。 だがこの時ベッテルはまだ自分のタイヤは生きていると感じていた。ここでタイヤ交換すればツーストップはほぼ確定で、当初の計画が崩れることになる。 ベッテルはチームに対して、まだタイヤは残っていることを告げて、タイヤ交換せずに走れると主張した。 そしてフェラーリはベッテルをそのまま走らせることを決定し、ベッテルは結局20周まで走り、新品のソフトに履き替えて、ワンストップでレースを走りきった。 そしてこれは大正解であった。6位までに入ったドライバーはすべてワンストップだったからである。今回は路面温度が高くタイヤの消耗が激しかったが、それでもワンストップで走りきった方が速かった。 ベッテルの素晴らしい判断であった。同じくモナコでのハミルトンも路面が乾いていき、ライバルが続々インターミディエイトに履き替える中、タイヤを交換せずに走行を続けて路面が乾いてからドライタイヤに交換して優勝した。 確かにピットはすべてのデータを比較検討することができるし、ドライバーよりはるかに冷静に判断できる。だが実際の路面状況やタイヤの状態はドライバーにしかわからない。 だが実際にはドライバーは心拍数200近い状態で走っているわけで、冷静に判断できる状態ではない。 これは誰にでもできる技ではなく、ほんの一握りの優れたドライバーだけが成し遂げることができるのである。 そういう意味ではベッテルやハミルトンが何回もチャンピオンになっているのは、マシンが速いだけでない理由が当然ある。もしマシンが速いだけでチャンピオンになれるのならチームメイトとタイトルを分け合わなければおかしい。 だが実際はベッテルやハミルトンだけがチャンピオンになり、チームメイトはなれないのである。 そこに小さいけれど絶対的に越えられない壁がある。それを痛感したヨーロッパGPであった。