可夢偉がシートを得ても安心できない理由
可夢偉がようやく2014年のシートをケータハムに確保して、F1に戻ってくる。ファンであれば一安心というところだろう。だが安心している暇はないかもしれない。
まずケータハムは昨年、コンストラクターズランキングが一番下位だった。これはマシンが一番遅かっただけでなく、チームの総合力が一番悪かったことを意味する。確かに可夢偉の言うようにケータハムの施設は優れているのかもしれないが、それを使いこなすのは人間である。優秀な人材がいなければ、どんなに優れた施設も使いこなせず、宝の持ち腐れになるだけである。
可夢偉は今年必ず結果を残さなければならない。だがこのケータハムのマシンで結果を残すのは、困難な仕事である。それに入賞圏内を争っていれば、他のチームからも注目されるが、最下位をマルシアと争っていても誰にも注目はされない。
それはドライバーがどんなに頑張っているかは関係がない。可夢偉が例えマシンの能力を超えるパフォーマンスを引き出せたとしても、それが結果として表れなければ評価されない、厳しい世界である。可夢偉が評価されてトップチームへ移籍するためには、このマシンで入賞する必要がある。そしてケータハムで入賞するということは、優秀なマシンでレースに優勝するよりも難しいかもしれない。それほど圧倒的な結果を残さないと、生き残れない。
全てのチームが全ての人間がレースに優勝するために仕事をしているわけではない。彼らも普通の人間である。与えられたリソースで無難な仕事をする人も多い。挑戦して失敗すれば責任を取らされて首になるかもしれないリスクがある。それをとれる人間は少ない。
ケータハムの年間予算はグリッド上では最底辺レベルである。お金があれば速くなれるわけではないが、ないよりはあった方がいい。優秀な人材を雇うにも、それなりのお金が必要である。
今年からレギュレーションが大幅に変わり、どのチームも最初からのスタートになるのは間違いがない。だがその後の進化にはチーム力が如実に反映されるし、そこがトップチームとその他の違いである。
サッカーの世界であれば、クラブの数は星の数ほどあり、レベルは違うがどこかでプレーすることは可能だ。しかしF1ではチームの数は11で、シートの数はわずかに22。これは一つのクラブのベンチ入りメンバーよりも少ない。だからこそF1の世界に戻ってきたのはいいことである。そこにいることは重要なのである。ドライブしないドライバーは評価のされようがないのである。
来週からはテストも始まる。テストが始まればもうすでに来年のシート争いが始まる。テストで調整して、開幕から全力でいく必要がある。シーズンが進めば進むほど、上位チームとの差は開いていく。信頼性も増していき、下位チームはチャンスが少なくなる。シーズン序盤にいかにチャンスをつかめるかがポイントとなる。
F1戻ってきても可夢偉には茨の道が待っている。だがそれは彼が選んだ道である。F1ではなく他のモータースポーツで活躍する選択肢は当然あった。だが彼はそれを断り、F1の世界へ戻ってきた。それは素晴らしい決断である。どんな決断も自分自身が納得できなければ、前に進むことはできない。
実のところ、上位チームから下位チームへ移籍して、結果を残してカムバックできる例は驚くほど少ない。ただそれができているドライバーは息が長いドライバーでもある。F1でのキャリアではいい時もあるし、悪い時もある。もしウェバーが2008年以前にシートを失っていれば、彼は単なるその他大勢のドライバーとなったはずである。だが彼はそうならなかった。それは彼がどんな形にせよ、F1をドライブしていたからである。
そして可夢偉がそんな息の長いドライバーとなり、またいつか表彰台を争えることを願いながら、今年のレースを見て行きたいと思う。
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