前回はラッキーな今シーズン初の勝利を得たハミルトンだったので喜びも今ひとつだったのだが、今回は全く問題ないパーフェクトな勝ち方で彼の喜びも大きかった。
カタルーニャサーキットの路面再舗装の影響もあり、今回ハミルトンはタイヤの寿命を気にしなくてよかった。こういう時のハミルトンは手がつけられない。それにメルセデスはクリーンエアで走らせると速いことは、ここ数年の実績でも明らかである。
最近は予選でもフェラーリに勝てていなかったが、今回はベッテルより速くポールポジションを獲得。レースでもスタートからタイヤ交換時を除き、トップを維持して勝利。パーチャルセーフティカーが出ても全く問題にしなかった。今シーズン初めてメルセデスが最速最強だった週末だった。
だから今回、ハミルトンについて述べることは少ない。だが二位以降のレースは今回も波乱に満ちていた。
レースはスタートから動いた。予選2位のボッタスが蹴り出しよく二位をキープしそうな勢いだったが、スタートからターンワンまで700mと距離があるので、ベッテルがボッタスのスリップに入りアウトから仕掛けてオーバーテイクを成功させる。そのためハミルトンを守る盾がいなくなってしまった。これでハミルトンのタイヤ交換の選択肢が少なくなると思われたが、この日のレースはこれまでとは違う展開となった。
レース前の予想では、タイヤ交換はツーストップが有力だった。ほとんどのドライバーがソフトでスタートしたのは、うまくいければワンストップで行きたかったからである。その方がセーフティカー登場時などで作戦面での選択肢が増えることも理由にあった。
今年はカタルーニャサーキットの路面が全面的に再舗装されたので、路面のタイヤへの攻撃性が格段に改善された。そのためタイムの落ちも少なく燃料が軽くなるにつれてタイムがアップするか、もしくはイーブンであった。たがら昨年まででは考えられないワンストップも選択肢としてはあった。
今回ピレリが持ち込んだタイヤは通常よりもコンパウンドのゴムの厚さが薄くなっており、そのコンパウンドの減りがタイヤのライフを決めた。これが最後の最後に順位の鍵を握ることになる。
タイムの寿命という意味でいうと、最初にグロージャンのクラッシュでセーフティカーが出たことはタイヤにとって楽な状況になった。
だがこの日のフェラーリは少し違った。これまでの2レースは勝てるはずのレースを落とした。だから失ったポイントは別にして、競争力の観点から見るとフェラーリは最速だった。ところがスペインGPでは、ハミルトンにまったく着いて行けなかった。そしていつもはタイヤの使い方もメルセデスより優れているにも関わらず、この日はタイムの落ちが大きかった。
だから本来二位を走っていたベッテルは後ろを走るボッタスがタイヤ交換した後に、ボッタスが履いたタイヤを確認してからタイヤ交換したかったのだが、その余裕はなく逆にアンダーカットを防ぐために17周、先に動かざるを得なかった。
その2周後にオーバーカットを狙ったボッタスだったが、リアタイヤの交換に手間取り3.9秒もかかった。ボッタスの試みは成功しなかったので、順位は変わらなかったが、これがレース終盤に大きく影響を与えることになる。
後ろがバタバタしている間にもハミルトンはリードを広げ25周目にミディアムにタイヤ交換。残り41周。レース前ピレリがミディアムは約40周いけるとの予想だったので問題はなかった。
だがハミルトンより早くタイヤ交換でミディアムに履き替えたベッテルとボッタスは違った。彼らはミディアムで最後まで走りきるにはベッテルは49周、ボッタスは47周を走り切らなければならない。これはかなり野心的な目標である。
そしてパーチャルセーフティカーが41周目に提示される。ここでベッテルはタイヤ交換へ入る。二位を走っていたベッテルはタイヤが最後まで持たないことを予想した。ここでボッタスもタイヤ交換するかと思われたが、メルセデスはギリギリで判断を変更し(メルセデスの作戦はベッテルがタイヤ交換すればステイアウト、ベッテルがステイアウトすればタイヤ交換というものだった)、ボッタスにステイアウトさせた。これはボッタスに47周をミディアムで走り切れということである。
そしてベッテルにもうひとつの不運が襲う。ピットに止まる前にオーバースピードで入ってきたベッテルは正確な位置に止まれずに、タイヤ交換に普通より1秒以上かかった上に、ピットレーンを走ってきたマシンを行かせるために、すぐにスタートできなくてさらにタイムロスしてしまった。
これでベッテルがコースに戻った時には、フェルスタッペンにも抜かれて4位に落ちた。それでも新品のミディアムを履いたベッテルはフェルスタッペンにアタックすると思われたが、ペースが上がらない。フェルスタッペンは接触の影響で左フロントウィングの翼端板を壊していたにも関わらずである。
2人のペースはほぼ同じで最後までベッテルはフェルスタッペンにアタックすることはできなかった。こうしてベッテルはタイヤ交換を決断したことにより、順位を二つ落としてしまった。
だからこのフェラーリの判断を批判することは簡単である。だがボッタスもタイヤはギリギリで、フィニッシュした後のフロントタイヤにはほとんどコンパウンドが残っていなかった。グリップがなくなったボッタスはペースを落としたが、ペースを落としたことにより、タイヤが冷えてしまった。そのためボッタスは冷えたグリップの落ちたタイヤで、プッシュしなければならず、ボッタスもコースアウトしてもおかしくはなかった。
だからベッテルも同じくステイアウトした場合、2周長いベッテルは最後まで持たなかったかもしれない。だから彼らはVSCが出た瞬間にタイヤ交換を決断した。
実は今回ピレリはコンパウンドの厚みを減らした。これによりタイヤの寿命は短くなり、さらにタイヤは冷えやすくなった。
今回のこの変更がレース結果に影響を与えたかどうかは、まだわからない。だが少なくともこのレースからメルセデスがフェラーリより速くなったのは事実である。これがタイヤコンパウンドの厚みの問題なのか、単純にメルセデスにはミディアムとソフトタイヤがあっているのかはわからないし、低めの気温がメルセデスには有力に働いたのかはわからない。ちなみにピレリはフランスやイギリスでも同じコンパウンドが薄めのタイヤを持ち込む予定である。
これはコンパウンドの厚いタイヤをカタルーニャサーキットのような、横Gの大きなコーナーで走らせるとタイヤの内部が熱を持ってしまい、ブリスターが発生しやすくなる。それを避ける為にコンパウンドを薄くして放熱しやすくするのが目的である。
次のモナコとカナダはかなり特殊なサーキットなので、この結論はその後のフランスGPまで待ちたい。