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ベッテルとフェラーリ 驚きの3連勝 シンガポールGP観戦記

▽フェラーリ まさかの3連勝
フェラーリが3連勝したが、これは2008年以来、11年ぶりの事である。この時はマッサとライコネンが4連勝している。
 
だが今回はルクレールではなくて、ベッテルが勝った。それではなぜポールからスタートしトップを走っていたルクレールが破れたのだろうか。シンガポールGPを振り返ってみよう。
 
予選での最大の驚きは、フェラーリの速さだった。これまでもフェラーリはシンガポールの様な低速サーキットは大の苦手で、メルセデスやレッドブルの後塵を配していた。
 
ところがルクレールが予選をポールポジションで、ベッテルは3位である。驚くなという方が無理である。
 
これは今回彼らが持ち込んだアップデートパーツが効果を発揮したのは間違いないとは思うが、あまりにも速いので驚きである。直線主体のセクターワンで速いのは間違いないが、セクター2や3でも十分な速さがあった。アップデートパーツ入れるだけで、こんなに速くなるなら苦労しないのだが、その理由がイマイチよくわからない。
 
メルセデスの分析では、フェラーリは予選一周にセットアップを最適して、ポールポジションを取り、追い抜きの難しいコースを利用して勝ったと述べているが、他にもモナコの様な追い抜きの難しいサーキットはあるが、この様な現象は起きていない。
 
確かにレースでのフェラーリでのペースは遅く、タイヤも厳しかったが、タイヤに関していうとレッドブルもメルセデスも同様に厳しかった。
 
今回もストレートは速いフェラーリだったが、他のサーキットほどライバルとの差はなく、コーナー部分でも速さを見せていたので、彼らは徹底的にドラッグを無視して、ダウンフォースをつけに行ったのかもしれない。ライバルが同じ事をすると、ストレートスピードが伸びなくて、レースでオーバーテイクされる可能性があるが、フェラーリは有り余るパワーでそれをカバーできると考えられるかもしれない。
 
それではレースを振り返ってみよう。
 
 
▽ベッテルはなぜ勝ってしまったのか
スタート前の予想はワンストップ。シンガポールはストリートサーキットなので路面がスムーズでタイヤへの負荷が少なく、追い抜きが難しいので、新しいタイヤを履いても、前のマシンに引っかかるとタイムが伸びないからである。つまりポジションが一番重要なのである。
 
スタートから数周するとタイムが伸びなくなってきた。これはタイヤ交換のタイミングを先延ばししたいので、ペースを落としていたのだと思われるが、ハミルトンはこれ以上遅く走れないほどのペースだったと述べているのだから、相当遅かったのだろう。12位ストロールとルクレールの差は18周時点で20秒余りしかなく、これは各マシンの差が^_^平均して2秒ない状況で、実際マシンは連なって走っていた。
 
それでも上位陣はタイムが落ちてきてもなかなかタイヤ交換しない。それはシンガポール特有の事情があった。シンガポールはストリートサーキットなので、追い抜きがかなり難しい。
 
あまり早い段階でタイヤ交換してしまうと、中団のグループの中でコースに戻ることになる。彼らは周回遅れではないので当然、抜かせる必要はない。そうなるとタイムロスは避けられない。しかも11位以下のマシンは自由にスタートタイヤを選べる事ができ、ほとんどがミディアムタイヤを履いていた。
 

 
そのため中団グループのタイヤのタレは少なく、レース序盤でのタイム差はあまりなかった。これには当然、上位陣がタイヤ交換時期を延ばしたいのでペースを上げられなかったことも影響している。
 
上位陣はベースを上げないとタイヤ交換後に集団の中に埋もれてしまうが、ベースをあげるとタイヤが厳しくなる。このパラドックスに悩んでいた。
 
だから誰が最初にタイヤ交換するかは、我慢比べの様相を見せていた。
 
その上位陣の中では、4位のフェルスタッペンが最初に動こうとした。タイヤが厳しくて我慢の限界だった。それに気がついた3位のベッテルが反応した。最終コーナー手前のギリギリのタイミングでピットインするように指示されたのだ。これでベッテルはアンダーカットを防ぎ順位を守った。次の周にルクレールをタイヤ交換すれば、フェラーリは1-2を維持できる。
 
タイヤ交換前にベッテルとルクレールとの差は3.2秒。これだけの差があれば、通常次の周にタイヤ交換すればルクレールはポジションを守れる。ところがルクレールが次の周にタイヤ交換して、トラックに戻ったらほんの僅かの差ではあるが、ベッテルが先行した。
 
なぜこんな事が起こったかというと、ルクレールのタイヤがほぼ終わっていたからである。普通アンダーカット仕掛けても2秒ほどあれば、順位を守れる。今回は3秒以上も差があったので、この大逆転劇は起こった。
 
それにベッテルがタイヤ交換して戻ったところにはスペースがあり、ベッテルは自分のペースで走る事ができた。もちろんベッテルのアウトラップが素晴らしかったのは言うまでもない。そしてこれが最大の謎なのだが、フェラーリはベッテルがタイヤ交換した事を、ルクレールに伝えていなかったのだ。
 
もしルクレールにベッテルがタイヤ交換してペースアップしてると伝えれば、もうコンマ数秒稼ぐことはできたはずだ。そうすれば勝ったのはベッテルではなくて、ルクレールだっただろう。
 
その一方でメルセデスはタイヤ交換を遅らせる決断をした。ボッタスを22週目、ハミルトンを26周目にタイヤ交換させた。だが結果的にこれは裏目に出た。
 
ハミルトンはルクレールがピットインしたのを見て、同時にタイヤ交換をしないことにした。同じタイミングでタイヤ交換しても抜くことは難しいからである。ただハミルトンのタイヤもかなり厳しかったので、走れば走るほどハミルトンはタイムを失う。それでもハミルトンが走り続けたのはセーフティーカーが登場するのを期待していたからである。
 
この時点で、セーフティーカーが出てハミルトンがタイヤ交換すればロスタイムを少なくできて、トップでコースに戻ることができた、
 
だが結果的にセーフティーカーが出なかったので、ハミルトンは26周にタイヤ交換した時に2位から4位にまで落としてしまった。
 
これでレースは決まった。ただこのメルセデスの作戦を間違いと決めつけることもできない。というのも今回、結構タイヤに厳しかった。ピレリはソフトからミディアムのワンストップが最速と予測していたが、上位陣はソフトからハードに交換している。
 
だからできるだけソフトで長く走り、中団グループの前で戻り、第2スティントを短くしたかったのである。
 
それにシンガポールはセーフティーカー登場率100%なので、どこかのタイミングでセーフティーカー出る確率は高く、実際にレース後半に三回もセーフティーカーが登場した。
 
もしハミルトンのタイヤ交換前にセーフティーカーが出ていれば、ハミルトンはトップでコースに戻り優勝していた。
 
今回はベッテルのアウトラップの走りを讃えるしかないだろう。
 
 
▽セットアップミスのレッドブルホンダ
シンガポールGPでは優勝の期待が高かったレッドブルだったが、結果的には優勝できるペースはなかった。
 
ヘルムートマルコによるとシミュレーターのミスにより、イニシャルのセットアップを間違えており、それをレースまでに取り戻せなかった。
 
シミュレーターは多くのパラメータを投入して、実際に走らなくても、レースの状況を再現してセットアップに役立てるのだから、前提条件となる数字に間違いがあれば、セットアップミスするのも当然である。
 
だが最近のシミュレーターは再現性がかなり高いし、シンガポールGPも始めてではないので、この様なミスが起きるのはかなり珍しい。
 
メルセデスがタイヤ交換の時期を間違えたので3位になれたが、これはかなり幸運だったと言わざるを得ない。