2015年から導入が検討されているチームのコスト上限額が約200億円に決まった。だがこれでF1は危機から逃れられるのであろうか。
200億円と言えばトップチームが今使用している金額の約60%程度である。だが多くの中小チームの予算額は200億円には達していない。だから予算制限が実行されても中小チームの苦境は変わらない。
今の最大の問題点はスポンサーいないことである。トップクラスのF1チームのタイトルスポンサーともなれば100億円前後の投資が必要である。中小チームでも50億円前後はかかる。
この金額は普通の企業では出せる金額ではない。世界的なマーケティングをしたい大きな企業だけが投資できる金額である。そう考えるとF1のスポンサーになれる企業は全世界的に見ても限られてくる。
またF1チームのスポンサーになったからといって、その製品やサービスが急に売れるということもない。その為、投資しても短期的な効果が見えにくい。最近の企業、特に世界的な大企業は四半期毎の業績を開示する必要があり、株主にその投資の正当性を証明しなければならないことも、苦境に輪をかけている。
業績が悪化すれば広告費は真っ先に削られてしまうことも多い。
F1のスポンサーはイメージで購入される嗜好品には都合がいい。成功例で言えばマルボロやレッドブルである。タバコやエナジードリンクはどのメーカーのどの製品を使用しても効能に大きな違いはない。だからそのイメージは決定的に重要になる。だがクルマや携帯電話や情報機器は違う。各製品で機能が違うので、消費者はそれぞれの使用目的に合った製品を買う。だからF1のスポンサーだから製品を買うという可能性がゼロではないが、可能性は低い。
そうなると大きなお金を投資してくれる企業の数は更に少なくなる。
現状でスポンサーが少ないのであれば、スポンサーがいなくても回る仕組みを考えなければならない。つまりテレビ放映権料やレースの開催権料を分配し、その資金の中でチームが運用されるようにしない限り問題が根本的に解決することはない。
F1は他のプロスポーツと決定的に違うことが1つある。通常のプロスポーツの場合、入場チケットの収入はチームに直接はいる。だがF1の場合、入場収入は各サーキットが手にする。更にサーキットに出す看板はF1ビジネスを取り仕切るFOMの関連企業に入る。テレビ放映権料やレース開催権料も同じである。もちろんそこからチームへは分配金として支払われるが、それだけで運用するのは難しい。
FOMが手にする収入の約半分がチームに分配されるが、それでも半分である。そこに問題の根幹にある。FOMは株式の一部を投資会社に売却している。投資会社は当然、投資した資金を回収しようとする。その為、この分配金を大幅に増やすことは難しい。
今までのようにスポンサーが潤沢にいた時代はよかった。だが今の状況ではスポンサーに頼る活動には限界がある。あのマクラーレンですらスポンサーを見つけられないのである。
だから根本的な解決策は、分配金の額を増やしてそれだけでF1チームが運用できるようにすべきである。そうしない限り何の問題も解決しない。だがこれは言うのは簡単だが、実行するのは難しい。今のF1はあまりも商業的に成功し、利害関係者が多くなったので、たった1つの事を変更するのも時間がかかる。
だが参加者の大半が経済的な苦境に陥っているスポーツが、将来的に発展するとは思えない。破局を迎える前に何らかの手を打たなければならない。そして、それができるのはバーニー・エクレストンしかいないと思うのだが、状況はあまりにも複雑で、実行は困難である。