ボッタスにとっても、ハミルトンについても、メルセデスにとってもファンにとっても、F1にとっても、誰のためにもならないエンディングとなった。
レースはポールポジションからスタートしたボッタスがリードする。スタート時、予選3位のベッテルは予選2位のハミルトンに並んだのだが、ハミルトンはイン側をキープし、トップを走るボッタスのスリップストリームに入ることに成功。ソチは実質的な最初のコーナーまでの距離が長いのでこのスリップストリームを効かせて、ベッテルの前に出て2位をキープできた。
これで順位は予選順位と同じでトップはボッタス、ハミルトンは2位で3位はベッテル。タイヤ交換はこれまでのレースと同じ様にワンストップが予想されていた。
ベッテルとしたらボッタスはともかくハミルトンの前でフィニッシュできなければポイント差は更に広がる。オーバーテイクが難しいソチのサーキットで、タイヤ交換で抜くチャンスはたったの1回しかない。
メルセデスは通常通り前を走るドライバーにタイヤ交換の優先権があるのでボッタスを12周目にタイヤ交換させた。交換したソフトタイヤはレース距離を走れるくらいの寿命があった。ベッテルは同時に入ることもできたのだが、ボッタスの後ろでタイムロスすることを嫌い一周待った。ボッタスの後ろでタイムロスすると、ハミルトンをアンダーカットするのが難しいからである。次の13周目にベッテルがタイヤ交換。
ここでメルセデスは予想外の行動に出る。本来ならボッタスの次のラップでタイヤ交換、このレースではベッテルと同じラップでタイヤ交換するのだが、もう一周待った。
この時、メルセデスはボッタスにベッテルを抑えさせて、その間にハミルトンがプッシュしタイヤ交換後にボックスの前に出せないか可能性を検討していた(結果的にこの作戦は実行されなかった)。そうしている間にハミルトンはタイヤ交換するタイミングを逃し、彼はベッテルに1周遅れてタイヤ交換した。
それによりフレッシュなタイヤでアタックしたベッテルがピットレーン出口でハミルトンに並び抜いていく。これでベッテルはハミルトンを抜き2位に上がる。
これでベッテルはボッタスを追撃できるかと思われたのだが、次の周であっさりとハミルトンに抜かれてしまう。一時はベッテルがハミルトンのアタックを審議対象になるほど激しくブロックするが、流石にベッテルもやりすぎたの思ったのか、次のコーナーでハミルトンがアタックした時には抵抗もせずに抜かれてしまう。
この抜きにくいソチのサーキットでここまであっさりと抜かれるのは珍しい。予選でメルセデスがフロントロウを独占したことも含めて、これまでフェラーリが優位だったマシンパフォーマンスに関して、逆転した様に見える。
あるチームのエンジニアは、GPSのデータを見る限り、フェラーリのパワーは落ちていると証言する者もいる。通常、PUは開発されて徐々にパワーアップするのが普通である。例えアップグレードされなくてパワーアップしなくても落ちるのは珍しい。
もちろん距離を走ればエンジンのパワーは落ちるし、サーキットによっては燃費が厳しくパワーを落として走ることもあるだろう。だがその条件はこれまでも同じであり、このレースで極端に落ちるとは考えにくい。
一説によるとフェラーリはバッテリーパックを2分割して、制限されている以上のエネルギーを利用していたのではないかと疑われている。抗議を受けたFIAが厳しく監視する様になりパワーダウンしたという噂もある。
真偽のほどはわからないが、メルセデスがフェラーリよりパフォーマンスが上がったのは事実の様である。もちろんソチはこれまでメルセデスしか勝ったことのないサーキットで彼らにあったサーキットであるのは間違いない。だから次の鈴鹿を見ればどちらが有利なのかがはっきりするだろう。
レースに戻ろう。タイヤ交換した後にコース上でベッテルを抜いたハミルトンにも課題があった。タイヤ交換直後にプッシュしてしまったので、リアタイヤにブリスターが発生したのである。
しかもボッタスの後ろを走るので、乱流の中を走ると更にタイヤに厳しくなる。そしてベッテルも後ろにいてハミルトンのミスを待っている。
もしハミルトンのブリスターが悪化して、ベッテルに抜かれるのはメルセデスにとっては困る。そこでメルセデスはボッタスにハミルトンを先に活かせる様に指示した。これでハミルトンはトップに立ちボッタスは2位になりベッテルの防御壁になった。
ここまでであれば問題はなかった。ただベッテルは終盤にペースが落ちボッタスとの距離が離れた。これでハミルトンを2位に戻してもベッテルからの脅威はない。だからボッタスはレース終盤、チームにどうフィニッシュする?と聞いている。つまりこれは順位を戻すのかと確認している。ボッタスからすればベッテルからアタックされてタイヤが厳しいからトップを譲ったという理解だし、チームはそう言って順位を入れ替えたのだから、その原因がなくなれば順位を戻すのが当たり前という感覚だっただろう。
ところがチームからの返事は非情のノーだった。つまりそのままの順位でフィニッシュしろということである。
確かにチーム側が考えることもわかる。チャンピオン争いは1ポイント差で決まることも多いので、チャンピオン争いをしているハミルトンに1ポイントでも多くポイントを与えたいのはわかる。ロシアGPが終わってもまだ5レース残っている。ハミルトンがどこかのレースでリタイヤする可能性もある。その時にベッテルが優勝すればあっという間に25ポイント差を失う。
ハミルトンは優勝してベッテルとの差を50ポイント差に広げた。もしハミルトンが2位だったら43ポイント差ではある。この8ポイントは大きい。
だが43ポイント差であっても、残り5レースをベッテルが全勝しても、ハミルトンが全て2位でチャンピオンは決まる。
つまりハミルトンが2位であってもチャンピオン争いの大勢に大きな影響はない。ハミルトンがリタイアする可能性はもちろんあるが、それは極めて少ない。
そう考えればメルセデスが順位を戻してもよかったのではないかと考える。ただ今後ハミルトンがリタイアして、ヤッパリチームオーダー出して正解だったねとなる可能性はある。それは誰にもわからない。
だがチャンピオン争いが決まった後にハミルトンがボッタスに順位を譲って優勝させてもボッタスは全く嬉しくないだろう。
チーム代表としては数百億円の予算と数百人の人員を使っているのだから、絶対にチャンピオンをとらなければならないのは理解できる。
それにボッタスが単純に可哀想だとも思わない。F1は速いドライバーが偉いという至極単純な世界である。ボッタスにもいろいろ言い訳したいこともあるだろう。だが年間通してみれば速いドライバーは結果を残す。
つまり同じマシンに乗りながら、大きくポイント差を開いてるのは、それがハミルトンとボッタスの差であるということだ。
誰もが嬉しくないロシアGPとなってしまった。これは避けようがない結末だったのだろうか。
▽希望と失望のトロ・ロッソ
ホンダが待望のスペック3のPUを持ち込んだ。実際に走らせた感触は良好で、ルノーよりパワー面では上回ったという人もいるくらいである。ただマクラーレン時代にも悩まされた振動の問題が出てしまい、土曜日には旧型のPUに戻してしまった。
これは鈴鹿に向けて温存したわけではない。本来であればレース距離を走らせて信頼性を確認したかったのだが、ここで壊してしまっては元も子もないので、安全面を見て旧型に戻している。
旧型のPUで走った決勝レースだが、2台ともブレーキのトラブルでレースを終わっている。フロントブレーキが固着ししていまい温度が上昇し、ブレーキオイルの温度が上昇し踏み代が緩くなり、最終的にはブレーキが効かなくなってしまった。
レースの結果としては失望であったが、両ドライバーとも新しいPUには好感触を持ったようなので、次の鈴鹿が楽しみである。