Formula Passion : F1 コラム&ニュース

天国と地獄 オーストリアGP観戦記

 
▽ホンダ 苦節13年ぶりの初優勝
先週のフランスGPだけを見た人は、F1ってなんて面白くないスポーツだと思い、今週のオーストリアGPだけを見た人はF1ってなんと面白いスポーツだと感じたことでしょう。
 
ついにレッドブル・ホンダが初優勝を飾りました。ホンダにとっては今のPU規定になってからの初優勝。苦節5年目の初優勝です。とにかく長く苦しい道のりでした。厳しい道のりでした。でもだからこそ挑戦する価値があった。そんな価値のある勝利でした。ホンダにとっては2006年のハンガリーGP以来の優勝になります。
 
思い起こせばマクラーレン・ホンダ時代のトラブル続きの三年間。そしてまさかのマクラーレンからの絶縁状。望まない形での撤退の可能性すらあった。そんなどん底からトロロッソと組み、少しずつ上向きになった昨シーズン。満を持して今年レッドブルと組んだホンダ。
 
今年、初優勝の期待がありながらもレッドブル側の開発の遅れからなかなか結果が出なかった。ホンダもまだメルセデスやフェラーリとの差もあり、表彰台には登ったものの初優勝はかなり先の話と思われたのだが、まさかこの高速レッドブルリンクで勝つとは誰も予想できなかった。
 
今回の優勝はまずフェルスタッペンのスーパーなドライビングがあり、レッドブルの進歩もあり、総合力でなしえた結果であるのは間違いありません。ただホンダ抜きにはあり得なかった優勝であるのも間違いありません。それは表彰台でフェルスタッペンがレーシングスーツについたホンダのワッペンを指さしていたことからもわかります。
 
表彰台にホンダの人をのせようと考えたレッドブルも素晴らしいですね。表彰台での田辺さんの表情がぎこちなくてまたよかった。思い起こせば13年前の優勝も劇的な優勝だったことを思い出しました。それではレースを振り返って見ましょう。
 
 
▽天国と地獄のフェルスタッペンとF1
本当にF1はフェルスタッペンに救われましたね。先週のレースがあまりにも盛り上がりに欠けていたので、今週のレースが心配でしたが、見事なレースで大逆転優勝。フロントロウからスタートしながら、エンストで大きく遅れて8位から巻き返しを狙いました。この時点でフェルスタッペンもレッドブルもホンダですらも、優勝するなんて想像もしなかったでしょう。
 
今回の勝因としてはフェルスタッペンはミディアムスタートで、ルクレールはソフトスタートでした。大方はソフトスタートではタイヤが持たないという予想でした。それでもフェラーリはフリー走行でのタイヤの状況から見て、ソフトでいけると考えてのソフト選択でした。
 
このレースの鍵は高い気温でした。今年のヨーロッパは異常気象で6月下旬にも関わらず気温が35度。このオーストリアの山の中でこの気温はちょっと異常です。ここまで暑くなるとは予想できなかったメルセデスは、レース中ずっとクーリングの問題を抱えていてプッシュできず、完走するのが背一杯でメルセデスの優勝はなくなりました。
 

 
トップを走るソフトタイヤのルクレールのタイムは順調でミディアムスタートのフェルスタッペンやメルセデス勢と遜色のないタイムを出してました。そしてボッタスがが21周目にタイヤ交換すると、ベッテルやルクレールがポジションを守るために続々とタイヤ交換します。
 
ここで後方から追い上げてきたフェルスタッペンは走り続けます。そしてこれが最後に効いてきます。フェルスタッペンは31周目まで引っ張ってハードに交換。これで上位陣は全員ハードタイヤです。高い気温の中でハードタイヤですら終盤にタイヤが徐々に厳しくなってきました。フェルスタッペンはライバルに比べて8周以上若いタイヤを履いてベッテル、ボッタスを抜いて2位にまで上がります。
 
この時点でルクレールはまだ余裕があり、フェルスタッペンの逆転は厳しいかと思われたのですが、ルクレールは長い距離を走ったハードでタイムが上がらずにあれよあれよという間にフェルスタッペンが追いつきます。そして残り3周時点でアタックしますが、ここはルクレールがこらえます。素晴らしいレースです。そして次の周でフェルスタッペンはルクレールに襲いかかります。ただここはフェルスタッペンが行くと決めていたと言うよりは、ルクレールのスピードが伸びなかったので、追いついてしまいぶつかるのを避ける為にインに飛び込んだようでした。
 
 
そのためブレーキングが僅かに遅れ、1周前にはアウト側にルクレールのスペースを残していたのですが、このアタックではアウト側にスペースを残せず、ターンインしてきたルクレールと接触。フェルスタッペンはトップに立ったのですが、これが審議対象になります。
 
かなり長時間審議していたのですが、最終的にはどちらにもドライバーもペナルティに値しないと判断し、問題なしとなりました。もしここでフェルスタッペンがペナルティになり、優勝ドライバーが入れ替わっていたらF1は死にそうでしたから、本当にいい裁定でした。
 
それにしてもフェルスタッペンは恐ろしいドライバーになってきました。元々速いドライバーだったのですが、無理に攻めて接触することも多く、彼に批判的な人も多かったのですが、この接触に関しては彼には責任はなかったですね。
 
ルクレールの初優勝も見たかったのですが、フェラーリは今回セットアップを変更し、これまで足りなかったフロントのグリップ感を取り戻しました。その結果、このサーキットではカーブの多いセクター2と3で全体ベストを出してのポールポジションした。なので次回以降も期待が持てそうです。
 
F1はギリギリのところで生き残った。そんな素晴らしいレースでした。こんなレースなら毎週やってもらってもいい。毎週観戦記を書いてもいいな。