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ボッタスの強い意志と不運 アイフェルGP観戦記

序盤ハミルトンをリードするボッタス

見事なポールポジションを獲得したボッタス。スタートでも少し出遅れたがターン1でハミルトンを抜き返しトップを奪い返すと首位を走ります。13周目まではすべてが順調で優勝に向かって走っていたボッタスになにが起こったのか。ニュルブルクリンクで開催されたアイフェルGPを振り返ってみましょう。

▽寒いニュルブルクリンク
まず最初に金曜日の天候がレースに大きな影響を与えました。金曜日は霧が深くて午前・午後とも走行ができませんでした。というわけで土曜日のFP3の60分は各チーム大忙しになったのですが、それでも予選とレースに向けての適切なセットアップをする十分な時間がありませんでした。ミディアムタイヤはとても感触が良くグリップもライフも良かったので、これがレースのメインタイヤになると思われました。つぎにソフトタイヤも感触は良くライフも予想以上に良さそうでした。ソフトとミディアムがいい感触と言うことはハードタイヤはあまり使い道がないということです。

ただとにかくデータ不足だったので各チームとも1ストップでいけそうな予想はありましたが、2ストップもあり得ると考えていました。しかも現行のマシンでニュルブルクリンクを走ったことがないのですから、話はさらに複雑です。

なのでメルセデスもQ2でいつもならミディアムタイヤをはいてアタックするのですが、1ストップでも2ストップでもいけるようにソフトタイヤでアタックしました。最大のライバルのフェルスタッペンがソフトタイヤでアタックすることもその判断に影響を与えています。当然、ソフトタイヤの方が蹴り出しがいいのでスタート直後にフェルスタッペンに前に出られると、レース展開が不利になります。少なくともフェルスタッペンと同じタイヤを履いていれば、メルセデスの方がマシン自体は速いわけですから間違いはないのです。

日曜日は気温が10度以下と通常のレースではあり得ない気温の低さでした。気温が低いということはタイヤの寿命だけ考えたらいい条件でしたが、タイヤを温度領域に保てればと言う条件がありました。逆にピレリは気温が低すぎてタイヤにヒビがはいることすら心配していました。

首位を走るボッタス

▽強い意志を見せたボッタス
見事な予選アタックでポールポジションを獲得したボッタス。予選ではフェルスタッペンもメルセデス勢に0.2秒差まで迫りましたが、これは実力が縮まったと言うよりはフリー走行の周回数が少なかったので、本来の実力差が出なかっただけだと思います。

スタートで少し出遅れたボッタスはハミルトンと横に並びながらもにインを取られてターン1に侵入しました。これまでのボッタスであれば不利なこの状況でハミルトンに順位を明け渡していたでしょう。だがこの日のボッタスは違いました。アウトから被せて立ち上がり次のコーナーではインを取り再びリードを取り戻したのです。

これこそがボッタスに求められていたものでした。なにがなんでもルイスに勝ちたい。絶対に順位を明け渡さないというボッタスの強い意志が感じられた走りでした。これでいつもはハミルトンの後ろで不利な走りを強いられてきたボッタスが、ハミルトンに対して有利な位置を取ることに成功しました。

そして13周目まではすべてが順調でした。このままボッタスが優勝してもおかしくはありませんでした。しかしたったひとつのミスが全てを狂わしました。この日のニュルブルクリンクは気温が10度ほどしかなく、F1レースをするなかでは最も低い気温の部類でした。まるで冬のバルセロナテストのような気温です。だからタイヤを動作温度領域にとどめておくのがとても難しい状況でした。そんな状況でしたからストレートを走って冷えたフロントタイヤでのターン1のブレーキングはとても難しい状況でした。

ボッタスは激しくフロントタイヤをロックさせコースアウトして、ハミルトンに順位を譲ります。しかもタイヤロックが激しかったので、安全性も考えてそのラップの終わりにタイヤ交換も余儀なくされました。ただこの時点でボッタスは優勝を諦める必要はありませんでした。先にタイヤ交換したボッタスがハミルトンをアンダーカットする可能性もありましたし、ツーストップにすることも可能でした。ところがそんなボッタスに不運が襲います。

ライコネンとラッセルが接触し、ラッセルがパンクしてコース脇で止まったしまったのです。これでVSCが表示されます。VSCが入った間にタイヤ交換したハミルトンとフェルスタッペンはロスタイムを大幅に少なくできました。これでボッタスのアンダーカットは難しくなりました。しかもこの直後ボッタスはパワー不足を訴えます。彼のMGU-Hが機能しなくなったのです。メルセデスはソフト的にいろいろ回復させようと試みましたが、元には戻りませんでした。

原因がわからなかったチームはここで今回投入した新品のPUを破損させたくはなかったので、ボッタスをピットインさせてリタイヤさせる判断をしました。これでハミルトンのレースは一気に楽になったと思われました。

トラブルを抱えながらも91勝目を記録したハミルトン

▽問題を抱えていたハミルトン
ただ状況はそこまで楽ではありませんでした。まずハミルトンはタイヤ交換前には4秒以上のリードがあったのですが、タイヤ交換後は2秒にまで縮まっていました。しかも交換した直後にハミルトンは交換した新品のミディアムに悪い感触を感じていました。

しかもハミルトンはハンドルに少し違和感があり(少しガタがあったようです)、それもハミルトンを苦しめていました。土曜日の時点でハンドルのガタには気がついていましたが、基本的に土曜日の予選後はパーツが故障していないと交換が認められません。メルセデスはFIAにハンドルの交換を申請しましたが、却下されたのでハミルトンは違和感のあるハンドルのままチェッカーを目指さなければなりませんでした。

しかしそれでもハミルトンはミディアムタイヤを動作温度領域に入れるとフェルスタッペンとの差を12秒以上に広げていきます。これで優勝の行方はほぼ決まりました。問題はもう一回タイヤ交換するかどうかです。

メルセデスはフェルスタッペンがタイヤ交換すればするし、しなければワンストップという考えでした。10秒以上リードしているわけですからリスクを冒す必要はありません。ところが44周目にノリスがコース脇でストップし、セーフティカーが登場して、ほぼ全車がタイヤ交換することになりました。

そしてここから再びレースはリセットされました。といってもハミルトンにはほとんど影響がありませんでした。とにかく低い気温でタイヤの温度を保つのが容易ではありませんでした。いつもセーフティカーが遅いと文句をいうドライバーですが、この日は深刻な状況でした。ここでもメルセデスは有利に戦いを進めていました。彼らにはDASがありフロントのタイヤの角度を変えることにより、タイヤに与える負荷を強くしタイヤ温度を上げることができました。

そのため再スタート後もなんなくリードを広げます。ただフェルスタッペンは違いました。フロントタイヤが冷えた彼は最終コーナーでフロントタイヤをロックアップして、3位を走るリカルドにアタックされます。ただフェルスタッペンはなんとか順位をキープして、タイヤ温度が上がった後はリカルドを離していき、最終ラップには意地のファステストラップを記録して一矢を報います。

ルノーに復帰後初表彰台をもたらしたリカルド

▽リカルド ルノーに初表彰台
フェルスタッペンを抜くことはできなかったリカルドですが、その後はペレスとのバトルに勝ち、ルノーに移籍後、初の表彰台を獲得しました。この3位表彰台にも少しのドラマがありました。

16周目のVSCでタイヤ交換をしたリカルドでしたが、実はこのVSCはすぐに解除されたのでハミルトンとフェルスタッペンはロスタイムを削減できましたが、リカルドがピットインしたときにはVSCが解除されておりタイムのゲインはありませんでした。

28周目にタイヤ交換した4位を走るペレスは毎ラップ1秒ほど差を縮めてきて、リカルドは不利な状況でした。ところが44周目にセーフティカーが登場しほぼ全車がタイヤ交換したことにより、ペレスとリカルドの条件は同じになりました。これはリカルドにとっては幸運に、ペレスにとっては不運になりました。

こうして皮肉なことに来年ルノーを離れるリカルドが、ルノー復帰後初の表彰台をもたらしたのです。

これでハミルトンは通算91勝目。あのシューマッハーの大記録に並びました。レース開催数が増えたとは言え、91勝ってとんでもない記録ですよね。一昔前は最多勝記録って28勝とかだったわけですから。

あと6位のガスリーも素晴らしいですね。予選はうまくいかずにQ2で脱落しましたが、イタリアGPで優勝してからの彼は自信に満ちた走りをしています。それでもレッドブル昇格の話はないようなので、それはまた別の機会にお話ししたいと思います。

そして最後に8位になったヒュルケンベルグ。ストロールが体調不良で、土曜日に急遽呼び出されてフリー走行もなしに、文字通り飛び乗ったのですが、やはりまったくの事前準備がなく(前回乗ったときはシミュレーターに乗れる余裕があった)、予選ではまさかの最下位でした。やはり準備不足かと思われたのですが、決勝では最下位からまさかの8位ということで、彼の実力を再び示すことができました。来年はどこかのシートが得られることを願っています。