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タイヤこそすべて 遅いルクレールが2位になれた理由 アブダビGP観戦記

マックス・フェルスタッペンは、アブダビGPで圧倒的な走りで勝利を収め、2022年のシーズン終わりを飾るにふさわしい形で幕を閉じました。しかし、その背後ではシーズン序盤のライバルだったシャルル・ルクレールが、2ストップ作戦で追い上げたセルジオ・ペレスにに対して1ストップ作戦をうまく決めて、ランキング2位を獲得しました。シーズン最終戦のアブダビGPを振り返りましょう。

年間15勝目でシーズンを締めくくったフェルスタッペン

▽苦戦するフェラーリと好調レッドブル
ブラジルでは初期セットアップのミスから苦戦したレッドブルですが、今回はフェルスタッペンがチームメイトのペレスにトウを与え、フロントローを確保するのを助けながらも、今シーズン7回目のポールポジションを獲得しました。ペレスとランキング2位を争うフェラーリのシャルル・ルクレールは3番手で、彼がペレスを逆転してドライバーズ選手権2位に浮上するためには、レースでペレスの前に出る必要がありました。

ただルクレールの仕事はかなり難しく見えました。レッドブルはフロントロウを独占しただけでなく、レースと同じ時間に走るFP2のロングランペースでもライバルを圧倒していました。フェラーリのミディアムのペースは、レッドブルの同じタイヤの平均ペースより1周あたり0.6秒も遅く、ルクレールは「なんでこんなに遅いんだ」と声を荒げていました。

フェラーリは状況の改善を図るため、レースとは違う暑いコンディションにも関わらずのFP3の開始早々に燃料を多く搭載したマシンを送り出し、データを収集し、セットアップの調整をするためコースへ飛び出していきました。

このFP3での試みによりフェラーリはより小さなリアウィングの搭載を決めました。これはストレートでは有利ですが、ダウンフォースは少なくなり、プッシュするとタイヤのデグレが大きくなります。

いずれにせよ日曜日のレースは、2ストップが有力視されていましたが、もしドライバーがうまくタイヤをマネージメントできれば、ワンストップの可能性もありました。

フェラーリ代表マッティア・ビノットは、「私達がしたことは、レースシミュレーションで燃料を多くした状態で走ることに集中して、多くの周回数を走り、レースでの正しいバランスを確認することだった」と説明しました。「そしてクルマのバランスとドライバーの能力が、最初のスティントのペースとともにレース全体の速さの点で違いを生んだと思う」と述べました。

しかし、レースが実際にどのようになったのか含め、ゴールにたどり着くま多くのストーリーがありました。

ギリギリのところでタイヤをもたせてランキング2位を確保したルクレール

▽フェラーリの作戦とレッドブルの反応
まずは重要なスタートです。レッドブルの2台とルクレールは上手く蹴り出しましたが、ペレスがその後の中間加速に優れ、最初のターン1でフェルスタッペンのインに入れそうなほどでした。しかしチームメイトと接触するリスクを冒すことはできないので後退し、フェルスタッペンはターン1を抜けてトップに立ち、その後はピットストップ以外でリードを失うことはありませんでした。

ルクレールは3番手をキープし、チームメイトのサインツはメルセデスのルイス・ハミルトンの前の4番手からスタートしましたが、スタート直後にハミルトンにパスされて順位を落とします。そしてこのことが、ルクレールのレースに大きな影響を与えました。

1周目のターン1でフェルスタッペンのインを突いたペレスは、コーナーの立ち上がりが厳しくなり、ルクレールが後ろから迫ってきます。そしてターン5の左コーナーで、ルクレールがペレスのインサイドに一瞬入りそうになりましたが、ここで無理はしません。しかし今度はルクレールがイン側からコーナーに入ったので、立ち上がり加速が鈍り、バックストレートでハミルトンに迫られるます。しかしルクレールは薄いリアウィングのお陰でポジションを守ります。

オーバーテイクが仕掛けられなかったハミルトンですが、ルクレールと接近したので、万が一の接触を避けるためにもシケインの手前で保守的に少し早めにブレーキングをしました。ハミルトンはインに飛び込むほど速くもなかったし、かといって飛び込みすぎて立ち上がりを犠牲にもしたくはありませんでした。

そこをすかさずサインツが狙います。ルクレールと同じく軽いリアウィングを搭載したサインツがシケインでハミルトンのインに飛び込みます。このときハミルトンはインサイドのスペースを空けており、フェラーリが出口付近の縁石に向かってアウト側に膨らむと、接触を避けるために高さのあるソーセージ縁石に乗り上げて、一時は空中に浮き、マシンが叩きつけられて、フロアにダメージを負い「少しパフォーマンスを失った」とハミルトンは述べています。ハミルトンはショートカットしてターン7を通過し、サインツの前でレースに戻ります。

このため、1周目を終えた時点でフェルスタッペンがペレスに1.1秒差をつけており、ペレスはルクレールに0.9秒差をつけていたが、ルクレールを脅かし続けるハミルトンがその後ろにいました。

スチュワードは1周目のサインツとハミルトンとのバトルの際に、サインツに他のドライバーをコース外に押し出す違反の可能性があると指摘したが、のちにそれを取り消しています。実際、リプレイを見るとサインツはハミルトンが走れるスペースをアウト側に残しています。そのため、メルセデスはペナルティの可能性を避けるために、ハミルトンにサインツにポジションを返すよう指示し、ルクレールは4周目を終えた時点で4位のサインツに対して1.9秒のリードを獲得しました。

レース序盤は1−2体制のレッドブル。このあと4位以下のバトルがレースに大きな影響を与えた

ルクレールは、「ミディアムでスタートするのは本当に難しかった。特に最初のスティントの序盤ではタイヤを労るためにプッシュできないんだ。最初の数周はルイスがかなり接近していたけど、カルロスにポジションを返さなければならなかった。その時点で少し余裕ができたから、僕はタイヤをうまくコントロールできるようになった。そしてその瞬間から、僕らは素晴らしい仕事をしたんだ」。

この時点で、レッドブル勢はタイヤマネジメントを開始し、フェルスタッペンは3周目に1分29秒台後半をマークしながらも、ミディアムをいたわりながらで1分30秒台後半で走ります。

6周目から8周目までは、フェルスタッペンは1分30秒半ば、ペレスが30秒台後半、ルクレールは31秒台の前半で、フェルスタッペンとペレスはルクレールとの差を広げます。

10周目からはフェルスタッペンが30秒後半にタイムを落とし、ペレスとルクレールは31秒前半でほぼ同じペースでしたが、15周目にペレスはタイヤが厳しくなり31秒後半に下がりフェルスタッペンとの差は広がり、ルクレールとの差は縮まりました。

フェラーリは軽いウイングに交換したことで、大きなメリットを得ていました。「金曜から土曜にかけて一晩でかなり変わった」とルクレールは語ります。レース後の記者会見で「これが功を奏した」と話した彼は、基本的にフェルスタッペンと同じ長さだけミディアムが持続し、一方でペレスは同じタイヤでより少ない周回数で駄目になったことに言及しています。ルクレールにとっては、FP2よりも涼しくなった決勝レースのコンディションが、タイヤのデグラデーションをピレリの予想よりも少なくしたことも、彼のワンストップ作戦を後押ししてくれました。

「チェコは右フロントタイヤを少し消耗していたんだ」とレッドブルのチーム代表のクリスチャン・ホーナーは説明しました。「そして差が開き始めたんだ。それがわずかなセットアップの違いなのか、それともテクニックの違いなのかは分析する必要がある」。

そこでレッドブルは15周終了時点でペレスをピットインさせ、ハードタイヤを装着させます。これにより、ルクレールに自分より速いペレスに勝つチャンスが訪れました。ルクレールはフェルスタッペンがタイヤ交換した次のラップ、21周目にピットインして、ワンストップを狙います。

これでレッドブルは問題に直面しました。ホーナー曰く「ペレスにワンストップで行かせて、このスティント終了時にタイヤが終わるリスクを負うか、もう一度タイヤ交換(ツーストップに)してルクレールにアタックするか、そのどちらかを選ぶことになり、我々はアタックすることを選んだ」。

フェルスタッペンがスティント終盤で31秒半ばまでタイムを落としていたのと、強力なアンダーカット効果でペレスは毎ラップごとに1秒以上差を縮めてきました。そのためフェルスタッペンがタイヤ交換してコースに復帰した時点で二人の差はわずか1.2秒に縮まっていました。

二台で順位を争うメルセデス。ハミルトンの存在がレース左右した

ペレスがアウトラップで(フェルスタッペンより2秒遅い)タイヤ交換していないベッテルに1周も引っかかっていなければ、ペレスはフェルスタッペンをアンダーカットして、レースはまったく違った展開になっていたかもしれません。

しかし、ペレスはアウトラップのシケインでインに飛び込みベッテルを抜いたのですが、奥に飛び込みすぎて二本目のバックストレートでベッテルに抜き返されて、さらに1周抑え込まれます。ペレスはベッテルとバトルを強いられたので、フェルスタッペンがピットから戻ってきたときに前に出ることはできませんでした。

首位に立ったフェルスタッペンは、ワンストップを成功させるための重要なファクターであるハードタイヤを持たせるためにペースを抑えめに走り始めます。ペレスが持っていた2セット目の耐久性の高い新品ハードをフェルスタッペンは持っていなかったので、彼の作戦の選択肢は限定されていました。

フェルスタッペンは「ある程度のギャップがあったから、うまくいったよ」と説明する。「ある時点から、もう少しペースを上げたかった。でも、タイヤが最後まで持つかどうかはまだわからなかったんだ。だから、うまくいくかどうか見てちょっとマネージメントしたんだ」。

しかし、これがペレスを苦しめてしまいました。22周目から31周目まで、ペレスはチームメイトから2.4秒以上離されることはなく、フェルスタッペンのマシンからの乱気流にさらされていました。

29周目、ペレスは「マックスに抑えられている」と言った。このとき、ペレスとルクレールとの差は6.2秒から2.3秒に縮まりました。そして、33周目のスタート時には1.5秒まで縮まりました。このとき、フェラーリは最も重要な作戦を選択しました。

ペレスとルクレールとの差がアンダーカットレンジに入ったので、フェラーリがルクレールに33周目の終わりに、ペレスと反対の作戦を取るように指示しました。つまりペレスがピット・インすればステイアウト、ペレスがステイアウトすればピットインしろという意味です。

古いハードで走り続けることよりも、タイヤ交換して攻めようと考えていたレッドブルはアンダーカットを避けるため、ペレスにピットインを命じました。フェラーリは元から1ストップ作戦を考えていて、ペレスに先にタイヤ交換をさせたいと考えていました。そしてレッドブルはフェラーリの思う通りに反応しました。

自分自身のミスと不運によりランキング2位の座を失ったペレス

フェルスタッペンはハードタイヤで問題もなく快適に最後まで走り、フィニッシュしたときには2位のルクレールに8.8秒差をつけていました。

しかし二度目のタイヤ交換をしたペレスは残り24周でルクレールとの19.8秒差を詰めなければならない状況に追い込まれました。しかもペレスの前にはハミルトン、ラッセル、サインツが立ち塞がります。その後ラッセルとサインツは39周目に二度目のタイヤ交換をしたので前に出られましたが、ハミルトンはコース上で抜かなければなりません。 

45周目にハミルトンに追いついたペレスはバックストレートのシケインでハミルトンを一時は抜きますが、深く飛び込みすぎて立ち上がりの苦しくなったペレスはシケイン後のストレートでハミルトンにDRSを利用されて抜き返されます。そのためペレスはハミルトンを抜くのにもう一周必要になり、タイムをロスします。

次のラップのバックストレートでハミルトンを抜いたペレスは3位に上がり、2位ルクレールとの差は9.6秒となりましたが、第3スティントの最初の10周は1周あたり1秒近くルクレールとの差を縮めていたペレスは、ハミルトンを一発で抜くのに失敗し貴重な1周を失ってしまいました。

残り11周の時点でもペレスの挑戦は続いていました。しかしながらルクレールも苦しい状況に直面しており「フロントがロックし始め問題になり」、「簡単にミスを犯しやすい」と懸念するほどになっていたためレースの結末は予想がつきませんでした。しかしながらペレスは残り1周半となった56周目に周回遅れの(バトル中の)ガスリーとアルボンに追いついてしまい、しかもこの二人は簡単に順位を渡さなかったので、さらにタイムロスをすることになりました。

そしてルクレールはペレスのDRSの脅威にさらされることもなく、1.3秒差でチェッカーを受けました。ペレスが2位のルクレールにチャレンジするチャンスはありませんでした。

こうして、ルクレールはドライバーズランキング2位を獲得しました。

ピレリ タイヤ交換リスト

▽フェラーリの(珍しい)作戦勝ち
「本当にトリッキーだった」とルクレールは振り返ります。「特にハードのスティント終盤は厳しかった。正直言ってとてもいいマネージメントができたんだけれどもね。僕らとしては本当に完璧な作戦の実行だった。自分たちはレッドブルほどのペースはなかったし、僕らの目標は最初からチェコをプッシュして違うことをさせることだったんだ」。

ビノット曰く、軽いウイングに変更することでフェラーリは「非常に良いマシンのバランス」を見つけ、緊迫してはいたが直接のバトルではないレースで求められる繊細なタイヤマネジメントを実行できました。

そして、ベッテルとハミルトンをパスする際のミスによるペレスのタイムロス、さらに同じレッドブルであるガスリーがペレスを簡単に先に行かせなかったという問題もありました。しかし、ペレスは1つの敗因を考えていました。

「第2スティントでマックスの後ろにいたときのことだ」と彼は説明する。「マックスは1ストップ、僕は2ストップでペースが違っていたから、このスティントを最大限に生かすことができなかった。2回目のスティントでプッシュするべきだったのに、できなかったんだ。おそらく、あそこで2秒を失ってしまった」。

フェラーリが優れた作戦でペレスを打ち負かしたことは、チームとルクレールにとって2023年に向けての重要な弾みとなるはずだが、フェルスタッペンは依然として圧倒的な速さをみせました。

実際、レース終盤にはもうひとつ考慮すべきことがありました。それは、ブラジルGPのチームオーダーの混乱のお返しとして、フェルスタッペンが意図的に後退してルクレールを抑え込んで、ペレスにチャンスを与えるかどうかでした。

ペレスは最後の5周に入ったところでチームメイトのポジションを尋ね、エンジニアのバードから「マックスは後退してルクレールを抑えることはできない。そうすればルクレールはDRSを使って君からポジションを守ることができる」と回答されています。いずれにせよ、フェルスタッペンは「それはかなりトリッキーな判断になっただろう」と感じていました。

ヤス・マリーナ・サーキットコースレイアウト

「今季15回目のGPウイナーとなったフェルスタッペンは、レース後の記者会見で「ブロックすることはできるかもしれないが、それはフェアなレースなのか?」と尋ねましたが、彼は昨年ペレスがハミルトンを抑え込んだお陰で、逆転できたことを忘れてしまったのでしょうか。

「これは最高のやり方でなかったのかもしれない。チェコが言ったように、今にして思えば、チームとしてチェコのためにあの中間スティントをもう少しプッシュできたかもしれない。でもそれは、後から言うのは簡単なことなんだ。第一スティントのミディアムでデグラが高かったからその時は、タイヤに少し気をつけなければいけないと思ったんだ」。

ただペレスには自分でチャンスを掴む機会はありました。ベッテルとハミルトンをその周のシケインで一発で抜いていれば、合計2.7秒稼げていたでしょう。そうすればペレスはフェルスタッペンをアンダーカットして、クリーンエアで戻れ、さらに数秒稼げていたと思います。そうなればペレスは計算上ラストラップの3、4周前にクタクタのハードを履いたルクレールに追いつき、チャレンジすることができ、そしておそらくルクレールを抜けたと思います。

「タイヤマネジメントがすべてだった」よくドライバーが言うありふれた言葉ですが、優勝したフェルスタッペンのこの言葉がこのアブダビGPを完璧に要約していたのかもしれません。

アブダビGP 最終結果
ドライバーズ チャンピオンシップ ランキング
コンストラクターズ チャンピオンシップ ランキング