ストレートが長くレッドブル優位と見られていたバクーの市街地サーキットでポールを取ったのは2年連続となるルクレール。そしてトップを快走するルクレールを襲う悲劇。レッドブルの1-2フィニッシュで、ドライバーズランキングでも上位を独占。波乱に満ちた、週末のアゼルバイジャンGPを振り返りましょう。
ポールポジションはまたもルクレールでした。今シーズン8戦中6回ポールポジション獲得。しかも直近は4回連続のポールで予選では他を寄せ付けない走りを見せています。ただそれがレース結果に結びつけられていないのが、最近のルクレールとフェラーリです。
スタートではその不安が的中します。ライトが消えた直後の蹴り出しは良かったのですが、その後の加速が鈍り、ターン1で2位スタートのペレスにインに入られて抜かれます。
日曜日はこの週末で一番暑かったのですが、直射日光で熱せられたアスファルト路面の一部が緩み、ルクレールは蹴り出し後に、その路面でトラクションを失い加速が鈍りました。その間にペレスにインサイドに入られて抜かれます。
これに一番の被害を受けたのはフェルスタッペンでした。彼は上位の中では一番いい蹴り出しと加速を見せましたが、前には失速したルクレール。横には加速するチームメイトのペレスがいて、行き場がない状況で3位に甘んじるしかありませんでした。
その後、トップのペレスは快調なペースで走ります。1周目の終わりには2位のルクレールに1秒以上の差を付けて、早くもDRS圏外に抜け出します。
ペレス独走かと思われた9周目に、ルクレールのチームメイトであるサインツが油圧系のトラブルでリタイヤ。これでレースは大きく動きます。最初はイエローフラッグだったのですが、その後VSCに変更。全車スピードを落とします。
この時、ルクレールがいち早く反応して、タイヤ交換に向かい、ミディアムタイヤからハードタイヤに交換します。ペレスはこのVSCが出たとき、ピット入り口の直前にいたために、通り過ぎてしまいます。この時、ペレスはリアタイヤのデグラの解消をどうするかエンジニアと会話していたのも、間に合わなかった一因となりました。
ただVSCで二人の差は変わらないので、次のラップ終わりにペレスがタイヤ交換すれば、トップで戻れるはずでした。ルクレールのタイヤ交換に5.4秒もかかったので、ペレスはトップで戻れたでしょう。ただバクーのサーキットは1周が長く、しかもVSCで速度が低下しており、サインツがエスケープに避難したこともあり、ペレスが1周終わってピット入り口に入る直前で解除されてしまい、ペレスは走り続けることになりました。もしペレスがタイヤ交換できていれば、デグレの進んだミディアムを交換できていたので、その後のレース展開はまた変わったと思われます。
フェルスタッペンもまた別の理由でタイヤ交換を見送りました。彼はルクレールの後ろについてはいたのですが、DRSを利用してもルクレールを抜くことができませんでした。
これは直線スピードにアドバンテージがあると見られていたレッドブルにとっては驚きでした。フェラーリは旧市街地を通るコーナーの多いセクター2でレッドブルより0.3秒も速かったですが、直線が多いセクター1とセクター3でもタイムの損失を最小限度に止めていました。フェラーリはトラクションのかかりがとてもよく、最高速自体はレッドブルより劣っていましたが、最高速に行くまでの加速区間でレッドブルを引き離し、DRSを使われてもディフェンスに成功していました。
なのでフェルスタッペンはルクレールがピットに入るのを見て、逆の作戦-ステイアウト-で行くことにします。
VSC明けの15周目にトップを走るペレスをフェルスタッペンが抜きます。ただこれはスペインのようなチームオーダーではありませんでした。ペレスはスタート直後からペースを上げており、リアタイヤのグリップを失いつつありました。またペレスはVSC走行中にタイヤの温度を下げてしまい、ペースが上がらなかったので、普通にフェルスタッペンが抜いていきました。当然、ペレスにはフェルスタッペンがアタックしてきたら邪魔しないようにの指示は出ていました。
レース前の予想では20周前後でミディアムからハードに交換するワンストップが最速と予測されていたので、フェルスタッペンはそれに近い18周目にタイヤを交換します。
VSC時にタイヤ交換すると約10秒ほどタイムを稼げます。実際、フェルスタッペンがタイヤ交換した後、ルクレールとの差は12秒ほどあり、9周若いハードタイヤでフェルスタッペンはルクレールを追います。
ところが20周目にルクレールのフェラーリの後方から白煙が出て、彼はマシンを止めます。直近3レースで2度目となるPUトラブルでのリタイヤです。
これでレッドブルの1-2となり彼らを脅かすものはなくなり、レース自体の結果はほぼ決まりました。33周目にこれまたフェラーリのPUを搭載するハースのマグヌッセンが白煙を吐きながらストップし、VSCが出ます。これで後方との差があったフェルスタッペンとペレスはタイヤ交換し、万全の状態でフィニッシュに向かいました。
ではもしルクレールが白煙を吹いて止まらなかったら、フェルスタッペンはルクレールをコース上で抜けたでしょうか。金曜日と土曜日の様子を見ると、ハードタイヤはデグラがほとんどなく、タイヤ交換なしでも走りきれるほどでした。なのでフェラーリが言うように9周古いルクレールのタイヤが最後までもった可能性もあります。ただこの日曜日は週末で一番暑かったので、実際最後まで持ったかどうかは、わかりません。
一方、フェルスタッペンが言うように、ルクレールが走り続けていても逆転できたかというと、それもまたわからないと思います。確かにフェルスタッペンの方が若いタイヤを履いていて有利ですが、最初のVSCが出る前にルクレールの後ろを走っていたフェルスタッペンはDRSを使いながらも抜けませんでした。フェラーリは加速がいいので、長い直線の前半部分ではレッドブルよりも速く、後半に追いつかれてもギリギリリードを守れていました。
だからルクレールがリードを守って優勝できた可能性はあると思います。ただし一度でもルクレールが最終コーナーの加速でミスをすれば、フェルスタッペンが抜くのは容易だったでしょう。
そうすればこのレースはもっと面白いものになったと思いますが、その真相はルクレールの白煙と共に消え去りました。
これでドライバーズランキングは1位フェルスタッペンは変わらないものの2位にペレスが来る展開。コンストラクターズランキングはレッドブルがフェラーリに大差を付けました。
オーストラリアGPでフェルスタッペンがリタイヤしたときには、こんな展開予測できませんでしたね。