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なぜ有利なサインツは勝てなかったのか? カナダGP観戦記

事前の予想ではレッドブル有利と見られていたカナダGP。しかしフェルスタッペンは優勝しポイント差を広げたものの、2位のサインツとは僅差でした。SC(VSCとSC)によりレースが大きく動いたカナダGPを振り返りましょう。

最後は追い込まれながらも今季6勝目を記録したフェルスタッペン

土曜日の予選は雨の中で始まりました。PU交換のペナルティで最後尾スタートが確定していたルクレールはQ1を突破するも無理をせずQ2ではタイムを出しませんでした。フェルスタッペンが予選を圧倒しポールポジション。彼はQ1、Q2、Q3と全セッションで最速タイムを出し、Q3では2位を0.6秒も引き離す大差でした。そんな中、予選を盛りあげてくれたのはベテランのアロンソ。なんと2012年のドイツGP以来のフロントロウを獲得です。

予選はQ1開始時点は路面が完全に濡れていて水がたまっているところもありましたが、予選を通じて路面状況は改善し、途中からはドライ路面も顔を出してきました。そんな中、どのドライバーも走り続けて少しでもいい路面状態でアタックしたいと思っていました。ただ路面は乾いている部分と濡れている部分が交錯する状態であり、アタックしすぎれば滑ってタイムロスをするし、踏まなければタイムが出ない難しいコンディションでした。

となるとQ3の一番最後のアタックが一番路面状況がいいわけで、各車最後のラップで渾身を走りを見せてくれました。そんな難しいコンディションの中、2位になったのがアロンソでした。日曜日のレースはドライが予報されていたので、苦しくなるのはわかっていましたが、マシンの性能差が如実に表れる現代のF1において、一服の清涼剤のようなさわやかさを感じる出来事になりました。

日曜日の決勝レースは、予報通り快晴。スタートもターン1までの距離が短いこともあり上位陣に大きな波乱はありません。ポールポジションのフェルスタッペンがスタートからトップをキープ。1周目の終わりにはすでに2位のアロンソに1秒の差を付けDRS圏外に脱出します。そのまま2位以下を離していき余裕で勝利するかに見えました。

最後追い詰めながらも2位に終わったサインツ

3位スタートのサインツがアロンソをDRSを使って3周目に2位に上がります。5周目までにサインツとフェルスタッペンとの差は3.1秒まで広がりますが、そこから差が縮まり始めます。

土曜日に雨で路面のラバーが流されたので、路面状態は良くありませんでした。さらに金曜日に比べて気温が引くいことも影響して、フェルスタッペンのミディアムタイヤはグレイニングに苦しみ始めます。そして8周目の終わりに2人の差は2.6秒になりました。サインツのタイヤも同様になっていましたが、ペースはサインツにありました。

レース前の予想では20周前後にミディアムからハードに変えるのが理想的と予想されていました。ところが雨の予選で13位スタートだったペレスが8周目に油圧系のトラブル(により変速できなくなり)コース脇に止まります。これでVSCが宣言されます。

VSCがどの程度継続するかはわかりませんでしたが、9周目の終わりにピット入り口にアプローチしていたフェルスタッペンにタイヤ交換の指示が出ます。それを聞いたフェラーリはサインツに対してタイヤの状態はいいし、グレイングは消えつつあったので、フェルスタッペンと違う選択(この場合はステイアウト)するように指示されます。この時点でレッドブルはツーストップをフェラーリはワンストップを選択したことになります。2人はあと1回のタイヤ交換を残していました。つまりフェルスタッペンはコース上で抜くしかない状況です。

VSC時にタイヤ交換するとロスタイムを10秒ほど節約できます。これによりVSCが解除された時点でフェルスタッペンはサインツの6.4秒後方に位置します。タイヤ交換しなかったアロンソを15周目に簡単にパスした時点でのサインツとフェルスタッペンの差は5.7秒でした。

その後の4周は平均0.3秒ごと差に削りますが、サインツのペースも力強く1分17秒台で走れていました。

スタート直後からリードを築くフェルスタッペン

ここで別のマシンが止まります。今度はハースのシューマッハが20周目のターン8のランオフエリアで止まりVSCが宣言されました。ここでフェラーリが動き、タイヤ交換の指示を出します。理想的な周回数でVSCが出てタイヤ交換。フェラーリはラッキーと思われましたが、運の悪いことにチームのピットに戻る最中にVSCは解除されサインツは通常のタイムロスを強いられ、タイヤ交換していないアロンソに前に出られてしまいます。

アウトラップでタイヤ交換していないアロンソを抜いたサインツはフェルスタッペンと9.4秒差でした。この状態でフェルスタッペンがタイヤ交換すれば、トップはサインツです。ただしVSCが宣告されればロスタイムアは12秒ほどなので、フェルスタッペンはあと3秒稼げばトップでレースに戻れます。

アロンソをかわしたサインツはフリーエアの状態になり、新しいタイヤも活かしてフェルスタッペンとの差を縮めます。11周後には2人の差は8.1秒になりました。44周目に2人の差が6.1秒差にまでなったところで、フェルスタッペンは2度目のタイヤ交換に入ります。この時、レッドブルはタイヤ交換してもサインツ以外には順位を失わないと考えていましたが、ハミルトンが予想よりも速くピット出口で並び、ハミルトンに前に出られてしまいます。これでハミルトンが2位で、フェルスタッペンが3位となります。ただフェルスタッペンはアウトラップのバックストレートでハミルトンを簡単にパスします。

最後のバトルを制したのはフェルスタッペン

この時点での2人の差は11.3秒。これをフェルスタッペンは残り26周を掛けて追いかけなければなりません。逆にサインツはフィニッシュまでハードで50周を走りきる必要があります。 

このあと新品ハードの威力もありフェルスタッペンは差を縮め49周目に7.7秒差にします。そして49周目に角田がピット出口で攻めすぎてクラッシュ。今回は本物のSCが出動します。この時点ですでに28周をハードで走っていたサインツはまだ5周しか走っていないフェルスタッペンと、リードがなくなった状態で戦うのは厳しいと考えて49周目の終わりに予定外の2度目のタイヤ交換をします。

これで立場は逆転。6周古いハードを履くフェルスタッペンがトップで、新品のハードを履くサインツが2位で2人の差はほぼありません。そして残り16周でレースが再開されます。DRS圏外に逃げたいフェルスタッペンはセクター1でフェラーリを引き離します。しかしその後の二つのDRSゾーンでフェルスタッペンに迫るサインツ。フェルスタッペンが一度DRS圏外に逃げればサインツは追いつけなかったでしょう。しかし2人は1秒差以内でバトルをします。

フェラーリはドラッグの少ない新型のリアウィングをルクレールに装着していました。これは19位スタートのルクレールの追い越しを助ける為です。その影響もあり、サインツは勝負を仕掛けるほど近づけませんでした。

ジル・ビルニューブ・サーキットのコース図
直線が多くレッドブル有利だと思われたカナダGPだが、フェラーリも速かった

ここではレッドブルの最高速がフェルスタッペンを助けました。ただ本当にフェルスタッペンを助けたのはヘアピン立ち上がりのトラクションでした。この日のフェルスタッペンの低速からのトラクションは抜群でした。本来、この低速コーナーからの立ち上がりはフェラーリが有利なはずです。ところがこのレースではヘアピンの立ち上がりでフェルスタッペンがサインツを引き離し、サインツがその後、DRSを使って近づくものの続くシケインでアタックできるほど近づけませんでした。このあたりのフェルスタッペンの走りは見事でしたね。

こうしてフェルスタッペンは追いすがるサインツを抑え込み、今シーズン6勝目を記録し、チャンピオンシップの差を46ポイント差に広げることに成功しました。

こうしてまたもレッドブルの勝利に終わりましたが、レースを通じたペースはフェラーリの方が上回っていました。ルクレールが19位スタートでなければ、レースはどうなっていたかわかりません。ポイント差は広がりましたが、予選ではまだフェラーリが有利です。そしてレッドブル向きと考えられていたカナダで善戦できたことはフェラーリを勇気づけ、残り13残っているレースに向けて上を向いてカナダを後にできたでしょう。

カナダGP最終結果
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