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肉薄したメルセデスはなぜ勝てなかったのか メキシコGP観戦記

ポールからスタートして優勝したフェルスタッペンの年間最多勝記録となる14勝目でしたが、いつもとは違い簡単なレースではありませんでした。高い高度を味方につけたメルセデスが今年支配的な強さを見せているレッドブルを追い詰めました。ペレスの地元で(いつも)盛り上がったメキシコGPを振り返りましょう。

ハミルトンを接戦を繰り広げながらもシーズン最多勝記録を更新したフェルスタッペン

▽レッドブルに迫ったメルセデスの予選
予選では、圧倒的な強さでタイトルを獲得したフェルスタッペンが今年6度目のポールポジションを獲得しました。しかし、いつもはレッドブルと競り合うフェラーリはその争いには参加しませんでした。そのかわりポールを争ったのはメルセデスの2台です。ポールのフェルスタッペンと4位ペレスの間にラッセル(2位)とハミルトンが(3位)が割って入りました。

メルセデスは予選でポールポジションを獲得したフェルスタッペンを脅かすペースも持っていたことから、これが2022年のメルセデスの進化示すものであったことは間違いありません。その理由は、まずはこのサーキットが存在する高度です。海抜7350フィートという薄い空気の中では空気抵抗が少なくなるために、W13のドラッグ問題は解決されました。

直線ではレッドブルが優勢で、コーナー部分ではメルセデスが優勢でした。2台の差を分けたのは最終コーナーからの立ち上がりでフェルスタッペンがリードし、ポールポジションを獲得しました。ただメルセデスにもチャンスはあり、ここまで予選でレッドブルに近づけたのは今年初めてでした。

しかしメキシコはスタートラインからターン1までの距離が長いので、過去3回はポールが勝てていないレースでした。このレースでは6年ぶりにポールポジションから勝利することができましたが、ターン1への長いアプローチがポールシッターにとっては厳しい状況であったのは間違いありません。

メルセデスはアメリカGPでは、レッドブルのミスで今シーズン初勝利に近づきましたが、今回は実力で2022年の初優勝を成し遂げる可能性があったこととフェラーリが予選でも決勝でも全く冴えなかったことで、このレースはこれまでの19戦とは大きく異なっていました。

まずスタートの蹴り出しは上位勢は問題ありませんでしたが、その後の加速ではラッセルは少し遅れ、ハミルトンの加速が伸びました。右回りのターン1の飛び込みではラッセルがアウト側にいて2位をキープしていましたが、左回りのターン2ではラッセルはアウト側にいたハミルトンに接触するの避けるために、イン側の縁石に大きく乗り上げマシンは跳ね上がります。そのため、コーナーの立ち上がりでラッセルは失速。ハミルトンは前が空いていたので、ラッセルを抜き2位に上がります。さらにラッセルはペレスにも抜かれ4位に落ちます。

スタート直後のターン2立ち上がり。ラッセルはアウト側の縁石に乗り失速。ハミルトンが先行する。

ハミルトンは1周目終了時点でフェルスタッペンから1.4秒遅れていたため、2周後にDRSが作動した際にDRSの範囲内に入ることはありませんでした。これにはソフトを履いたフェルスタッペンに優位がありました。

レッドブルのストレートラインスピードはフェルスタッペンがリードを作るのを助けました。フェルスタッペンは正確に1分23秒台のペースを維持。さらにチームからハミルトンとの差を広げるように指示が出たときはさらに速く走ることもできました。

「確かに彼があれだけ安定していたのは驚きだった」とハミルトンはフェルスタッペンの第一スティントのペースについて語った。「序盤は彼が少しタイヤマネジメントしていたのは確かだけど、そのスティント序盤では彼らが優位に立っているのがわかったよ。でも、終盤になると少しづつ差を詰めていった」

ハミルトンとフェルスタッペンの差は最大で2.4秒まで開いた後、徐々に追いつかれて1.7秒まで縮まりました。スティント終盤で、フェルスタッペンはグレイニングが厳しい状況になったため、タイヤ交換を「数ラップを伸ばす」ことに取り組んでいました。

「最後の数周はソフトタイヤでちょっと厳しかったね」とフェルスタッペンは説明します。「その後、数週をこなすだけで精一杯だった」。

タイヤ交換しして新しいミディアムを履いたフェルスタッペンは、速いタイムを出しハミルトンとの(実質的な)差を広げていきました。もしこのままフェルスタッペンがフィニッシュまで走りきれればハミルトンには勝ち目はありません。

そしてもしフェルスタッペンが二度目のタイヤ交換をすれば、ハミルトンには勝利が見えてきます。

レッドブルとは違い、ミディアムからハードへと交換したメルセデス。

▽メルセデスはタイヤ戦略を間違えたのか?
レース後の記者会見で、ハミルトンは「ソフトだと直感した」と、グリッド上でライバルが装着されたタイヤ(ソフトタイヤ)がわかった瞬間を語ります。

「あの瞬間は、やっかいなことになったなと思った。でも長いレースだから、もしかしたら彼は2ストップになるかもしれないと思ったんだ 」

ソフトタイヤでスタートすることになったフェルスタッペンは、賢明なタイヤマネジメントをする必要がありました。ミディアムは耐久性に優れ、ソフトは100kgの燃料を積んだスティント1ではグレインが発生しやすいからです。これは燃料の比較的軽いフリー走行では発生しませんでしたが、今回のタイヤセットでは、低速コーナーでアンダーステアが発生しやすいので、この現象はさらに悪化します。

「あまり早く暖めすぎず、タイヤを長く持たせるようにした」とホーナーはフェルスタッペンの最初のスティントでの走り方を説明します。第一スティントは25周目まで延長され、フェルスタッペンはグレイニングの影響で左フロントのフィーリングが「死んでいる」と訴えていましたが、彼らはミディアムタイヤでフィニッシュまで使用する必要があったので、できるだけソフトで長く走るように求められました。

ホーナーはミディアムハードのワンストッパーを試したメルセデスの決断を「保守的」と評し、メルセデスもレース後にそれに同意しています。

「もし、もう一度レースができるのなら、ソフトタイヤでスタートしただろう」と、チームのトラックサイドエンジニアリングディレクターであるアンドリュー・ショブリンは言う。「ソフトとミディアムのワンストップの可能性はわかってはいたが、これほどまでに問題がないとは予想しなかった……」。

ただメルセデスがフェルスタッペンと同じタイヤ戦略を取っていたら優勝していかというと難しかったと思います。このレースでは空気抵抗が少ないので、メルセデスのドラッグが大きい弱点が問題になりませんでした。しかしながら特にレースでは、まだレッドブルには性能のアドバンテージがあります。そのため同じタイヤ戦略であっても最終的にはフェルスタッペンが勝っていた可能性が高いと思います。

ただしその場合でも、もう少しメルセデスはできたことが多かったでしょう。彼らは第一スティントでフェルスタッペンの1秒〜2秒後方にいましたから、同じソフトを履いていればアンダーカットを仕掛けることもできたでしょう。しかし実際はハミルトンはミディアムを履いていたので先にタイヤ交換をすることもできず、交換したとしてもハードは温まりが悪くアンダーカットをするには適切なタイヤではありませんでした。

満員の観衆が地元の英雄ペレスを熱烈応援するいつもメキシコGPの風景

そのためメルセデスはできるだけミディアムのハミルトンを長く走らせ、フェルスタッペンとのタイヤのオフセットを大きくしたいところでした。

しかもメルセデスにはもうひとつ問題がありました。先にタイヤ交換をした3位のペレスが好調なペースでまだタイヤ交換をしていないハミルトンとの差を縮めていました。そのためハミルトンはタイヤの調子はいいことを訴えていましたが、メルセデスは29周目にハミルトンをタイヤ交換に戻さなければなりませんでした。そうしないとハミルトンはペレスの後ろで戻ることになり、そうするとハミルトンのレースは難しくなり3位になっていた可能性が高いでしょう。

「タイヤは大丈夫だと言い続けたよ」とハミルトンは最初のスティントを振り返ります。

しかし、この間、ペレスはまだタイヤ交換をしていないフェラーリの2台を抜き、自己ベストを連発していました。そのため、ハミルトンはタイヤ寿命のアドバンテージがあっても、困難な状況に陥っていました。

「ペレスは僕のウインドウに入ってきたんだ」と彼は説明する。「セルジオはすでにストップしていた。彼らは僕よりずっと速かったんだ。だから、もし僕らがもっと長く走行していたら、(アンダーカットされて)セルジオの後ろについてしまって、すべてが終わっていただろう。僕は基本的にレッドブルの作戦にやられたんだ。チームの2台が揃わないと戦略上とても難しいんだ」。

そのためメルセデスは29周終了時点でハミルトンをピットに入れ、ラッセルもトップを走っていた34周目にタイヤを交換しました。2人は第2スティントでハードタイヤを装着することになりましたが、メルセデスは当初、これがレースに勝つための最善の方法だと考えていました。

彼らはミディアムがレース終盤でタイヤが終わり、もう一度タイヤ交換するか、ハードのメルセデスが抜けると考えていました。

ピレリのタイヤ交換タイミングリスト

▽ソフトミディアムのワンストップが成功した理由
レース前の予想では全力でプッシュした場合、2ストップになることが予想されていました。1ストップで走るきるには、タイヤを優しく扱い、スティント終盤までタイヤをもたせて、スライドを最小限に抑える必要がありました。

しかし、メキシコGPのサーキットは、雨が降るリスクもあり、豪雨の可能性もありました。木曜日の夜、激しい降雨に見舞われましたが、その後は雲行きが怪しくなることもなく、週末を通じて数滴の雨に見舞われる程度にとどまりました。

土曜日、フェルスタッペンがポールを取った後にも、雷雨が発生しましたが、その雨は非常に局所的なもので、コースの西側で少量の雨が降ったに過ぎませんでした。

ピレリのモータースポーツ担当のマリオ・イソラは「ここメキシコの路面の進化が激しい」と語り、2ストッパーが望ましい作戦として最終的に浮上しなかった理由を説明しています。「(雨で)ラバーが流されたコースでスタートするのであれば、タイヤのデグラデーションに違った(悪い)影響を与えるだろう」。

決勝日のコースは、予選時の最低気温から10℃、最高気温から3℃も下がっており、路面のラバーも残っていて、リアタイヤのスライドも少なく、気温条件も路面状況もタイヤには優しい状態になっていました。しかし、ソフトタイヤでスタートしたワンストッパーがミディアムに変更することは、レッドブルにとってリスクがありました。

タイヤ交換後にメルセデスを追い詰め、作戦の選択肢を狭めさせたペレス

ハミルトンがメルセデスのハードタイヤでの走行を疑問視し、メルセデスがレッドブルのタイヤがもたない予測を主張している間、フェルスタッペンは落ち着いてレースを進めていました。

フェルスタッペンはライバルの第2スティントを通じ、ハミルトンを平均約0.2秒弱引き離すことができていました。FP1の走行で「あまり感触が良くなかった」と感じたため、フェルスタッペンはハードタイヤを使いたくはありませんでした。

RB18の高いダウンフォースは、空気の薄さによってその効果が薄れるとはいえ、ハンドリングの利点を生かし、タイヤの摩耗を助けます。さらに、縁石にうまく乗ることができたため、重要なスライド要素を最小限に抑えることができた。

「第一スティントのソフトタイヤが外して見た時、タイヤはまだたくさん残っていたんだ」とホーナーは語ります。「ミディアムタイヤは1ストップでいけるという確信が持てた。タイヤを酷使していないとわかったのであとは、彼が今年得意としているタイヤをもたせれば問題ない」。

こうしてメルセデスの望みは叶わず、フェルスタッペンのミディアムは最後まで持ち、ハミルトンを抑えて優勝。この勝利により、フェルスタッペンはシーズンの最多勝利記録を樹立しました。

しかし、メルセデスの戦略は一時的に優勢に見えたし、予選でポールポジションを獲得したフェルスタッペンを脅かすペースも持っていたことから、2022年のメルセデスの進化を示すものであったことは間違いありません。このシーズン、メルセデスが実力でレッドブルを追い詰めたレースは初めてでした。それはシーズン開幕直後の悲惨な状況を考えると、優勝に値する偉業だと思います。

2022年のフェラーリ同様、以前はメルセデスのエンジンがメキシコシティで苦戦することがありました。しかし、チームのボスであるトト・ウルフによれば、「最大限のパフォーマンスを発揮するために限界に挑む」ことで得られた利益も、先週末にメルセデスが真のライバルとなった重要な要因の一つだという。

メキシコGP コースレイアウト図

また、オースティンで持ち込んだフロアとフロントウイングのアップグレードの効果も感じていたようで、ショブリンによると「パフォーマンスが良い方向に進んでいる」のだという。

そのため、メルセデスはハミルトンとラッセルにハードの使用を強く勧めていました。ウルフによれば、メルセデスはタイヤを持たせるためにミディアムでスタートし、計算上ではソフト・ハードは大丈夫でしたが、ソフト・ミディアムでは最後まで持たない」ため、この作戦に出たのだといいます。しかし、ハードの耐久性は確かだが、その「グリップレベルは予測できていませんでした」とイゾラは説明する。

ハンガリーGPのフェラーリ同様、メルセデスの敗因はそこにありました。タイヤライフのオフセットがあっても、速さが足りなかったのです。そして、レッドブルのミディアムタイヤが、レース終盤に大きく落ち込むと予測したことも間違いでした。

メルセデスは「終盤にミディアムが終わると確信していた」(イソラ)といい、ラッセルのファステストラップを狙いのタイヤ交換要請を拒否するほどでした。

メルセデスはペレスがタイヤを使い切ることを願い、最終的にそれが叶わなかったため、ラッセルをピットに入れ、ソフトタイヤで走行して、ファステストラップボーナスポイントを獲得しました。

とはいえメルセデスの作戦が完全に間違っていたというのも違うかと思います。23周目にハードに交換したラティフィのペースは悪くなかったですし、ラッセルのミディアムはタイヤ交換直前にはグリップが落ちていました。34周で終わるミディアムなので、フェルスタッペンがいくら軽くなったとはいえ46周もミディアムで行けないと考えるのは理にかなっています。

ただソフトミディアムのワンストップで走りきれたマシンも多かったですし、ミディアムソフトのワンストップで走りきれたマシンもいました。正解はひとつではありません。ただいいマシンがあれば作戦の幅も広がりますが、追う立場のメルセデスはすべてを完璧に実行しないと、先を走るレッドブルに勝つことは難しいのです。

競争力がまったくなく5位と6位に沈んだ2台のフェラーリ

▽競争力がまったくなかったフェラーリ
今シーズン初めて、フェラーリは予選でも決勝でもレッドブルの脅威となることはありませんでした。ハンガリー、オランダ、アメリカの3レースでもメルセデスに敗れて2位となりましたが、フェラーリは少なくともポールを狙える速さは見せましたし、少ないながらもレースで勝てる可能性はありました。

しかしメキシコでは、予選の速さもレースペースも今ひとつ。この圧倒的なパフォーマンス不足にはいくつかの原因がありました。

「マシンのバランスが良くなかった」とチーム代表のマッティア・ビノットはメキシコGPで見舞われた、ひどいハンドリングについて語った。フェラーリはFP2で低ドラッグ仕様を試したが、ルクレールは2023年用のタイヤテスト中にクラッシュしています。

フェラーリはライバルに比べてマシンを曲げるのに苦労していました。特に縁石に乗り上げると、マシンは暴れていました。しかしフェラーリにはもっと深刻な問題が隠されていました。

今年のフェラーリのPUは性能を求めるあまり、信頼性にやや問題があります。実際、空気抵抗の少ないメキシコのようなサーキットではターボに過剰な負荷がかかるし、冷却でも問題があります。同じく高度の高いレッドブルリンクでサインツが経験した炎上を、より高い高度のメキシコで再現することを恐れてターボの出力を抑えていたため、フェラーリはコーナーを立ち上がるのが遅く、最高速も冴えないと考えられていました。

ビノットは「私たちは効率が悪いというか、少なくともここで最大限のパワーを発揮する能力がなかったんだ」と説明した。

その結果、フェラーリの2台は優勝争いにも表彰台争いにも絡まない孤独なレースとなり、サインツは5位、ルクレールは6位でレースを終えています。

メキシコGP 最終結果
ドライバーズ チャンピオンシップ ランキング