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2011年シーズン総集編 ドライバー編

F1 Grand Prix of Japan - Practice ▽ベッテルと彼のチームは素晴らしい仕事をした レッドブルは最高のマシンを最高のドライバーに提供した。だから勝つのは当たり前と思うかもしれない。だが最高のマシンに乗った速いチームメイトは最終戦の1勝だけである。 今のF1は突出したマシンだけで勝てるほど単純ではない。もしそうならば昨シーズン、ベッテルは今年と同じように楽勝だっただろう。昨年と今年、レッドブルとライバル(特にマクラーレン)との差は同じ程度だった。そしてシーズン後半の差は僅差だった。 にもかかわらず結果は大きく違った。その理由は簡単である。ベッテルと彼のチームは素晴らしい仕事をしたからだ。昨シーズン多かったメカニカルトラブルは最終戦の1回だけ。昨シーズン多かった予選で攻めすぎてミスをすることも少なかった。 昨シーズン多かったスタートでの出遅れもほとんどなし。そして何よりベッテルの走りには隙がなかった。馬鹿げたミスはほとんどない。それに比べてライバルはパフォーマンスにばらつきがあったし、安定しなかった。これではライバルチームは太刀打ちできない。 マシンが良ければ勝てる。確かにこれは真実である。だがマシンだけでは勝ち続ける事はできない。これもまた真実である。 実際、バトンやウェバー、アロンソが獲得したポイント数は昨年のベッテルのポイント数を上回っている。つまりライバルが後退したからベッテルが2年連続チャンピオンになったのではない。ベッテルが進化したから彼は2011年シーズンを圧勝できたのである。 これを見るとF1というスポーツがドライバーを含めたパッケージの優劣を争うゲームである事を表している。昨年もレッドブルは最速のマシンだった。だが ベッテルと彼のチームには経験が不足していた。そしてその経験不足を克服したベッテルは手がつけられないほど、強くなった。 来年もレッドブルがいいマシンを作る事ができれば、同じ事が繰り返されるだろう。ライバルチームはあまり見たくないだろうが。 ▽前半と後半のバトンは別人 ハンガリーGP以降のバトンは素晴らしい。 ハンガリーGPから最終戦までに獲得したポイント数は、バトンが161ポイント、ベッテルは176ポイントで、差は僅かに15ポイントである。これはいかにバトンが後半戦素晴らしいレースをしたかを物語っている。 では今年ハミルトンはダメになって、バトンが良くなったのだろうか。 私はそうは思わない。バトンは相変わらず予選でのスピードが足りない。だからドライのレースで勝つ事が難しい。今年は鈴鹿で勝ったが、残りの2勝は雨絡みのレースである。これは昨年と変わりがない。 ではバトンが好成績を残せたのはなぜだろうか。 それはピレリタイヤが影響している。バトンの走りはオーソドックスでタイヤに無理な負荷を掛けない。だからライバルよりも長い距離を走る事ができる。今年 のピレリタイヤは非常に繊細な扱いを必要としていたので、これはバトンに有利に働いた。だが晴れのレースではグリッドの上位からスタートしなければ勝つ事 は難しい。 だから今年のバトンの好調の原因は彼自身にはなく、外部要因にあると考えている。もちろんバトン自身は能力の高いドライバーであるのは間違いがない事は大前提としてある。 来年、ピレリはタイヤの構造とコンパウンドを変えてくる。これにバトンがどう対応するのか注目である。 ▽アロンソは今年も素晴らしかった 昨年も決してベストではないマシンをドライブしながらも、最終戦直前までランキング・トップだったアロンソ。 今年もまた3番手に過ぎないマシンを操りながら彼は最速のレッドブルのウェバーと僅か1点差の4位。バトンとの差もわずかに13ポイント差。これは驚異的な仕事である。 彼の仕事に対する取り組み姿勢もまた素晴らしい。 彼は勝てないときも、チームだけのせいにはしない。彼は常に我々は進歩しなければならないと言う。彼はチームを代表するエースドライバーであり、成績が伴わないときに一番プレッシャーを受ける立場にもかかわらず、そこから逃げはしない。 このアロンソの態度がフェラーリをどれほど救っているか、計り知れない。 ▽去年と今年のウェバーもまた別人である 彼の獲得ポイント数は昨年を上回っている。これは彼が1勝しかしていない事を考えると、不思議である。 昨年の彼は4勝を上げて、最後までチャンピオンシップを争った。 今年の彼は最終戦でベッテルに道を譲ってもらわなければ、勝てなかった。昨年、あれほどベッテルを苛立たせたウェバーはどこに行ってしまったのだろうか。たった1年間でベッテルとウェバーは、これほどまでに差がついたのだろうか。 例えばベッテルは昨シーズン終了後のテストでマシンをドライビングして、新しいピレリタイヤを走らせていてる。大逆転チャンピオンを決めた直後のことであ る。そしてピレリの工場を訪問してタイヤのことを学んでいる。今シーズンのアブダビGP、オープニングラップでリタイヤした彼はなんと着替えもせずに、そ のままコマンドポストに着席し、レース中にどのような情報を得て、作戦が決定されているかを学んでいる。 さらにはウェバーのデータを見て、彼自身の走りと比較して、改善できる部分はないか考えていたはずだ。これらの事は誰にでもできることである。だが誰でも できることではない。そこにこそベッテルとウェバーの差がある。だから来年、ウェバーがベッテルを苦しめたいのであれば、彼自身も学ぶ必要がある。それが できれば、ウェバーは復活するだろう。 ▽ハミルトンは別人ではない ハミルトンも今年、特に遅くなったわけではない。ドライバーの能力はそんなに急に変わる物ではない。彼が苦しんだ大きな原因の一つにピレリタイヤがあった 事は間違いない。彼は元々アグレッシブな走りが持ち味である。ところがピレリタイヤはブリヂストンに比べて大きな負荷を掛けると途端に性能を維持する距離 が短くなる。 昨年までであればレース中にタイヤをロックさせても、酷くなければ問題なかったが、今年はそうはいかない。さらに予選で攻めすぎて失敗し、グリッドが二列 目三列目からスタートする事も多く、さらにはスタートで失敗する事もたびたびありました。それがマッサとのアクシデントを誘発する事になった。 しかしハミルトンの能力が衰えたわけではない。 だから彼が来年、復活しても驚くべき事ではない。 問題は彼自身にある。彼自身がピレリタイヤを学んで、それを使いこなせるようになれば、彼は再び勝者になれるだろう。 ▽マッサの苦悩はつづくか? マッサは周りから期待され、サポートされていると感じている時には、素晴らしい仕事を見せてくれる。その点では、彼のエンジニアであるロブ・スメドリーは 最高の相棒である。だがチームメイトがアロンソでは、仕事は難しい。アロンソほどチャンピオンシップに全てを注げるドライバーは、他に数名しかいない。 マッサがそのレベルまで到達できるかどうかは、わからない。だが彼に残されている時間は長くない。2012年シーズンに結果を残さなければ、フェラーリで のシートは失うだろう。 今年、ハミルトンと何度も接触したが、これは彼の責任の時もあるし、ルイスに責任がある時もあるし、その両方の時もあった。どちらにせよ接触していい事は何一つない。 例え相手が悪くてもだ。来シーズンが始まれば、今シーズンの事など、誰も話題にしなくなる。残るのは結果だけである。そしてその結果こそがフェリペの欲しい物である。 だから2012年シーズンはマッサにとって、接触して後退することだけは避けなければならない。それを可能にするには、予選で上位に行く必要がある。果たして彼はかつての輝きを取り戻せるのだろうか。それは彼自身しかわからない。 ▽可夢偉は今年も進化した。しかし進化を続ける必要がある 可夢偉は今年、エースドライバーの大役を全うした。 もっとも彼は昨年の前半から、実質的にエースドライバーであり、それは驚くには値しない。 新人のペレスも頑張ったが彼の獲得ポイント数は、可夢偉の半分以下14ポイント。可夢偉は30ポイントである。もちろんペレスは新人ドライバーである。だが過去の歴史を振り返って見ると速いドライバーはどんなマシンでも、1年目でも10年目でも速い。 可夢偉が突然抜擢されたブラジルGPやアブダビGPで活躍したし、ベッテルもデビューレースで入賞した。ハミルトンは初レースで表彰台だった。乗っているマシンの性能により、結果の順位にばらつきはあるものの、速いドライバーはいつでも速いのだ。 そういう意味で今年も可夢偉は見事な仕事を見せてくれた。ザウバーの作戦が保守的で苦しんだ事もあったが、これは中堅チームでは致し方ない。中堅チームはマシン作りでも作戦面でも保守的にせざるを得ない。 一つ上のポジションを狙って、全てを失うより、今のポジションをキープして確実にポイントを獲得する事が、チーム存続のためには必要不可欠だから。これは チームに染みついたDNAの様なもので、なかなか変える事は難しい。だからザウバーはいつもそこそこの成績を残す物の、上にもなかなか上がれないのであ る。だから可夢偉がもう一つ上にステップアップするためには、ザウバーを出る必要がある。 だがザウバーを出て、トップチームに移籍しても大変である。トップチームで勝てなければ、勝てないドライバーのレッテルを貼られて、二度とトップチームと契約する事はできない、厳しい世界である。 彼は優れたドライバーである事は間違いない。良いマシンに恵まれれば、彼は勝つことができるだろう。しかし、チャンピオンになれるかどうかは、わからな い。優れたドライバーであるだけでは勝てないのは、過去に勝てなかったドライバー、チャンピオンになれなかったドライバーを見ればわかる。 勝つためにはレースディスタンスを安定してミスなく走る能力が必要で、チャンピオンになるためにはそれをシーズン通して実行し、さらにマシンの開発にも積極的に関わらなければならない。 F1に才能のないドライバーはいない。 だが全てのドライバーが同じ能力でもないし、全身全霊を掛けてチャンピオンを狙っているわけでもない。だからこそドライバー間の差が生まれてくる。 その点で可夢偉は全く問題ないとは思うが、彼がさらに上のステージに行くには、予選をなんとかしなければならない。彼が決勝レース重視のセッティングをし ている事は、よく理解している。だがそれでも予選のパフォーマンスを向上させなければ、トップチームへの移籍は難しい。速いドライバーが安定性を身につけ る事は比較的容易だあるが、その逆は絶望的までに不可能である。

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