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速さが生んだ悲劇 ー なぜハミルトンは勝てるレースを落としたのか?

_g0_5994-s 確実に勝てたレースを失ったルイス・ハミルトン。チームの判断ミスは明らかであるが、どうしてこのようになってしまったのだろうか。 時計の針をセーフティーカーが入る時点に巻き戻してみよう。この時点でハミルトンと2位ロズベルグとの差は25.6秒あった。これならばタイヤ交換してもトップに戻れる差である。だからチームとしてはタイヤ交換してもポジションをキープできると判断した。 ところがタイヤ交換をしたハミルトンは、ベッテルの直後で戻ってしまった。どうしたのであろうか。通常2位に対して25秒ギャップがあれば、ポジションをキープできるはずである。 だがここで大きな誤算があった。ピットに入る直前にハミルトンはセーフティーカーに追いついてしまい、ここでタイムをロスした。さらに決定的だなったのが、ハミルトンのタイヤ交換がミスなく終わった直後だった。後ろからピットに入ってきたマシンが一台あり、これを先に行かせるために、ハミルトンのリリースが一瞬遅れたのである。この余分な静止時間は約0.8秒。 もしこの0.8秒を失っていなければ、ハミルトンは確実にトップで戻れていた。こればかりは不運としかいいようがない。 ではこの作戦ミスは誰に責任があるのであろうか。もちろん第一の責任者はチームである。だがこれはハミルトンが余りにも速かったために起こった悲劇とも言える。ハミルトンとロズベルグのマシンは同じであり、通常であれば、25秒もの大差はつかない。もしハミルトンとロズベルグとの差が10秒程度しかなければ、ハミルトンをピットへ戻すという判断は絶対にしなかった。だが二台の差は25秒もあった。これならタイヤ交換しても、トップでも戻せる。そうチームは考えた。だが実際はいろいろな不運が重なり、最悪の結果となった。 だがモナコはとにかく抜けないコースである。後ろのマシンが1秒速くても抜けない。3秒速くても抜けないだろう。そういうコースでそこまでリスクを冒す必要があったのであろうか。 この時、一番怖いシナリオは2位や3位のドライバーがタイヤ交換することである。だがこの時、ベッテルは後ろにマシンがいてタイヤ交換することはできなかったし、ロズベルグも同じ状況であった。後ろのマシンが先にタイヤ交換すると、その1周後にハミルトンがタイヤ交換した場合、抜かれる恐れがある。だからハミルトンは先に動いたのだろう。 チームとしては数周しか走っていないスーパーソフトタイヤを履いてハミルトンがトップで戻れば、再スタート後でも絶対的に有利で、ルイスの勝利を確実にするために、タイヤ交換を指示した。 だがタイヤ交換をする必要はなかった。ポジションさえ失わなければ、後ろのマシンが速くても抜けないのがモナコである。 それまでの大差がなくなるのは痛いが、この日のハミルトンであれば、タイヤ交換しなくても、再スタート後も悠々と逃げ切れていたのは間違いない。例えロズベルグとベッテルが新しいタイヤを履いていてもである。そしてそのことはハミルトンが抜けなかったことで証明されてしまった。 つまりメルセデスは冒す必要のないリスクを冒してしまったのである。もし成功していればさすがメルセデスと言われただろうが、今回は完全に裏目に出てしまった。 速すぎた故に起こった悲劇。どんなに強いチームでも完璧はないのである。