2006 Rd.7 モナコGP観戦記
▽ミハエルは故意に止まったのか?
予選終了後、驚愕の裁定が下された。
なんと、予選でポール・ポジションを奪ったミハエル・シューマッハーの予選全タイムを取り消すというのだ。
これによりミハエル・シューマッハーの最後尾スタートが決まった。
ここで最大の焦点はミハエル・シューマッハーが故意に止まったのかという点だ。
FIAは故意に止まり、他のドライバーのタイムアタックを阻害したとして、予選タイムの取り消しを決定した。
問題は誰が、どういう事を根拠に、この行為を故意であると断じたかだ。
VTRを見ると、ラスカスの最初の侵入でオーバーステアが出て、カウンターを当てている。
マシンがイン側のガードレールに近すぎ接触しそうになったので左にハンドルを切り接触を避けたように見える。
それによりラスカスを曲がりきれなくなり、今度は外側のガードレールに接触しそうになったのでマシンを止めた。
リバースギアに入れて動かそうとしたが、エンジンがストールした。
VTRを見る限り、故意には見られない。
車載カメラのハンドルの動きはミハエルがカウンターを当てる姿を写していた。
もし、故意に止めるのならばあんな止め方はしないだろう。
さらに、ラスカスで止めて後続車にぶつかられた場合、スペアカーに乗り換えなければいけないし、エンジン交換の可能性も出てくる。
そうなると、ミハエルはポール・ポジションをとっても意味がないだろう。
そう考えるとミハエル・シューマッハーが故意に止める動機がよくわからない。
ミハエル・シューマッハーとフェラーリは今回、調子が良かった。
予選で、ミハエルはアロンソより多くの燃料を搭載していたにもかかわらず、ほぼ同レベルのタイムを記録していた。
燃料搭載量やレース中のラップタイムを見ると、ミハエル・シューマッハーはポール・ポジションでなくても、今回勝てた可能性が高かった。
確かにミハエル・シューマッハーは以前もジャック・ビルニューブに故意にぶつけてチャンピオンを取ろうとした前科はある。
しかし、今回は故意に止める動機がどうしてもわからない。
予選タイム全てを抹消される厳しい処分は珍しいが、ベストタイムを取り消された処分は今までにもある。
もし、故意にこれらの行為をすると、ミハエル・シューマッハーはどういう結果がでるか、十分に想像できたはずだ。
せっかく出したベストタイムを取り消されるリスクを犯してまで、こんな茶番を演じるだろうか?
彼はその時点まで、トップタイムだったのだ。
私にはどうしても故意にやったとは思えない。
FIAは何をもってして、故意にやったと判断したのであろうか?
疑わしきは罰せずが、裁判の基本原理。
根拠のない判決だった。
もし故意ではないとしても他のマシンのアタックを邪魔したのだから、第三ピリオドのベストラップの取り消し処分程度は当然だと思うが、全てのタイムを取り消すのはやりすぎでなかったろうか。
その方がレースも面白かっただろう。
アロンソとミハエルによる一騎打ちの展開を予想していた今年のモナコGPは、この処分でアロンソの独走になると予想された。
▽ライコネンとウェバーがレースを救った
スタートでアロンソがトップを守り1コーナーを抜けた瞬間にレースは、アロンソの独走で終わると思った。
しかし、そんな退屈なレースを阻止したのはライコネンとウェバーだった。
ウェバーは予選二位からスタート。
2周目にライコネンに抜かれ、離されかけたが、そこからリカバーし、三人のトップ争いへ持ち込む。
このままいけば、悪くても表彰台は間違いがないと思われた48周目、突然黒煙を噴き上げストップ、リタイヤした。
排気管が破れて、その熱でワイヤが切れたようだ。
それまで、素晴らしい走りを見せていただけに、本当に惜しいリタイヤとなった。
第二スティントはアロンソより遅くピットインする可能性も高かっただけに、逃がした魚は大きい。
ライコネンは抜けないとわかっているモナコで、アロンソにプレッシャーを掛け続けた。
特にアロンソのリアタイヤが厳しかった第二スティントでは、今にも追い抜かんばかりの勢いだった。
だが、さすがなのはアロンソのドライビング。
抜けないコースであることをよくわかった上で、レースをコントロールし、タイヤが厳しければタイムを落とし、タイヤのグリップが復活すればまたペースを戻した。
そして第二スティントの終盤でアロンソに幸運が舞い込んだ。
ウェバーがコース上に止まったので、セーフティ・カーが入る。
ここで素早くアロンソがピットイン。
ライコネンも同時にピットインしたが、順位は変わらず勝負は第三スティントに持ち越されたと思われた。
しかし、SC走行中にライコネンのエンジンから白煙が上がり、彼のモナコGPは終わった。
エキゾーストの耐熱シールドが燃えてワイヤーが切れてしまったのが原因だ。
実はこのトラブル、初日のフリー走行時にも起きていた。
エキゾーストと耐熱シールドが密着しすぎていたので、耐熱シールド炎上したのだ。
なんともマクレーレンらしくない、ミスだ。
▽ミハエル驚異の追い上げ
予選の全タイムを取り消されピットスタートを選んだ、ミハエル・シューマッハーだったが燃料補給せずにスタート。
スタート直後の混乱を避ける為に、ピットスタートを選んだ。
元々、ワンストップ作戦だったミハエルは燃料を搭載する必要がなかった。
それを考えると、驚異的な予選タイムだった。
それだけにペナルティによる、最後尾スタートは残念だった。
今回もアロンソとミハエルの一騎打ちが見られると思っていただけに。
最終的にホンダのバリチェロに続き、5位でフィニッシュ。
しかし、このモナコGPで最後尾から5位まで持って来るというのは、並大抵のことではない。
結果的に4ポイントを獲得し、被害は最小限度にとどめたが、アロンソとの差は21ポイントに広がった。
それだけに、本当に予選タイムの取り消しは残念だった。
▽またも冴えないホンダ
モナコGPは空力的な問題が、表面化しないサーキットなので、ホンダには期待していたのだが、バトンは入賞できず、バリチェロも4位がやっと。
バトンは得意のモナコで、予選から完全なスピード不足。
予選では第三ピリオドにも進めず、まったく勝負にならなかった。
なんと、リウィツィよりも遅かった!
バリチェロは1ストップ作戦だったが、燃料が減ってもラップタイムが向上せず苦しいレースとなった。
だが、追い抜き不可能なコースをいかし、後続のマシンを抑え続けた。
最終的には上位のリタイヤが相次ぎ、3位まで浮上したが、ピットレーンでの速度超過が判明。
土壇場でピットスルー・ペナルティを受けホンダ移籍後初の表彰台を逃した。
この速度超過違反がバリチェロのミスなのか、メカニカルな原因なのかはわからない。
だがスピードリミッターが壊れたという話しは、あまり聞かないのでバリチェロのミスの可能性が大きい。
ホンダにとっても意味のある、伝統のモナコGPでの表彰台を、ミスで帳消しにされるとなると、本当にがっかりだろう。
ホンダはどこへ行こうとしているのか、全く見えない。
▽初表彰台を逃したツゥルーリと復活クルサード
表彰台を逃したと言えばツゥルーリもそうだ。
だが、彼の場合はトラブルが原因だ。
表彰台フィニッシュまで残り10周のところで、油圧制御系のトラブルでストップしてしまった。
彼にとっては、今シーズン初の表彰台で、初の入賞目前だっただけに惜しいレースを失った。
トヨタにとってもBタイプを投入したレースだっただけに、残念だろう。
バリチェロ、ツゥルーリが消えた後、三位でフィニッシュしたのがクルサード。
今回、ベテランらしい安定した走りで2年7ヶ月ぶりの表彰台フィニッシュ。
レッドブルになってからは、チーム初の表彰台を伝統のモナコGPでもたらした。
予選からコンスタントな、素晴らしい走りだった。
▽アロンソ連勝
ウェバーとライコネンがリタイヤした後は、モントーヤを寄せ付けず、クルーズ状態で独走。
アロンソが連勝で4勝目をマーク。
7戦4勝で、残りの3戦も全て二位だ。
これでミハエルとの差を21ポイント、ライコネンとの差を37ポイントにし、チャンピオン争いで独走状態となった。
こうなると、ライコネンの逆転チャンピオンはほぼ絶望的になった。
本当にルノーの信頼性とアロンソの正確なドライビング、精神力には脱帽する。
抜群の安定感を考えると、ミハエルでも追いつくのはかなり厳しいと言わざるを得ない。
今回、苦手だったモナコGPを制したことで、チャンピオンに大きく前進した。
【編集後記】
ミハエルの予選タイム取り消しで、つまらないレースになるかと思われましたが、ライコネン、ウェバー、クルサードなどの頑張りで、面白いレースになりました。
特にクルサードの表彰台でのスーパーマンマントが笑えた(^^)。
もし昨年だったら、ダースベーターのマントだったのかな?
マスクはかぶる必要ないしね(^^)
- 2006 Rd.6 スペインGP観戦記
- 2006 Rd.8 イギリスGP観戦記
ドライバーの腕よりマシンの信頼性? -モナコGP
ポールポジションだったはずの皇帝、ミハエル・シューマッハーが予選タイム剥奪の最後尾グリッド、その前にマッサという、跳ね馬コンビが最後列に並ぶという事態になってしまいました。どういう作戦でくるとしても、ミハエルの前に琢磨が立ちはだかります!スタート!
いつも興味深い記事を読ませていただいています。
ミハエルへの処分、確かに重すぎたように思います。
おっしゃる通り、「危険行為に対して、第3ピリオドのタイム抹消」程度が妥当であったと私も思います。
いつも、メルマガのF1ハイパーニュースで記事を楽しく読ませていただいています。
確かミハエルはモナコの予選以前のインタビューか何かで、モナコはポールポジションを取る事が重要なのは確かだが、今の自分達(フェラーリ+自分)なら、フロントローに付けられればポールでなくても十分に勝機がある…というような意味のことを自ら言っていたような覚えがあります。車の出来やタイヤの改善に非常に自信を見せていたように感じますから。2、3番手からでも燃料・ピット戦略で勝てると踏んでいた気がします。
なので、確かにあの時故意に車を止めてまで、ポールの死守に執着する必要はなかったと考える方が自然です。まぁ私はミハエルファンなので、彼がそんな事をしない人物だと信じている(昔と違ってオトナになったし)のですが、それを度外視してミハエルを勝つ為には何でもやる「阿漕な人間」だと仮定しても、それでもアレを故意だと判断するには、あまりにも根拠が希薄過ぎるでしょう。ノーペナルティでそのままポールというのは甘過ぎますが、予選全タイム取消しは厳し過ぎて別の他意を感じ、妥当性を低く感じてしまいます。
ところで、モナコであの裁定を下した主要人物が、スペイン人だったという情報もあるのですが…無関係ですかね?(苦笑)。
第7戦 モナコGP
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