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フェルスタッペンがペレスを打ち負かした理由_マイアミGP観戦記

マックス・フェルスタッペンは、Q3最初のアタックでのミスやシャルル・ルクレールのクラッシュによる赤旗で定位置のフロントロウから外れてしまったので、マイアミGPで勝利するためには、普段より多くの仕事をしなければなりませんでした。9番グリッドからF1通算38勝目を挙げたフェルスタッペンは、タイヤマネジメントの卓越した能力によって、チームメイトのセルジオ・ペレスを違う作戦で圧倒しました。

9番グリッドからオーバーテイクを重ねて優勝したフェルスタッペン

Q3での最初のフライングラップのターン5でスライドしたため、フェルスタッペンは予選ラップを中止しました。その後セッション終盤、二度目のアタック中にターン7でルクレールがクラッシュし赤旗中断。事実上フェルスタッペンはアタックできないまま予選Q3を終わりました。フェルスタッペンは目に見えて悔しさをにじませながらも、挽回を期してチームメイトのセルジオ・ペレスがランキング首位に立つのを阻止するため、決勝レースでの目標は「最低でも2位」になると誓いました。

数字的に言えば、マイアミGPでマックス・フェルスタッペンが優勝する確率はそれほど高くはありませんでした。フロリダGPの前に行われた過去のレースのうち、9位から優勝したドライバーはわずか4人で、確率的にいうとわずか0.37%でした。

レッドブルにとってはありがたいことに、彼らには数字的な確率論を超越するマシンがありました。フェルスタッペンは、今シーズンすでに低いポジションから結果に結びつけた実績があります。フェルスタッペンはサウジアラビアGPの予選でドライブシャフトに問題があったため15番手スタートとなりましたが2位になりました。9位からの優勝は、RB19の圧倒的なアドバンテージを考えれば、決して無理な話ではありません。

マイアミのサーキット自体は、再舗装されたコースのおかげで、フリー走行からレースまでの間、変わりやすい路面が続いていました。昨年、ハードロック・スタジアムを中心にコースが作られた後、アスファルトに浮き出た油分を取り除くためにジェットブラストが行われましたが、このクリーンアップ作業は週末に舗装の剥離を引き起こすなど、あまりに強引だと批判されたので、今年は実施されませんでした。しかしその分、金曜日セッションのグリップは失われたままでした。

そのせいで金曜日のミディアムタイヤは散々でした。再舗装されたトラックに異常に高い路面温度のおかげで、ミディアムはほんの数周走っただけで、表面がささくれ立ち、ボロボロになる有様です。ミディアムは再舗装された路面では十分なグリップがなく、横滑りしてグレイニングが発生しました。

ソフトに至ってはレース用タイヤとしては使えないと思われていました。ミディアムは10周ももたず、ミディアム-ハード-ハードのツーストップ予想すらあったほどです。

しかも土曜日の夜に降った大雨で路面のラバーは流されてしまいました。日曜日も雨の予報がありましたが、雨は振りませんでした。しかしながら曇天の日曜日は路面温度が36度まで下がりました。これにより事態は急変し、ミディアムタイヤである程度は長い距離を走れるようになり、ワンストップも可能になりました。ただ問題は簡単ではありません。路面温度は下がりましたが、路面のラバーは流されてしまったからです。

ミディアムで長い距離を走れるようになりましたが、路面のラバーが流されたので、ミディアムタイヤの扱いはデリケートで、右フロントがグレイニングしやすかったのですが、ツーストップにするほどではなくなりました。

フェルスタッペンは、上位に食い込むためには順位を上げていかなければならないので予選後、エンジニアと話し合った結果、1ストップで走るレースで、上位勢が選択するであろうミディアムからハードとは異なるタイヤ戦略(ハード-ミディアム)を取ることにしました。

これで5レース中4回表彰台に登ったフェルナンド・アロンソ

ハードタイヤでスタートすることについて、フェルスタッペンは「かなり強い意見があった」と説明する。「もちろん、チームやストラテジストと議論する必要があった。ミディアム-ハードかハード-ミディアムかは、レースタイムからすると非常に近いと言われていたけど(約3秒ミディアム-ハードが速い)、それは本当に重要なことではなかったんだ。ただハードでスタートした場合、ハードは1セットしかないのでレース序盤に、もしタイヤがパンクとかすれば当然レースは少し厳しくなる。でも、この賭けに出られてよかったよ」

ペレスは、ポールポジションを獲得したことでリスクを冒せず、上位7台と同じミディアム-ハード戦略を選択しました。フェルスタッペンには逆の作戦を試すことで失うものは何もありませんでしたが、彼のチームメイトにはそれがありました。

ペレスはフェルナンド・アロンソがスタートでトップに立ったサウジアラビアGPのスタートの二の舞は避けたいところでした。そのときはペレスがポジションを奪い返したため、結果的には問題にはなりませんでしたが、ハードでスタートすることはその時と同じ現象が起こる危険性をはらんでいました。

ただこの日のペレスはサウジGPよりいいスタートでアロンソを抑えながら、イン側からターン1に飛び込んでいきます。ペレスはアロンソの追撃を防ぐために3周目までに1秒以上の差をつけてDRS圏外に逃げたかったのですが、それはアロンソからのプレッシャーから逃げる目的だけではなく、フェルスタッペンからの追撃をかわすためでもありました。

フェルスタッペンのスタートは比較的ゆったりとしたもので、ボッタスに先行されてしまいます。しかしフェルスタッペンはすぐに安定した走りを見せ、ボッタスとオコンをパスして、マグヌッセンとルクレールによる争いに加わりました。4周目にはいってすぐにフェルスタッペンが3ワイドで第1コーナーに進入し同時にパス。フェルスタッペンは2つポジションを上げました。

これでフェルスタッペンは、クリーンエアで走れるようになり、2周続けてファステストラップを記録し、ラッセルに迫ります。ラッセルは前を走るガスリーに引っ張られ、フェルスタッペンの快進撃はわずかに遅れましたが、8周目にはフェルスタッペンはレッドブルの強力なDRSを使ってターン17でイン側にマシンを入れ、5位に浮上。その1周後、ガスリーをラッセルとほぼ同じ動きでかわして4位に上がります。

ペレスはアロンソとの差を1.6秒にしていましたが、タイヤマネージメントの問題を抱えていました。右フロントタイヤのグレイニングの問題で、ペレスは本来予定していたタイヤ周回数の目標を達成できないかもしれないという不安を抱え、序盤の10周はペースを抑えて走っていました。

「序盤、ミディアムタイヤはとても壊れやすく感じたので、15周目くらいまでタイヤを守る必要があった」とペレスは語った。ペレスは「タイヤを守るのは本当に大変だった。特に右側のタイヤが難しかった。マックスがハードタイヤで迫ってきているのがわかった。あの時点で、レースが難しくなっていることがわかった」

ポールからスタートし優勝するチャンスを逃したペレス

レッドブルのチームボス、クリスチャン・ホーナーは、ペレスの考えには同意しなかったが、ペレスにはもう少しプッシュすることができたとレース後に認めています。

「最初の10周は、ペレスがペースをかなりコントロールしていた」とホーナー。「右フロントに神経をとがらせていたのだと思う。他のチームが少しグレイニングになり始めたのを見たとき、彼は右フロントを守るために自分自身とマシンの中でうまくドライブしていたと思う」

「そして最初の10周を過ぎたあたりからプッシュし始め、リードを築き始めた。レース後に振り返ると彼は第一スティントでもうすこし攻めることができたと思う。ミディアムタイヤはとてもいいタイヤで、フェルナンドはかなり長い距離を走っていたからね」

12周目にはペレスのリードが2.4秒に広がり、アロンソは同郷のカルロス・サインツと3番手を争っていた。フェルスタッペンはこの2人を追いかけ、14周目のターン11でサインツをパスし、43周を残して3位に上った。次はアロンソで、1周後の同じコーナーであっさりと抜いてしまう。これでペレスとの一騎打ちとなりました。

ペレスは右フロントタイヤの寿命を保つのが難しく、”ギブアップ “だと報告していたものの、先頭のレッドブル2台のギャップは4秒をわずかに切っていた状況でした。その後はフェルスタッペンがチームメイトとの差を縮めてきたので、20周目まではリードを守っていましたが、ペレスはハードタイヤへ交換し、そのタイヤでゴール目指します。ただし、フェルスタッペンが楽になったわけではなく、シフトアップが「スムーズではない」と報告していました。

ペレスがハードタイヤの温度を上げると、フェルスタッペンとの差は約18秒で固定されてきました。ペレスはこのハードタイヤで37周を走る必要がありましたが、この差を縮めるにはペースとタイヤマネジメントを両立させることが必要でした。

しかしフェルスタッペンのペースは変わらず、1分31秒台後半のラップタイムをコンスタントに刻み、その差を維持しようとします。ペレスはニュータイヤの最初のラップが速かったこともあり、そのまま差を詰めていきますが、レースが半分を過ぎたあたりから2人のラップタイムは拮抗し始めます。

32周目には、ペレスのピットストップ後の二台の差が最も小さくなり、ペレスがフェルスタッペンに14.8秒まで接近しました。フェルスタッペンはピットストップの目標ラップを達成できないことを懸念し、ペレスがピットストップを行ったあたりから、タイヤマネージメントを開始していました。

路面にラバーインし始め、レースが進むにつれてタイヤの磨耗が少なくなってきたため、フェルスタッペンはペースを上げることを許されました。二台のギャップが最小になると、フェルスタッペンは無線プッシュするように指示され、再びペレスとの差を広げ始めます。45周目のタイヤ交換時には再びリードを広げていました。

「ペースも良かったし、タイヤのケアもできた。そして、クリーンエアになったら、あとは目標にしたラップ数まで走るだけだった」とフェルスタッペンは振り返ります。「たぶんスティントの途中では、目標ラップまで行けるかどうかまったくわからない状態だった。でも、その周回数に近づいたときに、”よし、これならいける “と思ったんだ。それでプッシュし始めたら、また差を広げることができて、それが今日の僕のレースにつながったんだ」

フェルスタッペンが45周目にタイヤ交換を指示された時点で2人の差は18.5秒。ギリギリでペレスがトップに立ったものの、その差はわずか1.6秒でした。そしてフェルスタッペンは46周目には早くもDRSの圏内に入ります。

ペレスは長く走ったハードを履き、フェルスタッペンは新しいミディアムを履くことになり、ペレスは追い込まれました。ペレスはフェルスタッペンがターン17に進入した際にインサイドを確保し、チームメイトにヘアピンを遠回りするように仕向けましたが、それが精一杯の抵抗で、フェルスタッペンは48周目のターン1で再びトップに返り咲きました。

フェルスタッペンがトップに立ちペースをコントロールすると、古いハードを履いたペレスにはもう逆襲の望みはありませんでした。

レース序盤はミディアムタイヤの寿命を懸念していたペレスは、自分の運命を受け入れ、もはや無駄な戦いをしようとはしませんでした。フェルスタッペンは最終ラップに1分29秒708を記録し、ペレスに5.4秒差をつけて38回目のF1優勝を飾りました。

ペレスはレース後、「ハードに交換したんだけど、マックスはとても強いペースだったので、差を広げることができなかった」と悔やみました。ペレスはレース後、「マックスとの差を広げることができなかった。僕たちはコース上でちょっとした戦いをした。でもクリーンだった。今日はチームにとって素晴らしい結果だ。今日はマックスが一番強かったから、彼は勝利に値する」

観客はマイアミで行われたレース前のお祭りで、派手な演出を楽しみましたが、レースはレッドブルのマシンが戦うという、いつもの光景でした。

土曜日の夜に大雨が振らなければ、ミディアムはグレイニングも心配せずに走ることができたでしょう。そうすればペレスはフェルスタッペンが2位浮上するまでに差を広げることが可能で、もう少しバトルをすることができたでしょう。15周目に早くもフェルスタッペンが2位になるのは、ペレスにとっても予想以上に早いタイミングだったと思います。できればペレスはフェルスタッペンが2位に上がった時点で10秒以上の差をつけておきたかったのですが、それは実現できませんでした。

この日のラバーがなくなったレース序盤の路面にはハードは適していました。しかもデグラもほとんどなく、どこまでも走れる勢いでした(サージェントは57周レースで54周をハードで走っています)。一方ミディアムは路面温度が下がって長い距離を走れましたが、状況が悪化した路面ではグレイニングは避けられませんでした。

ミディアムハード、ハードミディアム、どちらの戦略が正解だったにせよ、フェルスタッペンが勝てないという結果はなかったでしょう。彼はタイヤマネージメントの達人であり、暑いマイアミGPで勝利しました。

アメリカらしいショーアップされたマイアミを去り、F1は古き良きイモラへと舞台を移します。イモラは美観も雰囲気も、マイアミの喧騒とはまったく正反対です。レースが多すぎると文句を言っている(私も含めた)人も、このセナの思い出が残るオールドコースでのレースが見られるのであれば、少しは心が落ち着くでしょう。