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2009 Round12 ベルギーGP観戦記part1 天才キミ・ライコネンの輝き

▽スパ・マイスター キミ・ライコネン 彼のことを、スパ・マイスターと呼ぶことに異論のある人はいないだろう。 2004年から3連勝し、昨年もラスト3周目まではトップを快走。 惜しくも急な降雨により勝利を逸したが、今年こうして再び勝者へと返り咲いた。 たばこ広告問題で開催されなかった2006年をはさみ、5レース中4勝はすごい成績である。 ご存じの通り、このスパ・フランコルシャン・サーキットはドライバーの真の能力を問われる屈指の難コースである。 そのスパで5戦4勝は、クラークやセナの4連勝に匹敵する偉業である。 キミ・ライコネンのドライバーとしての能力の高さをこれほどまでに、表している数字はないであろう。 相変わらず予選でのアタックがふるわなかったフェラーリのキミ・ライコネンだったが、彼が勝つ条件は、できるだけ早い段階で二位に上がることだった。 トヨタのツゥルーリが、練習走行の段階からロングランのペースが良かったので、このレースはこの二人の一騎打ちなると予想された。 ツゥルーリが逃げる前に、ライコネンは追いつかなければならない。 キミがハンガリーGPのように上位に上がってくるのに時間がかかるようだと、ツゥルーリが逃げて、トヨタの初優勝も十分に可能だった。 だがキミの速さは私の想像をはるかに超えていた。 確かにKERSが使えるのは大きなアドバンテージだった。 だが、1コーナーのアウト側から強引に抜いていく様は、圧巻。 1コーナーでツゥルーリが接触して後退した幸運もあり、SCあけに、フィジケラを抜いた後は、KERSを活かしながら、フィジケラを押さえ込み、勝利した。 だが、これでフェラーリ復活と完全には言い切れない。 ヨーロッパGPから、新たなディフューザーを投入するなどしていたフェラーリであったが、この勝利はキミの個人的な力の負う部分が多いと思うからだ。 ▽才能の塊 キミ・ライコネン F1には才能を持ったドライバーだけが集まっている。 だからこそ、彼らはこんなにも運転しにくいカミソリの様なマシンを、正確に走らせることができる。 ベルギーGPは、そういった才能があるドライバーだけが集まった、F1という世界の中でも、ひときわ輝く才能の塊「天才」キミ・ライコネンの力を見せつけられたレースだった。 F3も経験せずにF1に上がり、1年目から結果を残し、2年目でマクラーレンに移籍し、その翌年に勝つなどというキミ・ライコネンというドライバーを見ていると、「天才」という人間がこの世の中に存在するということ考えさせられる。 このレースは全体を通じて、フォース・インディアのフィジケラの方が速かった。 第二スティントでハードタイヤを履いたライコネンは、ペースが上がらない。 ラバーがのってきていたレース中盤では、ソフトタイヤでロングランしても問題はなく、フェラーリの選択は結果的に間違いだった。 だが最後に、ソフトタイヤを履いたライコネンは、ハードタイヤを履いたフィジケラを引き離せなかった。 つまりどんなコンディションでも、フィジケラはライコネンよりペースが良かった。 もしKERSがなければ、さすがのライコネンも優勝するのは、難しかっただろう。 1回目のストップが全く同じタイミングだったのにも、驚かされた。 ライコネンは、フィジケラよりも7kgも多くの燃料を積んでおり、これは2周は多く走れる量だ。 つまり、フィジケラは前をライコネンに抑えられていて、省エネモードで走っていたのに比べて、ライコネンはパワーベストで走らなければフィジケラを抑えられず、燃料消費量が大きかったことを想像させる。 では、そんなライコネンを最後まで苦しめた、このレースのヒーロー、ジャンカルロ・フィジケラについて見てみよう。 ▽ヒーローなる時、それはスパ フィジケラ このレースの最大の主役が、フィジケラであったことは間違いない。 もし彼がいなければ、ライコネンの独走優勝としか記憶されないレースとなったはずだ。 フォース・インディアは今シーズン、ここまで好調を持続してきた。 イギリスとヨーロッパGPで大きなアップデートを施してきた彼らだが、そのどれもが大きなタイムアップにつながっている。 初入賞まであと一歩というレースが続いていただけに、彼らが躍進すること自体はそう驚きではない。 だがさすがに、ポール・ポジションを取ったときは驚いた。 予選からフィジケラは好タイムを連発。 Q1トップ、Q2は4位、そしてQ3でもトップとなりフォース・インディア初のポールポジションを記録した。 Q3のポール・ポジションは軽い燃料でとはいえ、彼らがポール・ポジションを取れる実力をつけたことが驚きである。 普通、下位チームがQ3に進出すると保守的に多めの燃料を積んで、決勝重視の戦略をとりがちであるが、彼らは違った。 彼らは予選上位を目指し、軽い燃料で上位グリッドを目指してきた。 そのチャレンジング・スピリットが素晴らしい。 そして、フィジケラのチーム全員の思いをのせた渾身の予選アタック。 チーム初のポール・ポジションを獲得。 2位ツゥルーリとの差はわずかに、0.038秒。 ほんの少しのミスでもあれば、ポール・ポジションは実現しなかった。 素晴らしい走りだった。 そして、迎えた決勝レース。 ポール・ポジションを取りなれていないドライバーが、ポールからスタートするとミスをすることが多いのだが、やはりベテランのフィジケラは違った。 スタートを見事に決めたフィジケラはそのまま、レースをリードする。 彼が不運だったのは、レース序盤でSCが入ってしまったことだ。。 それが理由で、キミとの差を失っていまい、SCがアウトした後にキミにKERSを使って簡単に抜かれてしまった。 だが、これは仕方がない。 ラディオンの立ち上がりからKERSを使われては、フィジケラのできることはあまりない。 それでも、戦うフィジケラはレ・コンブの入口でライコネンに仕掛けるが、無理はせずに2位に後退する。 この辺りの攻めるときと慎重に行くときの、使い分けはさすがにベテランと思わされた。 ただ、SC明けの走りをもう少し工夫すれば、リードを守れた可能性もあった。 ブランシモン手前当たりからスピードの強弱を付け、シケイン手前でブレーキを踏み、そして猛然とダッシュし、キミを引き離してからシケインに突入すれば、もう少しギャップができたはずだ。 また、SC中のタイヤの温め方も、ライコネンに分があったようだ。 フィジケラはシケインの立ち上がりで、アンダーステアが出てスピードが乗らず、1コーナー立ち上がりでも、全くスピードがのらなかった。 SCあけの数周はライコネンの方が速かった。 セクター別のタイムを見ていると、レースを通じてフィジケラの方が速い。 だが、KERSを使うライコネンを抜くのは容易ではない。 しかも、この二台は全く同じピット戦術を用いていた。 一回目、二回目とも同じラップにピットへ戻る二台。 そして、両チームのピットクルーは、共に素晴らしい仕事をした。 特にフォース・インディアのピットクルーは、極限のプレッシャーがかかる状況の中で、フェラーリと遜色のないピット作業を見せてくれた。 ピットでのほんの少しのミスが、全てを台無しにしかねない状況だったので、なおさらその作業の手際の良さが際だっていた。 彼らの、この躍進にメルセデス・ベンツのエンジンが大きく貢献していることは間違いがない。 フィジケラは、第一セクター、第三セクターとエンジンパワーが要求される部分でKERSを使うライコネンとほぼ同じタイムを記録していた。 また、エンジンとギアボックスをメルセデス・ベンツから供給を受けているので、リアエンドの開発に力を注がなくても済む。 その分をエアロダイナミクスに注ぐことができ、それを有効に活用できているのが、今回の躍進の大きな原因の一つだろう。

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