ここ数年、フェラーリとミハエル・シューマッハーが支配する世界が続いた。
特に昨年はフェラーリが圧勝。
フェラーリ支配のF1は永遠に続くように思われた。
ところが今年はまったく違う景色を見せつけられた。
赤の支配から青と銀色が交互に舞う舞台を見ることになるとは、シーズン前には予想もできなかった。
その大きな原因がレギュレーションの変更にあったことは誰もが認めることだろう。
▽大きなレギュレーション変更
今年は大きなレギュレーション変更があった。
空力面では、ダウンフォース量を減らす為、ウィング等の空力的付加物等が規制された。
シーズン前の予想では、ダウンフォース量の削減は25%と言われていたが、実際開幕してみるとルノーは開幕当初からほぼ昨年並みのダウンフォース量を獲得していたようだ。
これで失敗したのはBAR。
彼らは失ったダウンフォースを取り戻す量を昨年のレベルより低く見積もって開発していた。
開幕してみると他のマシンは昨年レベルかそれに近かった。
結果、BARはダウンフォース量が少なく、序盤戦は惨敗。
サンマリノGP以降、ダウンフォース量をある程度取り戻したが結局、シーズン終盤までルノーやマクレーレンのレベルには及ばなかった。
エンジン面での大きな変化は一つのエンジンで二つのGPを走りきらなければならなくなったことだ。
二つのGPで一つのエンジンを使用する変更は概ね各メーカーが対応してきた。
この規則の中でも昨シーズンよりパワーを上げてくるのだから、本当にF1はすごい。
唯一このレギュレーションに泣かされ続けたのはマクレーレン。
何回エンジントラブルで予選10番手降格し、リタイヤしただろうか。
これさえなければライコネンとアロンソのチャンピオン争いはもっと白熱しただろう。
そして、危険と言われた決勝レースでのタイヤ交換禁止。
実際、ヨーロッパGPでライコネンがタイヤにフラットスポットを作り、その振動でフロントのサスペンションアームを破損しリタイヤ。
危険だと批判されたが、結果的にシーズンを通してみるとこのレギュレーションのお陰で、おもしろいレースが増えた。
レース終盤にタイヤが厳しくなれば、グリップが減るので運転が難しくなり、それが多くのパッシングシーンを生み出した。
日本GPでのライコネンの逆転優勝も、タイヤ交換が可能であれば難しかったかもしれない。
▽ルノーとマクラーレンが席巻した2005年
チームを見るとルノーとマクラーレンが圧倒的なアドバンテージを持っていた。
マクレーレンは空力的なアドバンテージと共に、サスペンションも優れていてライバルより柔らかいサスペンションを使用できたようだ。
結果的にトラクションはよくなるので、低速サーキットでも速く、ドラッグが少なくダウンフォース量が多いので高速サーキットでも速い、万能マシンとなった。
今年壊れまくったメルセデスエンジンだがピークパワーではトップクラスだったことは、彼らの名誉の為に言っておこう。
ただ壊れてしまってはどんなにすごいエンジンも意味はないのだが。
マクレーレンのマシンは空力的な効率を考えて、かなり攻め込んだ設計となっていて冷却能力も厳しそうに見えた。
それが多くのトラブルの原因になっている可能性は大きい。
昨年もそうだったが、メルセデスエンジンの品質管理には今年も難ありだった。
このマクレーレンも最初の3戦は苦労した。
1ラップアタックの予選でフロントタイヤが暖まりにくい問題を抱えていたのだ。
タイヤにやさしいマシンがこんな問題を引き起こすとは皮肉だ。
その為、予選順位が上がらず決勝レースでも上位に行けない。
マクレーレンはサンマリノGPでこのフロントタイヤの問題を解決し、ライコネンがポールポジションを獲得し、レースでもトップを走った(結果的に彼はリタイヤ)。
モントーヤは前半、マクレーレンのマシンになじめず苦戦した。
モントーヤはライコネンとドライビングスタイルが違い、全く違うマシンセッティングが必要だったのだが、チーム側がそれを準備することが出来なかったようだ。
ライコネンとサードドライバーであるブルツ、デ・ラ・ロサが同じセッティングを好んでいたことも、モントーヤには不利に働いた。
モントーヤに合ったマシンセッティングが出来た後半戦はライコネンと戦えるようになった。
一方のルノーは序盤、マクレーレンがつまずいている間にスタートダッシュを決め開幕4連勝。
ルノーは昨年、BARとコンストラクターズ2位争いをしている最中に、マシンの開発を中止。
今年用のマシン開発にかけてきた。
サンマリノGPでアロンソがミハエルと押さえ込んだレースは記憶に新しい。
でも今年のアロンソがすごいと思ったのは実は開幕戦のオーストラリアGP。
予選で雨にたたられて後方からのスタートでジャック・ビルニューブに押さえつけられたにもかかわらず3位入賞。
実はこの開幕戦がアロンソのベストレースだったのではと個人的には思っている。
ルノーはマクラーレンより車体の後部に重量を持ってきてトラクション重視のマシン作りをしてきた。
これが中盤戦で裏目に出て、リヤタイヤが厳しくなってしまった。
モナコでリアタイヤがずるずるになり、後退した原因の一つはこれだ。
この為、高速コーナーがあるサーキットではマクレーレンより不利なはずだったが、鈴鹿の130R でのアロンソの走りやシルバーストーンでの走りを見ているとその欠点も克服したようだ。
とにかくルノーはマクレーレンと違い信頼性重視の設計思想が貫かれていた。
信頼性が確保できない部品は絶対に使わないと言う姿勢が一貫していた。
芸術品のようなマクラーレンと実用品のルノーという感じだった。
そしてドライバーズ選手権確定後に、思い切ったバージョンアップをほどこし、速さでもマクラーレンに負けないところを再び見せつけた。
エンジンパワーはトップクラスではなかったが、空力的に効率のいいマシンのおかげで、トップスピードはトップクラスだった。
▽トヨタとホンダ
トヨタは今年、飛躍の年となった。
マシンの力が結果に及ぼす力は大きいが、やはり最後はドライバーだ大事なのだと思わせてくれたのがトヨタ。
ツゥルーリ、ラルフの二人とも今年移籍してきた。
前半はツゥルーリが予選で上位につけ、それを守りきる走りで表彰台を次々とゲット。
ただダウンフォース量が少なくタイヤに厳しいマシンだったので、優勝するまでには至らなかった。
終盤Bスペックが登場してからは、ラルフが好調を取り戻した。
フロントの挙動がクイックになったのがよかったようだ。
ツゥルーリのドライビングには、これが過敏すぎて上手く合わなかった。
BARホンダはレギュレーション変更によって失ったダウンフォース量を取り戻す目標値が低すぎた。
おかげで序盤戦は惨敗。
ようやくマシンをアップデートしたサンマリノGPでダブル入賞を果たすも、意味不明なレギュレーション違反を適用され失格。
続く二戦も出場停止になってしまった。
その後はバトンが頑張り、表彰台と入賞を繰り返したがマクレーレンとルノーには及ばなかった。
やはり設計時の目標値が低すぎると、シーズン中にそれを取り戻すのは厳しい。
佐藤琢磨はトラブルとミスの連続するシーズンだった。
予選順位がいいとミスをし、トラブルで予選順位が悪いと良い走りをするという感じで全然かみ合わないシーズンだった。
BARで優れていたのはエンジンのマックスパワー。
おそれく一番パワーは出ていたのではないだろうか。
それと優れていたのシフトチェンジ機構。
一番タイムロスが少なくシフトチェンジしていたのはBARだろう。
これもホンダが開発したものだが、空力面ではトップクラスからはかなり劣っていた。
▽名門チームの凋落
ウィリアムズは序盤、なかなか良い走りを見せていたが中盤から失速。
パトリック・ヘッドが抜けたあとの技術部門が上手くいかない。
最近、ウィリアムズから技術部門のスタッフ流失が増えておりこれも来年への不安材料だ。
ニック・ハイドフェルドは予想通り良い走りを見せてくれ、たびたびウェバーより上位でフィニッシュした。
昨年、シーズンを圧倒したフェラーリだが今年はあのアメリカGPでの1勝止まり。
この勝利も変則的な物だったから、勝ち星ゼロと考えた方がいいだろう。
この原因は何か一つに特定することは難しい。
まず大きなレギュレーション変更があったにもかかわらず、シーズン序盤を昨年型のバージョンアップで乗り切ろうとしたことだ。
大きくルールが変わったのだから、マシンのコンセプトも大きく変わるはずなのに、フェラーリも他チームのレベルを読み損ねた。
それくらい昨年のできがよかったのは確かだが。
タイヤも大きなレギュレーション変更で影響を受けた。
タイヤ交換なしに決勝レースを走り切らなくてはいけないので、当然タイヤテストで走る距離も長くなる。
300kmのレースを二回のストップで走れば、タイヤテストは100km走ればいいが、これをタイヤ交換なしだと300km走らないとテストできない。
しかしブリヂストンは有力チームがフェラーリだけだったので、シーズン前にできるタイヤテスト量が限られてしまった。
これにフェラーリのニューマシン投入が遅れたことも不運だった。
こうしてフェラーリは悪いスパイラルに陥った。
マシンが悪いのか、タイヤが悪いのか比較対象チームがないなかで判断がつかず、迷走を続けたい一年だった。
もっともサンマリノやハンガリーではタイヤが合っていて、上位で走れたのだからタイヤの影響は大きかったのかもしれない。
またフェラーリもこれまでデザインをしてきたロリー・バーンが引退の準備に入っており、後継者の問題を図らずも露呈してしまった。
現代F1では多数の人間がマシンをデザインするのだが、やはり最後は個人の才能に負っているところが多いのだと実感した。
▽サプライズチームは?
今年一番の驚きはレッドブル。
ジャガーとほとんど変わっていないのに好成績。
ジャガー、おまえはなにをやっていたのだ。
ドライバーを頻繁に変えるのは嫌いだが、最終的にクリエンは自力でシートをキープした。
トップが変わると組織が変わるという好例だ。
さて来年のホンダはどうかな?
▽今年のドライバー評
今年は文句なくアロンソとライコネンの年だった。
どちらが優れているかは甲乙つけがたい。
とくにかく、マシンの調子が良いときのこの二人は手をつけられなかった。
残念ながら、フィジケラにはつらい一年だった。
アロンソにははっきりと差がつけられたからだ。
モントーヤは自分にあったマシンセッティングができた中盤以降はライコネンと競ることができた。
だがモントーヤは得意なサーキットとそうでないサーキットで結果が分かれた。
また周回遅れと絡むなど、軽率な走りもあった。
ミハエルは未だに最速ドライバーの一人だと思うが、今年はマシンが悪すぎた。
来年もう一度出直して、アロンソとライコネンとの争いを見てみたい。
バトンは相変わらず走りは良いのだが、契約問題でお騒がせした。
世界チャンピオンは一人だけでは取れない。
周りの協力が不可欠だ。
こんな状況ではBAR内でもバトンへの感情は複雑だろう。
才能は疑いようがないのだが、周囲にいいアドバイザーがいないのだろう。
だが、結局周りにどういう人が集まるかは本人次第。
周りにいいスタッフがいないというのも、結局はバトン本人の問題だと言っていいだろう。
バリチェロは来年、BARに移籍してくるがあまり期待はしていない。
結局、フェラーリ時代はほとんどミハエルに歯が立たなかった。
チームオーダーもあったのだろうが。
エディ・アーバインもフェラーリ時代の実績をひっさげて、ジャガーに移籍したが泣かず飛ばずで引退した。
バリチェロにはもう少しがんばってもらいたい。
琢磨はとにかくミスが多すぎた。
上位グリッドからスタートすると必ず他のマシンと絡みリタイヤか後退を余儀なくされた。
昨シーズンからの課題を克服することができず、マシンの出来がよくなかったことでそれが増幅された形となった。
敢闘賞を上げたいのが、クルサードとクリエン。
この二人堅実な走りで数多くの入賞を果たした。
クルサードはベテランの味を見せてくれました。
さすがです。
さて、みなさんの2005年シーズン評はいかがだろう。
私はかなり満足なシーズンだった。
やはり二つのチームがチャンピオンを争うとおもしろい。
フィジケラとライコネンの戦いはフェアだったし。
それではつかの間の休息を楽しもう。