シンガポールGPで、ジャンカルロ・ミナルディ氏がベッテルがのるレッドブルの排気音がおかしいと発言。彼はトラクション・コントロール使ってるのではと疑っていたが、本当にそうなのだろうか?
標準化されたECUを使っている現在、誰にも知られることなくトラクション・コントロールを使うことは不可能である。ルノーエンジンの異音は、彼らが気筒を休止することから、発していると思われる。
1台目に通るのがベッテル。4台目のウェバーのエンジン音は他と代わらないことに注目していただきたい。この理由は別のコラムで説明する予定である。
通常8気筒あるエンジンの4気筒を休止すると、当然アウトプットされるトルクが減るわけで、立ち上がりでのコントロールは容易になる。特定の条件の中で気筒を休止させることは合法で、違法ではない。またこの気筒休止はブレーキング時やターンインする時にも有効である。これは他のエンジンでも使えるのであるが、ルノーが一番有効に使っている。気筒休止の技術自体は特に最新技術というわけでもなく、ホンダが一時市販車に採用していた時期もある。
ルノーも気筒休止を昔から実行している。理由は燃費を良くするためである。
ルノーは燃費の悪いメルセデスに比べて3%程燃費がいいと言われている。
たった3%というなかれ。
通常スタート時にF1マシンは150kg程度の燃料を搭載してスタートする。150kgの3%といえば、4.5kgである。平均するとサーキットでのフューエル・エフェクトは10kgあたり0.3秒ほど。つまり10kg余分の燃料を積むとタイムが1周0.3秒ほど遅くなる。わかりやすくするために燃料搭載量が約5kg少ないと考えるとルノーエンジン搭載車は何もしなくても、スタート時点で同じ競争力のマシンより約0.15秒弱も速いことになる。考えてみると、これはすごいアドバンテージである。何もしなくてもこれだけ速ければ、ルノーエンジンを搭載するマシンが多くなるのも当然である。
さらにルノーエンジンは他のエンジンより高温で動く。
これは言い換えると冷却容量が低くてもよく、ラジエーターの面積を小さくできる。ラジエーターの面積を小さくできると、抵抗が少なくなるし、サイドポンツーンのデザインの自由度が上がり、空力的に有利である。
そしてレッドブルにはエキゾーストブローという秘密兵器がある。ただ後方へ吹き出すだけでも一定の効果はあるが、オフスロットルでブローすると更に効果が上がる。これも燃費や温度管理など簡単に真似ができるものではない。
昔のエンジンはパワーがあればよかった。それで勝てる時代もあった。だが今はエンジンもマシン全体の一部であり、パッケージに最適化できるエンジンがいいエンジンである。そしてルノーはレッドブルと一体化し、コンセプトに最適化できているので、レッドブルはルノー以外のエンジンを使う選択肢はない。一時、メルセデスエンジンに交換すると言われていた彼らが静かになったのも同じ理由である。